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わざと日本語で気合いを入れる。
「ええ、良いと思うのですよ!」
拳を握りしめた私に、近付いてきたフルプレートアーマーの人物が狼狽えた。
『言葉は分かりますので、首輪は必要ありません』
『! ですが、この首輪は王族の客人という証でもありますので、安全確保のためにもつけていただければと思うのであります!』
打ち合わせしていた内容外だったのか、元々そう言った口調なのか。
声が上ずったのは動揺している証拠と断じる。
『……隷属の首輪は不要と言っているのです』
『無礼な!』
『ハイレベルの鑑定スキルを持っておりますので、全て見透かせているのですよ?』
フルプレートアーマーの人物が勢いよく振り返る。
王様は大口を開けながらも頷いた。
召喚者がチートスキルを持っているのは鉄板だ。
だからこそ、繰り返しているのだろう。
『まずは、私のステータスを見ていただきましょうか? 交渉は、それからです』
一方的な話しかしてこなかったようで、交渉という言葉に難色を示している。
まぁ、せいぜい揉めるといい。
交渉をさせてもらえるだけましだと思い知るだろうから。
『へい、か』
ローブ男が全身を震わせながら、陛下に耳打ちする。
『制御師《コントロールマスター》しかも、幻の時空の最愛じゃと!』
『嘘ですっ! そんなぱっとしない小娘に与えられる称号では!』
『いいえ。いいえ! 落ち着かれてください、王妃様。称号はどんなレベルの偽装でも偽ることは叶いません!』
フルプレートアーマーの人物が膝を折る。
ヘルメットが取られた瞬間、目に鮮やかな金髪が散った。
驚きの女性だ。
『御無礼をつかまつりました。私、王族騎士団長エロイーズ・カナールと申します。畏れ多くも時空制御師最愛の御方を召喚するつもりは微塵もございませんでした。伏してお詫び申し上げます』
『では、誰を召喚するつもりだったのでしょう?』
『……聖女様を召喚するつもりでございました』
『理由は?』
『……世界の浄化のためでございます』
曖昧な表現だ。
生贄として使うのかもしれない。
自分自身や大切にしている人、それ以外でも良識的な人々が相手なら問題だが。
『それならば、彼女たちを使うと良いでしょう』
大した効果はなかったとはいえ、自分をいじめ尽くした相手ならばどうだっていい。
むしろ推奨する。
未だ呑気に床の上で眠っている三人を指差しながら、ステータスを確認した。
武志摩美望 たけしまみむ
HP 50 成人女子一般的
MP 30 物足りない感じ
SP 100 荒淫に耐える体力です
固定スキル 魅了
鉄板です。
それなりに強いです。
している最中は国内トップレベルに上昇します。
称号 聖女(淫乱)
性欲的に満たされていれば、それなりの聖女です。
有栖姫凜 ありすひめり
HP 30 お子様仕様。
MP 10 致命的。
SP 200 燃費が悪いです。
固定スキル 成長補正
努力が人の十倍実ります。
一日一時間一人にだけ、他人も補正できます。
称号 聖女(愚鈍)
食欲が満たされていれば、それなりの聖女です。
雲母愛魅 きららあいみ
HP 100 女性冒険者初級レベル。
MP 100 女性冒険者初級レベル+α。
SP 100 女性冒険者初級レベル。
固定スキル 魔法創造
新しい魔法を作れる。
ただし、作る際にSPを大量消費、使う際にMPを大量消費する。
他人に譲渡はできない。
称号 聖女(性悪)
自分の希望が全て叶えられた状況であれば、そこそこ使える聖女です。
案の定全員聖女の称号がついている。
かっこの中身が見えたら難色を示しそうだが、聖女には変わりないし、能力もこの世界の人物よりはマシなようだ。
『よろしいのですか?』
『構いません。同じ世界からきただけの、何のかかわりもない人物です』
いじめられていたとか言ったら処刑されるかもしれないしね。
処刑されて、転生して、元の世界へ戻られても困るしね。
生かさず殺さず長く国の奴隷にしていただきたい。
彼女らの夫たちには、新しい幸せを掴んでほしいからさー。
『時空制御師最愛の御方には、この国にお留まりいただけるでしょうか!』
王が空気を読まずに会話に入り込んでくる。
『いえ。私がこの国に留まることはありません。最愛の主人からいただいた宝飾品を奪おうと画策する王妃の夫を信用できません』
王が王妃を睨みつける。
王妃は私を睨みつけてきた。
全く恥知らずはこれだから困る。
『反省もせず、謝罪もせず睨みつけてくるとは……本当に彼女は王妃ですか? 国母ですか?』
『……間違いなく王妃ではござりますれば、未だ国母では……』
『ならば、早急に離縁することを推奨いたします。誰がどう見ても国を統べる王を支える王妃に相応しくありません』
王が複雑な顔をする。
侍っている側近の一部は大きく頷いていた。
どうやら王が溺愛して本来王妃に成り得ない相手を召し上げたのだろう。
乙女ゲームの二次作品にならありがちな設定だ。
『……ただの助言を聞くも聞かぬも貴方方次第! ですが、これは守っていただきます』
『はっ!』
我ながら良く出たなぁと思う、冷たい声音に王が王座から降りて立ち姿勢のままで深々と首を垂れる。
王妃も渋々つきあって、スカートの裾を摘まんだ。
他は全員平伏。
騎士たちは鎧が大変らしく、膝をついた体勢だった。
『一つ、私の行動を一切妨げない。一つ、聖女たちがどんな行動をしても私は無関係。責任は一切持たない。一つ、私に如何なる願いこともしない。以上三点です。これが守られるならば、私は貴方方と直接的に敵対することはないでしょう』
『畏まりました。全て厳守すると誓います。誓書をお持ちになりますか?』
誓書? と思った瞬間、目の前にフレームが現れる。
契約書みたいなものです。
約束事をするときは、必ず取っておいた方が無難ですよ。
アイテムボックスに、専用フォルダがありますので、そこに入れておくといいでしょう。
……夫はもしかしてモニタリングでもしているのかもしれない。
タイミングがおかしい。
内容も見ていなければ答えられないはずだ。
『ええ、お願いします』
『少しばかりお時間をいただきたく存じます。お待ちいただけますでしょうか。菓子類や飲み物などお出ししたく思います』
『構いません。毒味係をつけていただけますね?』
『……当然でございます』
『時空制御師最愛の御方には、どうぞこちらへ……』
背筋のぴんと伸びた老年の女性が静かに先を示してくれる。
メイド長さん辺りだろうか。
私は踵を返すと、背後など伺いもせずに女性に従って王間から抜け出せた。