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第33話、めっちゃ好きな回だった!ユーリが「これ、じゃがいもじゃない?」って気づくシーン、めちゃくちゃワクワクしたよ。マンドラゴラの毒症状がソラニン中毒とそっくりっていう考察に、読みながら「あっ!」て声出た。しかも夜テントに現れた白いポメラニアンみたいな生き物、「見つけた」って言ってたの超気になる…!次回が待ちきれない🔥
それからのユーリは冒険者ギルドの仕事をしながら、黄色マンドラゴラの干し具合を確かめたり、魔物肉により合うスパイスを追究したりして過ごした。
携帯食についてもアイディアがあったが、今は手を付けるにはなかなか時間が足りない。
倉庫の仕事は順調に回っている。最近はナナがとてもしっかりとして、経理と素材管理の書類仕事を引き受けてくれた。
荷運び人たちとの関係も良好で、挨拶や冗談を言い交わして笑い合っている。お互いに気づいたことをすぐに相談できる、風通しのよい職場になった。
倉庫は今は先日の整理の効果ですっきりとしているが、日常的に多くの素材を出し入れしていれば、やがて多少は雑然としてくるだろう。ユーリは半年に一度、棚卸しを行うことに決めて、手順のマニュアルなども作った。
ユーリの仕事はそれなりに忙しく、なかなか北の森に行く時間を取れないでいた。
するとユリウスが冒険者ギルドにやってきて、
「ねえ、ユーリ。次の護衛はまだかな? 僕、暇してるんだけど」
などと言う。
ユリウスは超一流の冒険者で、この地方の有力貴族グラシアス家の一員でもある。冒険者ギルドのギルド長であるガルスも頭が上がらない。
それで他の職員たちが協力してユーリの仕事を減らし、二回目の探索の日が決まった。
探索日の朝、前回と同じようにカムロドゥヌムの北門に集まる。日程はとりあえず、一泊二日の予定である。
今回はアウレリウスは同行しない。代わりにユリウスの仲間の女魔法使いがいた。
「ヴィーよ。よろしくねえ」
ヴィーは二十代前半ほどに見える女性で、赤い髪に緑の目。眠たげな瞳をしていた。
ウルピウスの防壁を抜けて、森に着くまでは特に問題なく進む。
前回、シナモンらしき木を見つけた場所に行ってみた。ロビンが辺りを警戒して、魔物をいないことを確認してから近づいた。
「やっぱりシナモンそっくり」
ナイフで樹皮を少し削り取って、ユーリが言った。つやつやした卵型の葉っぱをしており、樹高はかなり高い。十メートルはありそうだ。緑色の分厚い樹皮を削いだ場所から、シナモンのスパイシーな香りが漂っていた。
「シナモンには何種類か近縁種があるの。でも、さすがにどの種類かまでは分からないわ」
ユーリは考え込んだ。
地球のシナモンはおおむね三種類。本来のシナモンであるセイロンシナモン。これが一番高価で香り高い。
インド原産のカッシアシナモンや日本在来のニッキも近縁種で、セイロンシナモンより安価なためによく流通していた。
ユリウスが言う。
「木の樹皮がスパイスなんだね。どうやって収穫するのかな?」
「樹皮を剥がして天日干しで乾燥させるの。ここは森の入口だから、帰りがけに採っていきたいわ」
「了解。じゃあここを覚えておいて、また後で来よう」
「ええ。次は黄色マンドラゴラがたくさん生えていた場所に行きたい。フォレストスネークに出くわした場所」
ユーリの言葉にロビンがうなずいた。
「オッケー。もう危険はないと思うけど、索敵しながら進むよ」
そうして再びたどり着いた森の広場は、まだいくらかの黄色マンドラゴラが残っていた。白い花とピンクの花が入り交じっている。
ユーリは辺りを見渡した。周囲の気配は落ち着いており、特に危険は感じられない。
「あっ。あそこ」
ユーリは広場の隅に駆け寄った。そこには白い小さな花をつけた植物が生えている。黄色マンドラゴラとはまた違う花だ。
草丈は六十センチ程度で、縦長のとがった葉っぱ。五芒星のような形の白い花が、てっぺんに複数咲いている。
ユーリにとって見覚えのある形だった。
「これもマンドラゴラかしら?」
「そうだね。これは毒がある種類のマンドラゴラだ」
ユリウスが言って、ユーリは振り向いた。
「毒?」
「昔、これの根っこを食べた冒険者がいたんだよ。狩りの途中で食糧が尽きて、やむにやまれぬ状態だったみたいだね。そうしたら、腹を壊した上に吐いて、頭痛やめまいが起きて死にかけたそうだ。彼は命からがら帰還して、星の形の花のマンドラゴラは毒があるとみなに伝えてくれた」
「うーん……」
ユーリは思った。毒の症状が『アレ』そっくりだ。ますます怪しい。
――これ、じゃがいもじゃない?
