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#執着攻め
15
こはる
刑事課のデスクにて、二人の男刑事が雑談している。
「さっき連行されてきたあの少年、羨ましいよなぁ。事情聴取の担当が花宮さんなんだからよ」
「ホントそうだよなー。花宮菫さん……名前の通りむさくるしい刑事課の中で咲く一輪の花!俺の心を癒してくれる方!」
「いい年して何言ってんだよお前。昨日合コンでまた失敗したからって……」
「うるさい!外での出会いが無さ過ぎて、最近そろそろ職場恋愛でいこうかなって思い始めてるくらいだ!」
「ここでの職場恋愛とか、そっちの方が絶望的じゃねぇか……。それよりも、今日はどうして花宮さんは唐突に事情聴取を担当したいって言ったんだ?」
「ああそれはな、何でも今から聴取受ける少年が通ってる学校が、あの名門私立中学校の生徒だって聞いて、それが理由かは知らないけど自分が担当したいって頼み込んだそうだぞ」
「へー。あの学校に知ってる人がいるのかな?花宮さんがこの署に配属されたのは最近のことだから、あの人のことまだ何も知らないんだよなぁ」
取調室の一つにて、シュートと女性刑事が対面する形でパイプ椅子に座っている。しばらくしてから出入り口の扉付近で中年の刑事が様子を見ている。シュートには手錠も拘束具も付けられていない為、万が一彼が暴れても即対応出来るようにと待機している。
仮にシュートがここで暴れた場合、刑事二人でもどうにもならないというのが確固たる事実となるのだが、この時点での二人には知る由もない。
「改めて、まず君の名前と年齢を教えてくれるかな。あと生年月日も」
「………三ツ木柊人。13才。2006年8月31日生まれ」
「ん…そうか、“あの子”と同じ学年だったか……え?君どう見ても高校生か大学生にしか見えないけど、本当に13才、中学生なのかい?」
「はい」
「そ、そうか……(最近の子どもって成長が早いのかな)。ああそうだ、さっきも名乗ったけど改めてこちらの自己紹介もさせてもらうよ。
私は花宮菫。最近この署に転勤してきた刑事だ。後ろにいる刑事さんは私の上司、大藤さんだ。見た目通り怒りっぽいひとだ」
女刑事…花宮菫が茶化した調子で後ろにいる刑事も紹介する。大藤という刑事はんんっと咳払いして目を逸らす。そんなどうでもいい紹介を聞き流そうとしていたシュートだったが、彼女の苗字に反応してしまう。
「………花宮?」
「ん…?もしかして花宮と聞いて誰かが浮かんだのかな?もしかして紅実のことではないかい?」
「あいつの母か何かですか?」
「ふふっ、私は紅実の叔母…あの子の母親の妹だ。私は独身だから、子どもも当然いない」
シュートは花宮…菫の顔を確認してみる。紅実と血縁関係にあると言われれば確かにそうかも、と思われる。雰囲気や男っぽい口調などが紅実を思い出させる。
「私がここの地域に引っ越してきたのも最近で、家は警察の寮暮らしだから紅実のことはあまり聞けていないのだけど。君は紅実のことを知っているんだね?」
「まぁ、同じクラスなんで、それなりには」
「そうだったか!紅実は学校では元気でやれてるだろうか?」
「真面目でクラスメイトたちの模範となる委員長で、友達もまぁまぁいるそうすね」
「ふふ、そうか。私の姉やあの子の父親、私の母に似て、紅実も誠実で真面目な子だからね」
紅実のことで色々質問されることに、シュートはうんざりしていた。同じ気持ちだったらしく大藤もわざと咳払いをして菫に先を促す。無論彼女は職務を忘れて雑談に興じたわけではない。シュートに警戒を解かせて、友好的に会話を重ねることで自分に何でも話せるよう心を開かせるのが目的だった。
改まった態度をとった菫は、次はシュートの家族構成についても聞き出す。それからようやく本題に入る。
「さて自己紹介や雑談はこれくらいにして、これから君が起こしたとされる私立天成中学校での傷害事件についての事情聴取を行う。まず…今回の事件を起こしたのは、三ツ木君で間違いないかな?」
「まぁ、はい。あのクズどもを再起不能になるまで壊したのは、俺ですね」
「クズども、か……。傷害を負わせた生徒は十人近くいたそうだね。そのうち五人が重傷を負っていて病院に緊急搬送されている。
三ツ木君はどうして、彼らに重い傷害を負わせたんだい?」
質問しながら菫は内心肝を冷やしている。彼女は事前に今日の傷害事件の被害内容について目を通している。
重傷を負った男子生徒四名は、首から下の体の骨がいくつも折られており、爪や歯の欠損、さらには片目が抉り取られていて失明もしている。
女子生徒一名も腹部(子宮)が負傷、顔の皮を深く剥がされており筋繊維が剥き出しになっているとのこと。
他の生徒数名もあばら骨が折られており深刻な傷を負っていて、男子生徒四名に至っては殺人未遂事件にもなりかねない程の傷を負っている。
そんな大量傷害事件を起こしたのが、目の前にいるたった一人の男子中学生だというのだから、正直まだ信じられない気持ちが拭えないでいる。
(なんて目をしているんだ……。まるでいくつもの修羅場を経験したような、それとこの世の何もかもに対して怒りを抱いているかのような……)
菫がまじまじと見つめるシュートの目は猛禽類を思わせる程に鋭く、この世に憎悪しているかのような昏い瞳をしていた。さらにはシュートの佇まいにも注目する。まるで達人の武人かのような雰囲気が彼から醸し出されている。かつて剣道で日本選手権や国体の賞を獲った経験がある菫には容易に理解出来る、シュートがただ者ではないということを。
