秘密基地の夜は、子どもたちにとっては冒険そのものだった。
木々に囲まれた小さな小屋の中に、ランタンの明かりがぽうっと灯り、七人の顔をぼんやり照らしている。外からは虫の声が聞こえ、遠くではカエルの鳴き声が混じっていた。
裕太:「ねぇ、今日の転校生――カスミちゃんって子、笑ってなかったよね?」
裕太が最初に切り出した。
俊哉:「そうそう! なんか、ずーっと俯いてた。俺がちょっと変顔したのに、見てもくれなかった!」
と宮田が大げさに嘆く。
高嗣:「そりゃお前の顔が変すぎて、逆に怖かったんじゃないの?」
と二階堂が笑う。
俊哉:「なんだと! ニカだって授業中に居眠りしてて、先生に怒られてたじゃん!」
高嗣:「それとこれは関係ないでしょ!」
二人のやり取りに、みんながドッと笑った。
だが宏光は、笑いながらも真剣な顔で言った。
宏光:「でもさ、あの子、ちょっと気になるよね。なんか、すごく寂しそうに見えた」
その言葉に、場が一瞬静かになった。
それぞれが今日の花純の姿を思い出していた。机にしがみつくように座り、誰とも目を合わせず、声もほとんど出さない。あの小さな背中が、妙に心に残っていた。
太輔:「よし!」
と突然、藤ヶ谷が立ち上がった。
太輔:「決めた! 俺たちでカスミちゃんを笑わせよう!」
健永:「おおー!」
と千賀がすぐに乗る。
渉:「え、でもどうやって?」
と渉が首をかしげる。
高嗣:「作戦会議だな!」
と二階堂がにやりと笑った。
七人はそれぞれに意見を出し始めた。
俊哉:「俺は変顔! これ最強!」
と宮田。
裕太:「いや、それもう失敗してんじゃん」と裕太。
太輔:「俺はギター弾けるから、歌で笑わせてやる!」
と藤ヶ谷。
宏光:「歌うのはいいけど、お前オンチだろ?」
と宏光が冷静に突っ込む。
太輔:「うるさいな! 気持ちだよ気持ち!」
健永:「俺はマジックができる!」
と千賀がトランプを取り出す。
渉:「え、マジで? すごっ!」
と渉の目が輝いた。
高嗣:「よし、俺は動物の鳴きまね! 犬とか猫とか!」
と二階堂が胸を張る。
健永:「それよりニカ、サルの鳴きまね似合いそうだな」
高嗣:「誰がサルだコラ!」
ワイワイと盛り上がる中、裕太は少し考えていた。
――笑わせるって、どうすればいいんだろう。
変顔も、歌も、マジックも、確かに楽しい。だけど、本当に花純が笑うのは、そういうことなんだろうか。
裕太:「ねぇ」
裕太が口を開いた。
裕太:「俺たちが楽しいって思ったら、きっとカスミちゃんも楽しいんじゃないかな?」
その言葉に、みんながハッとしたように黙った。
裕太:「だからさ、無理に笑わせるんじゃなくて……一緒に遊んで、一緒に歌って、一緒にバカやってたら、自然に笑うんじゃないかな」
宏光が
宏光:「……玉のくせに、たまにはいいこと言うじゃん」
と笑った。
裕太:「ねぇ、たまにはって何!」
と裕太が抗議し、再び小屋は笑い声で満たされた。
こうして、七人の“花純を笑わせ大作戦”は始まった。
ただの子どもたちの遊びの延長のようでいて、それは確かに彼らの心を一つにした。
――そして、それがのちに彼らの青春を支える原点となっていくことを、この時の七人はまだ知らなかった。