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ショタロシアと日本くんのお話。
戦後日本が再独立してすぐの頃(1952年頃)、ロシアはソ連構成国のひとつでした。なのでその時期のロシアを子供として扱っています。
ということは子供時代のロシアくんと成人日本が絡める時期があったというわけで…
※うちのカンヒュは独立=成人としています
要はショタロシアに懐かれる日本が書きたかっただけです。
某日、某国際会館にてーーー
今日は、世界中の国が集まる大事な会議の日。
会議室までのだだっ広い廊下を、日本は小走りで駆けていた。
会議が始まるまで、あと20分。
まだ時間はあるけど…アメリカさんに呼ばれてるから早く行かないと。
思考に耽っていたからか、この時の僕は、前から向かってくる人影に気づけなかった。
「うわっ!!?」
全身でぶつかって、尻もちをつく。
「痛っ…」
僕が尻をさすっていると、向こう側から呻き声が聞こえた。
被害者がいる。
慌てて起き上がり、座り込んでいる“彼”のもとへと駆け寄る。
「すっ、すみません!お怪我は無いですか!?」
帽子で隠れた目元から、差し伸べた手にじっと視線が向く。
“彼”は無言で首を縦に振って、手を取った。
「よかったぁ…あ、でももし後になって痛みが出てきたら私に言ってください。慰謝料は払いますので!」
立ち上がって、僕の方を見上げる彼。
そこで、ようやく彼の顔を見ることが出来た。
青赤の二色旗、雪国の格好、そして…ソビエトさんのシンボルマーク。
……どこかで見た事のある国旗だ。
「もしかして…あなた、ロシアさんですか?」
正式な名前はロシア・ソビエト連邦社会主義共和国。
あまりに名前が長いのでロシアと呼ばれているらしい。
ソ連さんの後継者であり、今日いらっしゃると聞いている。
けど、まさかこんな所で遇うとは思っていなかった。
そういえば、アメリカさんが警戒しておけと言っていたような…
でも敵意はなさそうだし、まだ子供。そこまで警戒する必要は無さそうだ。
パパっと身なりを整えて、ロシアさんに一礼する。
「お初にお目にかかります。私、日本と申します。以後お見知りおきを」
「…………?」
不思議そうな顔をして、こてんと首をかしげている。
“分からない”と思っていそうな様子だ。
言葉が通じてないのか。
困ったな…僕、ロシア語はあんまり知らないのに。
「Здраствуйте,Я Япония.очень приятно」
(こんにちは、僕は日本です。初めまして)
拙い発音の、うろ覚えの挨拶。
でも、笑顔を浮かべているので、しっかり通じたようだ。
「Здраствуйте!Я …Россия」
やっぱりロシアさんだ。
でも、僕がロシア語で知ってるのこれくらい。
これ以上の会話をどうしようか…
というか、声幼いな。背丈は僕より少し低い位だけど…
えっ、僕、子供とあんまり背丈変わらないってマジ?
…いや、そんなこと考えている場合じゃない。
子供がこんな所に一人。保護者の元へ連れて行くのが先だ。
「ソ連さんはいないのか…はぐれちゃったのかな」
「探しに行きたいけど、会ってる所見られたらアメリカさんに怒られちゃう」
アメリカさんは神出鬼没。
警戒していても、ぬっと背後に現れることもしばしば。
こうしている今も見られていないか心配だ。
この状況、一体どうしたものか…
頭を悩ませていると、静かな彼が、ぎゅっと僕に抱きついた。
お父さんが居なくて寂しくなっちゃったのかな。
そう思ったのも束の間。
頭突きのような勢いで、唇が重ねられた。
ガチッと派手な音を立ててぶつかる前歯。
痛みに眉が歪む。
それと同時に恐怖心が襲う。
く、喰われる!!
まさに、気分は熊に捕食される猫。
生存本能が逃げろと警鐘を鳴らし、突き飛ばす。
気づいたときには、来た道を全力で駆け抜けていた。
一方。突き飛ばされた衝撃に、またもや尻もちをついたまま、ロシアは呆然と前を見つめていた。
日本の背中は、迷いなく遠ざかっていく。
伸ばした手は宙を切り、残されたのは唇の熱と胸の奥にざわめく感情だけ。
「…Япония……?」
掠れる声が空気に溶けた。
その一部始終を廊下の陰から眺めていたソ連は、深く息を吐き、ぽつりと呟く。
「……強引すぎたな。だが悪くない。攻めねば領土は広がらん」
言い聞かせるような独り言。
その横顔はどこか誇らしげで、わずかに目尻が緩んでいた。
「……さすが俺の子だ」
*****
あれから約40年後。
ソ連が崩壊し隠居したことにより、ロシアさんがこれから参加することになった。
その最初の会議の日。
なのに、またもや僕はただっ広い廊下を小走りで駆けている。
またアメリカさんに呼ばれてしまったのだ。
曲がり角に差し掛かった瞬間、現れた大きな影。
しまった、ぶつかる!