シュートはおもむろに事件の動機を答えていく。自分が最近まで中里たち不良グループに虐められていたこと、その前から虐められていたクラスメイトにまで虐められていたこと、嘘告白とストーカーの濡れ衣を着せられたこと、クラスメイトにも担任の教師にも見て見ぬふりをされて助けてくれなかったこと。自分がどれだけ理不尽に虐げられたか、悪意にまみれた罠に陥れられたかを、シュートは時折感情的になりながらも全て話した。その間花宮は真剣な表情で彼の話を聞いていた。
「そうだったんだ……。三ツ木君は虐められていたクラスメイトを助けたことで、その虐めの主犯の子たちから虐められるようになったんだね。虐められてる間は誰も君を助けようとしなかった……。さらには一人の女子生徒に酷い嘘をつかれて、無実の罪を被せられた……。そんな彼らに復讐したいと思って、今日の事件を起こしたんだね?」
「はい」
「でもどうして今日だったんだ?この目で見たわけじゃないから信じられないのだが、三ツ木君一人で教室をめちゃくちゃにしてクラスメイト数人に重傷を負わせたんだよね?そんな力があったのなら、虐められ始めたその日からそんな力を使おうとは思わなかったのかい?」
「その頃の俺には、まだそんな力が無かったから。強くなれたのは最近だった。だから今日復讐を実行しました」
「今日の為にずっと鍛えて強くなったってことかい?」
「まぁそんなところです」
「少し私情が入った質問になるのだけど、三ツ木君はさっき虐められてる間はクラスメイトの誰からも見て見ぬふりをしていたって言っていたけど、それは紅実も同じだったのかい?」
シュートは数秒沈黙する。やがて口を開く。
「………あいつだけは、虐められてる俺に話しかけてきました。暴行を受けて汚れた制服を見て気にかけたりもした。虐めのことは俺が言わなくても気付いていたようで、どうにかしようとしてました。まぁ何もできはしなかったけど」
「そうか……。答えてくれてありがとう」
菫は一言礼を述べると、手元にある調書にシュートから聞いた内容を記していく。そこからしばらく沈黙が続いたのち、今度はシュートの方から話を切り出す。
「見て見ぬふりをするばかりのクソ教師どもじゃなくて、初めから警察のあんたらに虐められてるって通報しておけば、俺がこんな加害者扱いされずに済んだのですかね?」
「そうかもしれないね。理由はどうあれ三ツ木君は暴力を振るったんだ。それもかなり重度の暴力を」
「じゃあ今日みたいなことをせずに、あんたたちに通報だけしてれば良かったのですか?今まで自分が受けてきた暴力や誹謗中傷の分をそのままやり返すことは抑えて……自分が本当にやりたいことに蓋をしてろってことだったのですかね?」
「………そういうことに、なるね。でも三ツ木君は警察に通報も病院への申告もしなかった。それとも、出来なかったが正しいのかな」
「………虐められている自分を曝け出すことが惨めで、恥ずかしいって思ってたから。そんな自分を他人に知られたくなかったから……」
「そうだったんだね。だからここに通報することも病院に診てもらって申告することも出来ず、自分の力で解決しようとしたんだね。
でも結果として、こうなってしまっている。たとえ憎くてもやり返してしまえば虐めの主犯側と同じ穴に落ちることになる。三ツ木君なら分かっていたと思うけど」
「俺は……それでも全然構わない。だからあいつらに復讐しました。あいつらに刻まれた痛みや屈辱をそっくりそのまま返さないなんて、それは俺の正義に反することだったから。復讐を我慢する自分が、誰よりも許せなかったんです」
「正義………」
調書に文字を記しながら、菫はシュートをじっと見つめる。彼と彼の家族の詳細をある程度把握した彼女は再び思案する。
シュートは健康に生まれて病気にもなっておらず、親もどちらも健康で働きにも出ている。そのお陰で家庭は裕福寄りで、シュートにとって不自由など無いようなものだ。
言うなれば、三ツ木柊人という少年は…両親との距離が最近遠いことを除けば、恵まれた家庭環境で育てられている。
だからといって、学校での虐めを我慢して良いという理由にはならない。恵まれた子どもが不当に、理不尽に虐められて良いわけなどない。
「質問するよ。三ツ木君が考えてる正義って何かな?君が思う正しいとは何なのだろう?」
菫は真面目な表情でシュートにそう問いかける。するとシュートはどこか面白そうに笑った後、真顔になって答えるのだった。
「まず前提として、俺が不幸にならない、損をしない、害されない、得をする、幸せになれること。
そしてそれらを一つでも侵そうとする敵…自分がクズだと思う人間を排除するということ。それが俺が考える正義です」
コメント
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わああ第41話…!ついにシュートが取調室で花宮刑事と対峙する回だね😭💕 紅実の叔母さんがまさかの刑事で、しかもあの花宮菫さんだったとは…!巡り合わせがエモすぎるよ…。 シュートの「俺の正義」宣言、めっちゃ重いし熱いしでもどこか哀しくて胸がぎゅってなった🥺💔 虐められた側が加害者扱いされる理不尽、でも暴力で返したら自分も同罪になるジレンマ…この深いテーマを中学生が背負ってるのが切なすぎるよ。。 次どうなるの!?続き早く読みたい〜!!🔥🌸