4月上旬
太陽の暖かい日差しに照らされる桜が、新入生を祝福するように輝いている。
期待に胸をふくらませる学生達と一緒に歩いている猫がいた。
白い毛をなびかせてながら校門をくぐり、いつもの大きな桜の木の下で眠りにつく。
ここは、人がめったに来ない猫の特等席である。
しばらくし、お昼のチャイムと共に目が覚め、大きな欠伸をしていると、1人の男の子がやって来て猫に話しかけ始めた。
「ねぇねぇ、猫さん隣座ってもいい?」
猫はまた1つ大きな欠伸をし、毛ずくろいをし始めた。
「まぁ、言葉なんて通じないよね。どっこいしょっと」
男の子は、お弁当を広げ黙々と食べ始めた。
綺麗に彩られたお弁当は誰が見ても羨むぐらい美味しそうだ。
その隣で猫は静かに眠り始め、心地よい風と共に、遠くから学生達の遊ぶ声が聞こえてくる。
お弁当を食べ終え、一息着いた男の子は教室へと向かって行った。
帰りのチャイムが鳴り、猫はまたいつもの場所へ向かった。
保健室の窓の前にはちょうど猫が登るに最適な台が置かれている。
鳴き声とともに窓をカリカリ鳴らすと、白衣を着た男性が窓に近づく。
「おーしらたま。今日も来たか、餌だな?待ってろよ」
白衣の男は猫を‘’しらたま”と呼ぶ。
しらたまは、黙々とご飯を食べ始めた。
「今日もいい食べっぷりだな〜、よしよし。でも保健室の中は入っちゃダメだぞ」
しらたまは言葉がわかるのか、「にゃー」と返事をした。
「おおーいい子だなぁ、今日はおやつもあげちゃうぞー」
「にゃーっ!」
ガラガラっ
「お兄!今日からここの新入生になったよー!ほら見て制服!かわいいでしょ?」
「お兄じゃなくてここでは先生な?まぁ可愛いんじゃね?馬子にも衣装ってやつ」
「え?それ褒めてなくない?あっ!その子がしらたまちゃん?」
「そう、君の何倍も可愛いしらたまちゃん」
「もー!ひどい!でも本当綺麗な猫ちゃん」
そーっと女の子が手を伸ばすと猫はぷいっとそっぽを向く。
「無視された…。もうこの子名前は‘’プイプイ”に改名だ!!」
「まぁまぁ、いずれ懐いてくれるよ。ちょっと職員室行ってくるから留守番よろしく〜」
「はーい」
足音が遠くなったことを確認すると、女の子はプイプイに話しかけ始めた。
「ねぇねぇ、プイプイ。歳の差の恋愛ってやっぱり叶わないのかな」
さっきの元気が感じられない、とても悲しげな表情の女の子。
小さなため息をつき、話を続ける。
「お兄に少しでも近づきたくて、この高校頑張って入ったんだけど…まぁでもこれからが勝負だよね!うん!これから毎日学校で会えるし!」
「にゃーっ」
「あっ…こっち向いて鳴いてくれた!応援してくれてるの?ありがとうプイプイ!」
「なんだー?俺抜きで内緒話か?」
「あっ、お兄!プイプイがね、頑張れって応援してくれたんだよ」
「もう仲良しかよ。流石だな〜さて、いい子はもう下校の時間だぞ〜帰れ帰れ〜」
「はーいっ、プイプイも一緒に帰ろっ」
プイプイはその名の通りぷいっとそっぽを向きお尻を見せ寝始めた。
「仲良くなれたと思ったのに…また明日ね、プイプイ。お兄また明日〜」
保健室で静かな時間がしばらく流れた。
陽が落ち始め、男は帰り支度をし窓に近づく。
「ほれ、しらたま〜俺は帰るぞ〜」
しらたまは大きな欠伸をしぼーっとしている。
「お前、さっき何聞いたんだ?教えて欲しいな〜」
「にゃーっ!」
「あははっ、教えてくれてんのかな?ありがとな。あいつのことよろしく頼むよ」
静かになった保健室をしばらく見つめた猫は、少し寂しそうに鳴いてどこかへ去っていった。
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