しかし、”それ”はブレーキの効かない僕の体を包み込むよう、がっしり受け止めた。
「す、すいません!ありがとうございま…」
「久しぶりだな、Япония…いや、日本」
僕の言葉を遮った低い声。
初めて聞いたはずなのに、響きに懐かしさを感じる。
「ロシア語…ってことは、ロシアさん!?」
勢いよく見上げると、頭ひとつ上の笑顔と目が合った。
でっっっか…もはや壁じゃん。
第二印象がこれでいいのかと思うが本当にこれに尽きる。
そりゃあそうか。あの頃でも僕と背丈がさほど変わらなかったんだから。
「なんだか随分変わりましたね…雰囲気もですが、主に背丈が」
「独立したし、国旗も変わったしな。俺も成長したってことだ」
腕の力を強めるロシアさん。
そして、頬にキスをする。
今度はそっと、優しく。
ふにゃりと細めた紫の瞳は幸せに満ちていた。
「やっと会えた。やっと話せた。今すごく嬉しい」
肌に触れる太い腕と厚い胸筋。
逞しくなった体つきから成長を感じる一方、柔らかい声は母に甘える子供のようで。
彼が大人になりたてなのだと実感する。
そのアンバランスな雰囲気になんだか無性に愛おしさを感じて、無意識に背を撫でていた。
「あと…あの時はすまなかった。お前と仲良くなりたくて…キスは親愛の証だっていうから」
「そうだったんですね…私も逃げちゃってごめんなさい。あまりにも勢いがいいものだから食べられるかと思っちゃって…」
「さすがに化身を取って食おうだなんてしねえよ」
ははっ、と朗らかに笑う彼につられて僕も笑う。
平和そのものな雰囲気は政治的対立を忘れてしまいそう。
「それに…アメリカさんがロシアさんのこと警戒しとけってうるさかったので…」
そう、あの後も、悪いことしちゃったから謝りたいとこのことをアメリカさんに相談したら、めちゃくちゃ心配されたし、とても怒った様子でソ連さんにカチコミしようとしたのだ。
背中にしがみついてまで必死に引き止めたのを、今でも鮮明に覚えている。
「アカのクソガキ…今のうちに潰しとくか」
と本気で言うほど怒っていた理由はわからなかったが…
「………チッ。アメカスの野郎…」
「まあ…あの時は冷戦状態でしたから仕方ないです」
「でも、冷戦もようやく終わりました。それに、あなたが悪い人じゃないって私は知っています」
「政治面ではまだ厳しいかもですが…仲良くしましょう!」
「ああ。これからよろしくな、日本」
互いに腕の力を強めて、抱擁を交わす。
彼の温もりに包まれた腕の中は、二人だけの世界のようだった。
これから、大人になった彼を、沢山知っていこう。
今度はちゃんと、逃げないように。
……逃げる、か。そういえば、何かを忘れているような。
「あっ、そうだ。この雰囲気で言うのもなんですが…アメリカさんの前でお話するのは、しばらく控えて貰えませんか?あの人怒ると面倒なので…」
苦笑いしていると、ロシアさんが呆れた様子で溜め息を吐く。
「アイツ、いつになったら子離れするんだ」
「あなたと違って、全然成長しませんからねあの人は」
「むしろ過保護が加速してるんで、退化とも言えるかもしれません」
もしこの状況を見られたら、確実に引き剥がされて、
「ロシアに脅されてたんだろ。もう大丈夫だ!俺が守ってやるから!」
と意味のわからない励ましをされることだろう。
どうせ、ロシアさんを合法的に攻撃する理由にしたいだけなんだろうけど…
そんなアメリカさんに話をつけるというのはなかなか骨が折れそうだ。
「でも、ちゃんと説得してみせます!堂々と仲良くしたいので!」
「こればかりは手伝えそうにないからな。頼んだぞ」
ロシアさんの大きな手が、そっと僕の頭に触れる。
不思議とその温もりに安心して、思わず目を閉じた。
政治も冷戦も、まだまだ問題は山積み。
けれど――こうして再会できたこと自体が、何よりの希望だと僕は思った。
おまけ『再会まで、あと少し』
高い天井の廊下。
冷たい石造りの床に、俺の足音がコツコツと響く。
もうすぐ、”あいつ”に会う。
ずっと想っていた相手。あの、柔らかい手と声の国に。
曲がり角の手前。立ち止まって、深く息を吐く。
その瞬間――ふと、記憶が脳裏に蘇った。
*****
40年前のあの日。
会議が終わったあと、僕は一人で階段に座っていた。
ぼうっと眺める廊下の景色。
そこであった”あの出来事”が、ずっと頭から離れない。
「Япония。ニホン、か…」
初めて聞いた他の言語。
鈴を転がすような声で、自分の名前を呼んでくれた。
あの人は敵意を見せなかった。むしろ、優しく触れて、笑ってくれた。
それは――絵本で読んだ”お母さん”っていう存在に、なんだか似ていた。
仲良くなりたい。
人見知りな僕が初めて持ったその気持ちは、”一目惚れ”ってやつなのかもしれない。
仲良くなるには、お話するのが一番。
…でも僕の言葉じゃ、きっと通じない。
ニホンはロシア語が苦手みたいだから。
なら、どうしたらいいんだろう……
その時ふと、父さんのある言葉を思い出した。
「親しいヤツとはな、力強く抱き合ってキスするんだ。親愛の証ってやつだ」
親愛の証は、”君のことが好き”という意思表示らしい。
ニホンとはまだ親しいとは言えない。
けど……でも、これなら。
そう思って、ぎゅっと抱きしめて唇を重ねた。
――ガチン!
