テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
廊下の奥から、
コツ、コツ、と靴音が近づいてきた。
「……先生?」
誰かが、気づく。
翠は、顔を上げられなかった。
息が浅くて、喉がひりひりする。
視界の端に、
スラックスと名札。
担任じゃない。
別学年の先生。
「……何してるんだ」
低めの声。
一瞬、空気が張りつめる。
囲んでいた生徒たちは、
さっと距離を取った。
「いや、別に」
「こいつが勝手に座り込んでて」
軽い、慣れた言い訳。
先生は、翠を見下ろす。
「体調悪いのか?」
その声は、
心配というより、確認。
翠は、口を開こうとして——
うまく、声が出ない。
「……」
息を吸おうとして、
胸が詰まる。
沈黙。
その沈黙を、
先生は“問題なし”と判断した。
「授業中だぞ」
「教室に戻れ」
それだけ。
「ほら」
誰かが、肩をすくめる。
「言われてんじゃん」
先生は、
もうこちらを見ていなかった。
足音が、遠ざかる。
——行った
——行っちゃった
廊下に残ったのは、
さっきより、冷たい空気。
「助け呼ぶチャンスだったのに」
「何も言えないんだ」
「あいつでさえ、助けは呼べたのにな」
笑い声。
翠は、
ゆっくり立ち上がろうとして、
膝が震えた。
「……戻る」
絞り出した一言。
「どこに?」
「教室?それとも保健室?」
選択肢があるふり。
でも、どれも地獄。
翠は、
バッグを抱きしめて、
壁沿いに歩き出した。
背中に、声が飛ぶ。
「赫の影に隠れてるだけ」
「次はどこで倒れんだ?笑」
振り返らない。
返さない。
——先生に見られても
——助けてもらえなかった
その事実が、
胸の奥に重く沈む。
保健室のドアが、
遠くに見えた。
でも、足が、重い。
——行ったら
——また“赫ちゃんの付き添い”になる
翠は、
立ち止まって、
一度だけ深く息を吸った。
苦しい。
それでも、
倒れなかった。
コメント
1件

心がほんとにむり( もうえーやばい好きだわ