なんでも屋「シュレーディンガー」の朝は、新八こと志村新の掃除から始まる。
「……なんで部室にソ連の国旗が飾ってあるんですか。あと、この大量の火薬の臭い。ここは美術室ですよ、化学室じゃないんですよ!」
「細かいこと気にしちゃいけやせんぜ、パチ公。昨日レゼが『インテリアに革命が必要だ』って言ってやしたからな」
ソファでジャンプを読みながら、坂田誠が沖田口調で答える。
「パチ公!? 誰がパチ公ですか! 呼び方が完全に『真選組のサド』になってるから! 銀さんならせめて『新八』って呼んで!」
「うるせェな……。銀さんだろうが沖田だろうが、俺ァ俺でさァ。それより新八、マヨネーズは切らしてねェだろうな?」
「銀さんなら糖分でしょうが! なんでマヨネーズ!? もうあなたの自認、キャラが大渋滞してて見てるこっちの脳がバグるんですよ!」
そこへ、窓からふわりと中野渚(レゼ)が入ってきた。
「おはよう、二人とも。今日はいい天気。……空気が乾燥してるから、火をつけたら綺麗に燃えそう」
「レゼさん! 窓から入ってこないで! あと朝から放火魔みたいな爽やかな挨拶やめて!」
事件:平穏なランチタイムの崩壊
今日の「なんでも屋」への依頼は、同じ学園の料理部からの**「余った食材で最高の創作料理を作ってほしい」**という平和なものだった。
「創作料理……。銀さんにお任せくだせェ。俺の土方スペシャル(マヨネーズ丼)と宇治銀時丼を混ぜた『地獄のミルフィーユ』を食わせてやりまさァ」
「殺す気か! 依頼人を物理的に消去する気ですか!?」
新八の制止を無視し、3人は家庭科室へ。 レゼは鼻歌を歌いながら、エプロンをつけた。
「料理は得意よ。……爆破の化学反応も、料理の味付けも、本質は同じだもの。ねえ誠、この隠し味……入れていい?」
彼女が取り出したのは、見たこともない色の小瓶。
「レゼさん、それ何!? スパイス? それともニトログリセリン!?」
「秘密。……『愛(爆発)』よ」
混沌:キッチンは戦場
坂田は坂田で、死んだ魚の目を輝かせながら、なぜか包丁ではなく木刀でキャベツを叩き潰していた。
「いいですか、キャベツの芯っていうのは、こうして叩いて魂を屈服させることで、初めて甘みが出るんでさァ」
「出ないよ! 繊維がボロボロになるだけだよ! 誰か、誰かこの人たちを止めて! まともな調理師免許持ってる人呼んで!」
新八が必死にフライパンを振るうが、隣でレゼがガスコンロの火力を最大に上げ、何やら不穏な「カチ、カチ」という音を立て始めている。
「……ねえ。もうすぐ、最高の『味』が弾けるよ」
「待てレゼ、その前にこのマヨネーズをバケツ一杯分投入しやしょう。これが江戸の……いや、この俺の流儀でさァ」
「やめろぉぉぉ! 食べ物を粗末にするなァァァ!」
結末:夕暮れの撤収
数分後、家庭科室からは「シュボォォォン!」という、料理中には決して聞こえてはいけない音が響き渡った。
幸い、レゼの「隠し味(特製クラッカー)」が派手に鳴っただけで火事にはならなかったが、家庭科室の天井はマヨネーズとあんこでデコレーションされる惨状となった。
結局、料理部の部員たちは白目を剥いて倒れ、なんでも屋の3人は学校から「一週間の奉仕活動(トイレ掃除)」を命じられる。
「……結局、掃除が増えただけじゃないですか。僕の青春、これでいいのかな……」
夕暮れの廊下、新八が割れたメガネ(2個目)を拭きながらボヤく。
「まァ、いいじゃねーですかい。人生なんてのは、爆発するか、マヨネーズをかけるかの二択でさァ」
「そんな二択、人生にありませんから! 銀さんならもうちょっと良いこと言って終わって!」
「新八。……掃除が終わったら、一緒に学校、爆破……じゃなくて、アイス食べに行こう?」
渚(レゼ)が小悪魔的な微笑みを浮かべ、新八の腕に手を添える。
「……もう、レゼさんに誘われると断れないんだよなぁ。……って、今さらっと『爆破』って言いませんでした!?」
三人の奇妙な足音が、静まり返った廊下にいつまでも響いていた。






