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ベンダー・アドベンチャー
第四話:キャプテン・スロット
宇宙船は小惑星帯の近くを、のんびりと漂っていた。
戦闘続きだった旅も、久しぶりに静かな時間が流れている。
「ねえ、ベンダー」
操縦席の後ろで、リナがレーダーを覗き込んだ。
「この宙域、信号がいっぱいあるよ」
「どうせ密輸屋か、海賊か、どっちかだ」
「……どっちも嫌な予感しかしないんだけど」
その時、前方にボロボロの宇宙船が現れた。
船体には派手な落書き、エンジンは不安定、明らかに年季が入っている。
「遭難船かな?」
「いや……このセンスのなさは違う」
通信が入った。
『そこの船!助けてくれぇぇぇ!!』
画面に映ったのは――
イカとタコを足して、さらにだらしなくしたような宇宙人だった。
三角帽子をかぶり、マントを羽織っているが、まったく威厳がない。
「我が名は……キャプテン・スロット!!
偉大なる宇宙海賊団の……えっと……元・船長だ!!」
「“元”って言ったな?」
ベンダーはニヤリとする。
「どーせクビになったんだろ」
「うっ……」
図星だったらしく、スロットは肩(らしき部分)を落とした。
二人は仕方なく、スロットを自分たちの船に乗せた。
「で?どうしてそんなボロ船で一人なんだ?」
スロットはため息をついた。
「わしは……キャプテンに向いていなかったのだ……」
「え?」
「船員たちは言った。
“判断が遅い”“怖がり”“威厳がない”……
挙句の果てに、置き去りにされた」
リナは少し驚いた顔でスロットを見る。
「でも、その格好……キャプテンに憧れてるんだよね?」
「そ、そうだ!」
スロットは胸を張るが、すぐにしぼむ。
「だが現実は違った……
わしには才能がないのだ……」
ベンダーは鼻で笑った。
「安心しろ。
才能がないのは、この宇宙じゃ普通だ」
「フォローになってないよ!」
その時、警報が鳴った。
ビーッ!ビーッ!
「未確認船接近!」
画面に映ったのは、スロットの元・部下たちだった。
『あっ、船長だ。
まだ生きてたんだ』
『命知らずだな』
スロットは震えだす。
「や、やっぱり無理だ……
わしは逃げる……」
「ちょっと待って」
リナがスロットの前に立った。
「キャプテンって、怖くない人じゃダメなの?」
「え?」
「仲間を大事にして、
ちゃんと悩める人の方が、ずっとキャプテン向きだと思う」
スロットの目が揺れる。
「だが……わしは指示も下手で……」
「じゃあ、今やってみなよ」
リナはモニターを指差した。
「仲間を守るために、何をするか」
敵船が迫る。
「ベンダー、武器の準備!」
「命令されるのは嫌いだが、
今回は気分がいい」
スロットはゴクリと唾を飲み、叫んだ。
「よ、よし……!
全員、衝撃に備えろ!!」
「それ、俺の船だけどな」
だが、スロットは続けた。
「正面から戦うな!
小惑星帯へ誘い込む!」
「……それ、悪くない」
ベンダーは操縦桿を切った。
敵船は追ってくるが、動きが鈍い。
「今だ!
ベンダー、逆噴射!」
「了解、キャプテン(仮)」
岩にぶつかり、敵船は次々と自滅した。
最後に残った船から通信が入る。
『……あんた、変わったな』
スロットは静かに言った。
「わしは……
キャプテンとして、まだ未熟だ。
だが……逃げるのは、もうやめる」
通信は切れ、敵船は撤退した。
静寂が戻る。
スロットはその場にへたり込んだ。
「……勝った……?」
「勝ったね!」
リナは笑顔で拍手した。
「すごかったよ、スロット!」
スロットの目に、涙が浮かぶ。
「わし……
キャプテンでも、いいのか?」
ベンダーは腕を組んで言った。
「まぁ、俺よりはマシだ」
「それ基準低すぎ!」
リナは少し考えてから言った。
「ねえ、スロット。
もしよかったら――
私たちの仲間にならない?」
「仲間……?」
「一緒に旅して、
一緒に強くなろう」
スロットはしばらく黙っていたが、
やがて帽子を取り、深く頭を下げた。
「この命、
君たちに預けよう」
「おいおい、重いな」
「でも悪くないでしょ?」
こうして――
自信を失った元キャプテンは、
奇妙な旅の仲間となった。
宇宙船は再び進み出す。
仲間が、三人になった。