テラーノベル
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ーー狂座第十二遊撃師団長、及び光界玉探索先鋒隊隊長のガイラは焦っていた。
闇の中視界も効かず、更には周り一面の森林地帯で、自分が今何処に居るのかさえ分からなくなる。
“とても厄介だ……”
夜の闇に紛れて奇襲を掛けるつもりが、このままでは朝になってしまうという焦り。
“ーーというより目的地に辿り着けるのかさえ定かでは無いな……”
「ちっ……森ごと焼き掃えばいいものを」
苛立だしく吐き捨てる様に呟くガイラだが、本部から下された最優先任務は光界玉奪取にある。
この地の殲滅では無い。
勿論、目的を達成したら一族郎党、この地ごと抹消する事になるのは当然事項。
ガイラの焦りはもう一つあった。第十八遊撃師団長シオンの生体反応が消失した事だ。
これは即ち、シオンが殺されたという事の証明と言っていい。
「まさかシオンが殺されるとはな……」
“我々師団長を殺せる程の者が、この地にはいる……”
ガイラは辺りが漆黒の道中、その心中を紡ぎ出す。
“ーー否、油断しただけなのかもしれない。シオンは自分の能力に過信し過ぎるきらいがあった。だが俺は奴とは違うーー俺はどんな弱者も全力で捻り潰す!”
本部からはシオンの予期せぬ死亡からか、戦闘を避けろという指令が追加されていた。
歩み進めるガイラは、その事に対して納得いかない様に、口に溜まった唾液を“ぺっ”と吐き捨てた。
――全く馬鹿げてる!
人間ごときに我々が闘いを避けるだと?
シオンを殺した奴を捜し出して殺すのが、俺にとっては最優先だ!
敵討ち?
冗談じゃない! 師団長同士とはいえ、俺達は仲良しこよしの集まりでは無い。
常にお互い蹴落とし合い、貪欲に上を目指す。だから我々狂座は強い。
俺は必ず戦価を挙げてみせる!
奴の分まで上に上がってみせる!
シオンよ……地獄から俺の活躍を見てるがいいーー
ガイラは一人突き進み、森の中心部まで辿り着こうとしていた。
**********
「……朝?」
ユキは何時の間にか眠りに落ちていた。
「これは?」
そして気付く。自身の身体には、何時の間にか毛布が掛けられていた事に。
辺りを見回すと、アミの姿は近くには無かった。
ユキは刀を持って外に出てみた。外は少し肌寒い位の気温。
日課でもある剣の修練をする為、ユキは村の外れへ向けて歩を進めていた。
ーー自然に囲まれた集落を眺めながら思う。
“どうして此処はこうも美しいのだろう?”と。
彼は今まであまりにも汚い世界を見続けてきた。
血の匂いが立ち込める戦場。殺し合いの場。
此処での光景はそんな彼にとって、とても新鮮に映ったのかも知れない。
ーー集落の外れ。ユキは左手に白き刀ーー雪一文字を携えながら、森の奥地へと歩を進めていく。
余り深く入り過ぎると、迷いかねない程の大森林。
しばらく進むと滝の音が聞こえてくるその場所へと。
ユキは其処で修練する事に決めた。
その場所に足を踏み入れると、見覚えある人影が見える。
「あっ……」
ユキはその姿に思わず目を奪われた。
その美しいまでに長い黒髪が、滝の水しぶきと陽射しで煌めいている。
手を組み合わせ、何やらお祈りをしている様子で、その身体からは形容し難い気質が、光の粒子となって空に上がっていくかの様に。
それはまるで精霊の姿の様な。そんな姿に見えたのだった。
「…………」
ユキは暫し魅入られたかの様に立ち竦む。
その瞳に映るその姿は、紛れもなくアミその者であったのだから。
アミは立ち竦むユキに気付き、笑顔で駆け寄って来た。
「あっ、おはようユキ。ちゃんと眠れたみたいね。でも次からはちゃんと布団で眠る事、いい?」
「……善処します。それより此処で何をしていたのですか?」
不思議そうに問い掛けるユキに、アミにとっては毎日の日課である事を説明する。
精霊達の声を聞き、自然と村の平穏を祈り、その日の感謝を天へと届ける。
夜摩一族の巫女としての精霊舞であった。
「ーーユキはどうしたの? まだ寝てても良かったのに……」
「修練する処を捜していたら、此処が丁度良いと思っただけですよ」
とはいえ彼女の見ている手前、どうも剣の修練はし辛いものがあった。今日は諦めるかと思考を張り巡らせていた時、ハッと思い出したかの様にアミが慌てた。
「あっ! ごめん、朝ご飯がまだだったわね。すぐに作るからね」
朝食の事は別にどうでもいいと思ったが、ユキは昨日の事もあり、口に乗せる事無く此処は大人しく従う事にする。
「じゃあ戻りましょ」
アミが踵を返した時、不意に辺りにつむじ風が起きる。
「つっ!」
刹那、一瞬のかまいたちが、アミの手の甲に裂け目を作っていた。
「この季節になると特に多いのよね……」
血は殆ど出ていない。しかし傷は少し深いと云えた。
「見せてください」
「えっ?」
ユキがアミの手の甲に、自分の手の平を重ねる。
アミは少し驚いた。それは無関心なユキが見せた、小さな関心と思えたからだ。
不意にアミの手の甲に、暖かい何かが包まれる。
“ーーユキの手の温もり?”
勿論それもあったが、何か違った。
アミの手と重ねたユキの手が、何やらうっすらと光っている様に見えたからだ。
ユキはもう終わったとばかりに手を離す。それと同時に心地良い温もりがアミから離れた。
アミは少し残念に思ったが、自分の手の甲を見て目を丸くするしかない。
かまいたちによる傷は、最初から無かったかの様に消えていたのだから。
“ーー今のは……何? さっきまで有った傷が無くなっているなんて……ユキの力?”
「ユキ……」
二人は暫し無言で見つめ合った。
ユキの表情から、そしてその深淵の瞳から真意を伺う事は出来なかった。
ーーその時だった。
敵意剥き出しの何かが、この地に侵入した事を自然の精霊がアミに教えてくれる。
“ーー敵!?”
アミはこの地に危険が迫っている事を察知し、反射的に村の方へ向けて走り出す。
さっきの事は気になったが、今はそれ処ではなかった。
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