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ベンダー・アドベンチャー
第三話:リナの過去
宇宙は静かだった。
星々がゆっくりと流れていく中、小型宇宙船は一定の速度で進んでいる。
操縦席にはベンダー。
後部座席には、膝を抱えるように座るリナ。
「……なぁ」
珍しく、リナの方から口を開いた。
「なに黙ってんだ?
俺が操縦してるときは、もっと褒め称えるもんだろ」
「そうじゃなくて……」
しばらく沈黙が続いたあと、リナは小さな声で言った。
「私ね、家族がいないの」
ベンダーの手が、操縦桿の上で一瞬止まった。
「……は?」
リナは窓の外の星を見つめながら、ゆっくり話し始める。
「生まれた時から、ずっと一人。
親の顔も、声も、名前も知らない」
「施設で育ったの?」
「ううん。
未来の世界は……もう、そんな場所も残ってなかった」
彼女の声は淡々としていたが、その奥に長い孤独がにじんでいた。
「世界が荒れ始めて、
人は生き延びることで精一杯で……
子どもを守る余裕なんて、誰にもなかった」
ベンダーは何も言わず、黙って操縦を続ける。
「だからね……」
リナは、少しだけ笑った。
「ベンダーと一緒に旅できて、楽しいの。
誰かと一緒にいるって、こんな感じなんだって……初めて知った」
「……」
「迷惑だった?」
その質問に、ベンダーは鼻で笑った。
「バカ言え。
俺は一人より、騒がしい方が好きだ」
「ほんと?」
「ああ。
それに、俺だって家族なんてロクなもんじゃなかったしな」
リナは少し驚いた顔でベンダーを見る。
「ベンダーも……?」
「詳しい話は酒があるときにな」
二人の間に、少しだけ温かい空気が流れた――
その時だった。
ピピピピッ!!
警告音が船内に響く。
「な、なに!?」
「ちっ……またかよ」
前方のモニターに、赤いシンボルが浮かび上がる。
「追跡ビーコン反応。
どうやら、例の“とある組織”に見つかったらしい」
「そんな……!」
宇宙の闇から、黒い戦闘船が三隻、姿を現した。
「未来抹消部隊だ……」
リナの声が震える。
「奴らは、私を消すためなら何でもする」
「安心しろ」
ベンダーは不敵に笑った。
「俺は“消される側”には慣れてねえ」
戦闘が始まった。
レーザーが飛び交い、船体が揺れる。
「ベンダー!右から!」
「見えてる!」
ベンダーは無茶苦茶な操縦で敵弾をかわす。
「くそっ、数が多すぎる!」
その時、敵船から通信が入った。
『対象リナを引き渡せ。
ロボットは解体処分とする』
リナは唇を噛みしめた。
「……やっぱり、私のせいだ」
「なに言ってやがる」
ベンダーは通信を強制的に切断した。
「俺の船に勝手に命令するんじゃねえ」
「でも……私がいなければ……」
「バーカ」
ベンダーは振り返らずに言った。
「俺はな、頼まれても世界なんか救わねえ。
だが――」
操縦桿を強く握る。
「一緒に旅してる仲間を、
見捨てる趣味もねえんだ」
リナの目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「……ありがとう」
ベンダーは秘密兵器のスイッチを押した。
「非常手段だ。
俺の船の“自爆寸前モード”を見せてやる」
「え!?それって――」
「大丈夫だ。
ギリギリで爆発しねえ」
船が異常なエネルギー反応を放ち、敵船は混乱する。
その隙に、リナがゲート装置を起動。
「今なら跳躍できる!」
「よし、掴まれ!」
白い光が船を包み込み、次の瞬間――
宇宙は再び静寂に戻った。
二人は生きていた。
「……助かったね」
「ああ」
しばらくして、リナは小さく言った。
「私……一人じゃなかった」
「今さら気づいたのか?」
ベンダーはニヤリと笑う。
「この旅が終わるまで、
お前は俺の相棒だ」
リナは、今までで一番明るい笑顔を見せた。
「うん!」
こうして、
孤独だった少女と、自己中心的なロボットは、
確かな“仲間”になったのだった。