side_伏見
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8月22日、もうとっくに日は沈んだというのに
辺りは蒸し暑い空気が漂っている。
マンションの階段を駆け上がる自分の体からは
汗がとめどなく噴き出していた。
「さよなら」
たった4文字の恋人からのメール。
それが何を意味しているのか、
俺にはすぐわかった。
真夏の時期にもかかわらず職場で仕事をしていた
俺は、帰り支度をしたあと急いで自宅のある
マンションに向かった。
そして、マンションの屋上、フェンスの外側に
虚ろな目をした恋人が立っているのを見つけた。
飛び降り自殺を図ろうとする恋人の姿を見るのは
実はもうこれで4回目だった。
世の中には2種類の人間が居るという。
生に対する欲望「エロス」に支配される人間と
死に対する欲望「タナトス」に支配される人間
この世界の人間のほとんどが前者だが、
恋人は紛れもなく後者だった。
恋人が「タナトス」に支配される人間
だということは、付き合う前から知っていた。
それもそのはず、自分達が出逢ったのは
今のようにマンションの屋上で自殺を試みよう
としている人、恋人を自分が助けたからだ。
コメント
1件
儚いというか耽美というか... とりあえず神!!!!