ユーリは思う。見れば見るほど、地上に出ている部分がそっくりなのだ。
毒がある話もつじつまが合う。じゃがいも毒は芽や緑色に変色した部分に多く含まれていて、食べると下痢や頭痛、めまいを引き起こす。
でも、と、ユーリは考えた。
どうしてこの魔の森では、こんなにも都合よく食材が存在しているのだろう。
ユピテル帝国式に考えれば、土地の魔力が乱れているせいで通常とは違う植物・魔物が発生しているといえる。地球とは違う世界で魔力や魔法があるのだから、考えても仕方ないのかもしれない。それでもユーリは疑念に胸が騒ぐのを感じた。
「とりあえず、じゃがいもは掘って確かめてみないと」
ユーリは呟いた。
じゃがいもは花が咲いているものは、まだ収穫時期の前だ。花が終わって葉が枯れかけた頃合いが、地下のじゃがいもが成熟するときである。
ユーリはきょろきょろと周囲を見渡した。じゃがいもマンドラゴラ(?)はほとんどが花を咲かせていた。
ユーリは立ち上がって草陰なども丁寧に探した。すると、花が終わったと思われる個体が見つかる。まだ葉は枯れていなかったが、確かめる程度ならいいだろう。
「このマンドラゴラを抜きたいです」
「了解。耳栓つけてね」
ユリウスに言われて、ユーリは耳栓をつける。荷運びのロバの耳にも詰めた。他のメンバーはそのままだ。一体程度のマンドラゴラであれば、耳栓なしでも平気らしい。
手袋をはめて茎の根元を握る。魔物のじゃがいもは気配を察知したようで、ぶるぶると震えた。
力を入れて一気に引っ張った。ぶちぶちと繊毛が千切れる感覚がする。
「~~――~~~~~ッ!」
マンドラゴラが叫んだ。飛び出してきたのは小さな根茎たち。やはりどう見てもじゃがいもだった。
ユーリが根っこでつながったままのマンドラゴラを地面に叩きつけると、ユリウスが素早く剣を振るって茎の根元を切ってくれた。
じゃがいも(?)はまだ小ぶりで熟していない。食べるのはまだできないだろう。
それでもユーリは土を払い落として、袋に入れた。
「毒マンドラゴラ、何に使うんだい?」
ユリウスが不思議そうにしている。
「一応持ち帰って、調べてみようと思って。黄色マンドラゴラはもう少し欲しいけれど、収穫したらなるべく素早く下ごしらえをしたいの。収穫は明日にして、もう少し別の場所を探してみてもいいかしら?」
「うん、いいよ。ただしあまり森の奥には行かないでね」
ロビンが答えて、一行はさらに先に進んだ。
結局、その日はそれ以上の目立った発見はなく、夕暮れ時になってしまった。
大きな木の根元にスペースを取って、野営の準備をする。簡易的なテントと寝袋である。
魔法使いのヴィーが小さな火を作って、焚き火に灯す。
ロビンが近くの泉から汲んできた水を鍋に入れる。水には浄化の魔道具が落とされた。いつぞや、アウレリウスが目の前で作って見せてくれたあれだ。この魔道具は普及していて、調理時の他に水筒にも入れられている。
それからロビンは麦粥を作ってくれた。具は少々の干し肉だけの味気ないものだった。
「ほらね、狩り中は毎日こんな食事なんだ。一日や二日なら我慢するけど、長期になるとやる気が削がれちゃうよ」
ロビンの言う通り、麦粥はおいしいとはとてもいえない。温かいだけまだマシといったところだ。これで冷めていたら、食べるのに苦労する味だろう。
ユーリは苦笑しながら言った。
「本当ね。ずっとこればかり食べると思うと、力が出なくなっちゃうわ。もう少しおいしくて、力になるような携帯食を考えてみる」
「頼むよ! ほんとに!」
そんなことを話しながら夜が更けていく。
焚き火用の小枝を折りながらユリウスが言った。
「僕たちが交代で夜番をするから、ユーリは休んでいてね」
「私にできることはない?」
「うーん、今はないなあ。ゆっくり休んで体力を温存してほしい」
一般人のユーリは、冒険者である彼らに比べて体力が大きく劣る。なるべく足を引っ張らないように休んでおくべきだろう。
テントが張られたので、ユーリは中に入る。寝袋の中に潜り込んで、早めに眠ることにした。
夜の森は案外騒がしい。何かの魔物の遠吠えや、遠くでガサガサと草木が揺れる音、ふくろうのような鳥の鳴き声がする。
一日中歩き回っていたユーリは、疲れ切っている。夜の森の物音の中、やがてウトウトと眠りに入っていった。
寝入りの曖昧な意識の中、だんだんと眠りに落ちていって……。
――見つけた。
ふと、何かの声が聞こえた気がした。鈴を転がすような可愛らしい声だった。
――やっと見つけた。間違いない。今、そっちに行くね。
夢うつつのユーリはぼんやりとその声を聞く。
目の前を何か白いものがふわふわと漂っている。何だろう、見覚えがあるような。いつかの夜に見たような、見ていないような……。
ふわふわが顔の前を行き来して、ユーリは鼻がむずむずした。
「はくしょん!」
くしゃみが出る。
すると、ふわふわが驚いたように飛び上がって鳴いた。
「キャン!」
「え?」
ここでユーリはしっかり目が覚めた。テントの暗闇の中に白い小さなものがいる。それは小犬のように見える。
「ヘッヘッヘッヘッ……」
ポメラニアンのような小さな生き物が、つぶらな瞳で寝袋のユーリをのぞき込んでいた。