前歯が、痛い。
次の瞬間、ニホンは僕を突き飛ばして逃げてしまった。
驚かせちゃったのかな?それとも、嫌だったのかな?
でも……もしかして、恥ずかしかっただけかもしれない。
唇に残る感覚を思い返して、小さく笑った。
「ふわふわしてて、やわらかくて…なんか、あったかかったな」
「誰の話だ?」
不意に後ろから低い声がして、びくっと肩が跳ねる。
振り向けば、父さんーーソ連が煙草をくゆらせながら立っていた。
「父さん!」
父さんは煙草を片手に無言で歩み寄ってくると、僕の隣にどっかり腰を下ろす。
「見てたぞ、あのキス。なかなかやるな、お前」
「うん!ちゃんとできたと思うんだけど…」
「でも、ニホン、逃げちゃった」
「ははっ!そりゃ逃げるさ。お前の勢い、頭突きかと思ったぞ」
「えっ、そうだった!?」
頭突きって…そりゃ、ちょっと力加減間違えたかもしれないけど…
父さんだって、いつもあれくらいの勢いでやってたよね?
「でも、親しい人とはキスするって、父さんが言ってたから…!」
「間違っちゃいねぇ」
父さんは大きく頷き、背中をバンと叩く。
「むしろ、あの場でよくやった。言葉も通じねえ中で、行動で示すのは正解だ。それに、アプローチはまず“衝撃”から入るのが基本だからな」
「そっかぁ……よかった」
僕はぱあっと顔を明るくして、ぎゅっと手を握った。
「でも、どうして逃げたのかな?痛かったから?それとも…ニホン、恥ずかしがり屋だったのかな?」
「たぶん、両方だ」
父さんは肩をすくめて、煙を燻らせる。
「ま、あいつは”回りくどい国”だからな。気持ちがあっても、すぐに返してくるタイプじゃねえ。俺たちみたいにストレートなのとは対照的だ」
「……そっか。でも、また会いたいな。今度はちゃんと、お話して仲良くなりたい」
「なら、日本語練習しとけよ。相手に伝わらないと意味がねぇ。で、またぶちかましてやれ」
「じゃあ、次は”君が好き”って、言う!」
「おう」
父さんは煙を吐きながら笑って、ポンと僕の頭を撫でた。
「日本を落としたら、世界半分くらい手に入れたも同然だ。頑張れよ、我が息子」
「うんっ!」
差し出された手をとって、広い廊下を二人で歩く。
きっと、また会える。
そしたら…今度はちゃんと、笑ってくれるといいな。
******
……言えるか、そんなもん
額に手を当て、思わず溜め息をついた。
40年ぶりに会う相手に、開口一番”愛してる”って言える奴がどこにいるってんだ。
ぶちかませ?アプローチは衝撃から?馬鹿か、あのクソ親父。
しかも俺の初キスのせいで、相手にトラウマ植え付けてんだぞ。
大人になってようやく再会って時に、役に立たねぇアドバイスばっかしやがって。
「……ちくしょう、なんであの時、素直に頷いちまったんだよ……」
ぐしゃぐしゃと頭を搔きむしる。
でも、怒りながらも、心のどこかで笑っていた。
ま、でも――
今度は、逃がさない
近づく足音に合わせて、一歩踏み出す。
同時に、角の向こうから飛び込んできたのは、小さな白い影。
再会の時は、もうすぐだ。
P.S.既にご存知の方もいらっしゃるようですが、pixiv垢作りました。
コメント欄にリンクを載せておきます。ウェブ版の方はリンクをコピペして検索してください。アプリ版は…お手数おかけしますがリンク手打ちするか、pixivで#フィン日と検索してください。検索結果上部に出てくるのが私です。
基本的にテラーの再録ですが…たまに加筆修正してたり、pixiv版限定のおまけを載せたりするので、よかったらそちらも見ていってください。今話はpixiv限定おまけを用意しています。
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流石は祖国様…!あの難解な言語を喋れるの凄すぎます!(現在学び中) つよつよで俺様なロシアさんもいいですが、ショタでお母さんと子供みたいな二人の関係もいいですね…
ソ連パパの英才教育大好き。すっげぇパパ黒味を感じる。 しかも初心でかわいい露さんがほんと国宝すぐる。やべぇなコレ!!!!!!!!!!! 露さんには頑張って貰いたいものですね!!!!一生懸命祖國を堕とすんだゾ!!!!
↓こちらがpixivのリンクです。よろしければ見に行ってくださると嬉しいです。 https://www.pixiv.net/users/118892302