血が出なくなったので、トカゲの腹を上に向けた状態で下に置いた。
持ってきたシースナイフで腹を裂いていくのだが、これがなかなかに難しい。(汗)
内臓を傷つけないように注意するのだとラノベに書いてあったが実際にやるのは初めてなのだ。
ナイフを腹に沿わすと何の抵抗もなく刃先が沈んでいく。
おわっ! 何だこれ。 この切れ味は尋常ではないぞ。
ナイフ自体はそれなりに使ってきたがこれは次元が違う。
魔法金属なのか? あの女神さま、またとんでもない物を渡してきたなぁ。
神様の感覚はわからん。
まぁ、やるしかないんだ。 やるしか……。
トカゲの腹にナイフを入れ前足の真ん中から穴に向かって割いていく。
途中から刃を上にして皮だけを切り割いていった。ここまでは難なく出来た。
さて、これからが問題なのだ。――グロイよね、やっぱり。
シロも横で応援してくれているはず。
大きく深呼吸を行い。
ふんっ! いざっ参る!
うぉりゃーと気合を入れて手を突っ込み、一気に内臓を引っ張りだす。
息を止めて素早く上に繋がっている食道の部分を握り摘み切除した。
さらに後ろの穴の周りを丁寧にくり抜いていった。
時間にして5分もたってないだろうが……長かった。――本当に長かったよ。
掘った穴に内臓を捨てようとしているとシロが横からクンクンしてくる?
「なんだシロ、コレが欲しいのか?」
俺がそう尋ねると、ブンブンと盛大に尻尾を振っている。
……仕方がない。
持っていたブツをシロの目の前に下ろした。
シロは俺の顔を見つめの、待ての体制に入っている。
おあずけさせているところ申し訳ないのだが、俺の手と身体に浄化を掛けてくれるようシロに頼んだ。
そして少し距離をとってから、
「よし!」
許可をだすと、シロは顔を赤く染めながらも夢中になって食べていた。
そのあとで、シロ自身にも浄化を掛けさせたのは言うまでもないことだろう。
これでなんとかトカゲの血抜きは終了した。
穴を埋めて竈のある方へ戻っていると、野営場の入り口より一台の馬車が入って来るのが見えた。
俺たちが来た方角からだよな。
(ううぅ、良かったよぉ~)
街道には誰ひとり通っていなかったし、すれ違う者もいなかったのでちょっと不安だったのだ。
行商人かな?
冒険者とは違うようだ。
なにやら緊張してきたぞ、話しやすい人だと良いのだけれど。こちらの世界にも馬はいたんだなぁ。
などと考えを巡らしつつも、竈のある所までトカゲをずるずると引っ張ってきた。
馬車のほうは野営場の浅い所に停車した。
馭者の人が引っ張っていた馬をけん引枠から外すと、馬車の後ろにロープで繋ぎとめた。
そして、馬車の中から桶を出してきて馬の前に並べている。
おそらく、水と飼葉を与えているのだろう。
そこまで広い野営場ではないのでこちらの竈から馬車まではせいぜい20mぐらいだ。
俺は竈のそばの岩に腰掛け、シロを撫でながらチラチラと馬車の方を眺めていた。
はっきりいって、する事がないのだ。
向こうが落ち着いたら声を掛けようかと思っているのだが、ただ馭者の人が動き回るばかりでそれ以外の人は誰も出てこない。
馬車の中に気配はするんだけど。
あれれ、もしかして警戒されてる?
「…………」
確かに怪しいかもしれない。
首のない大トカゲをドーンと置いてるのだから。どこかに仲間が居ると思うよな、普通に。
うーん、なんか気まずいよなぁ。どーしたらいいんだろう?
いくら考えても良いアイデアは浮かんでこない。
しかし、出来ればこのトカゲを美味しく頂きたい。
よし、こうなったら当たって砕けろだ!
あまり近づかないで声を掛けてみよう。
そして心細いので、シロちゃんも連れていこう。
――困った時のシロちゃん頼み。
「シロ、あの馬車のところまで行って向うの人と話がしたいんだ。ついて来てくれるか?」
すると、伏せをしていたシロはむくっと立ち上がった。
どうやら、一緒に行ってくれるようだ。
「頼むなシロ」
俺は小さく呟くと、馬車に向かって歩きだした。
馬車まで5mというところで俺とシロは立ち止まった。
馬車のそばで作業をしている馭者の人に後ろから声かけた。
「こんにちはー、ちょっといいですか?」
すると馭者の人の肩がピクッと跳ねた。
体を半身にしたまま首だけをこちらに向けて、
「なっ、何か御用ですかな?」
と、何とも覇気のない生返事を返してきたのだ。
年の頃は30過ぎ、ちょんと口髭をはやしたおじさんである。
「どうも初めまして、俺の名前はゲンです。一人で旅をしているのですがこちらに解体ができる方はいらっしゃいますか?」
俺は努めて明るく話しかけた。
すると、馭者のおじさんは腹を括ったのか、体をこちらに向けて対応してくれた。
「えっ、一人で旅を……? ああっ冒険者の方でしたか。解体なら私でも家内でもある程度は出来ると思いますが」
そう答えてくれた馭者のおじさんは続けて、
「あちらに見えている ”カモドオオトカゲ” ですか? まさか一人で狩られたのですか?」
ここは下手に隠すと逆に怪しまれるので、
「はい! 俺の従魔が仕留めてきました」
と、正直に答えてみた。
シロはブンブン尻尾を振って『ドヤ顔』だな。
まあ、表情で読み取ることはできないのだが。――犬なので。
何か、そう…… 雰囲気だな。雰囲気がドヤッているのだ。
すると馭者のおじさんは目を大きく見開いて驚いている。
『もしかして、そのワンコが?』
とでも言うように、驚き顔のまま無言でシロを指差している。
そんな、言葉を失っているおじさんに俺はウンウンと頷いて返した。
すると、隣でお座りをしていたシロもウンウンと一緒に頷いていたのである。
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