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あれから5日が経った。私はいつものと同じように家庭教師に兄と比べられ、あれもダメこれもダメと言われ続けてうんざりする日々を過ごしていた。
それとは別に、何から話せばいいのだろう……?と、ずっと家族に伝えなければならないことを考え続けた。
まずは、未来の選択肢の話だろう。
大きく二つに分かれる未来。私が選択したほうの話をすることにした。
ある人との出会いからでいいかしら? 包み隠さず話すのが1番いいのだろう。
話の内容を精査し、家族の反応を想像する。順序良く話せればいいけど、とびとびになってしまうかもしれないので、ある程度、まとめたメモも用意した方がいい。『予知夢』の大まかな要点をまとめたメモを握りしめる。
夕食を家族でとり、父の提案で、食後に使用人を外して家族四人で客間に籠ることになった。
「あの、今日は私のために集まってくれてありがとう……うまく話せるかわからないけど……今後のこと、私の決めたことを家族にも聞いておいてほしいの」
前置きをするとソファに座る私の家族は頷いてくれる。私に優しい家族なのだ。私のこれまでの『予知夢』を通した体験を知り、父も兄も優しく「ゆっくりでいいよ」と言ってくれる。私の前に父と母が、右隣には兄が座っている。客間には家族四人しかいないのに、とても緊張をした。
「私の夢の話は、お母様から聞いてもらっていますね?」
三人を見渡せば頷いてくれる。それが心細かった私にとって、励みになる。
「そのとき起こったことは、事実として事件となりました。ですから、今回もそのようになると確信しています。なので、あえて、選択を縛り自ら進んでいきたいと考えているの」
父と兄がうんうんと頷く。私の将来のことを父は見据えているだろうし、兄は私の話をすごい力を持っていることが凄いと思っていることだろう。
「将来、私がどちらの未来を選んだとしても、いい人生だった言ってくれる人がいるのかどうかも含めての相談だろう。確定的なのは、インゼロ帝国との戦争が起こること。どんなに準備をしても避けられないと、私は考えています。ただ、選択1つで被害は、最小限にできることもわかっています」
最初から重い話だ。
「インゼロ帝国との戦争」と聞いてもあまり父たちもピンと来ないようだ。トワイス国は、帝国に接していない国ではある。他の小国のように、小競り合いもなく、攻め込められることも考えていないだろう。
「帝国が絡み3国の王位継承権を持った者たちが民衆を巻き込んで内乱を起こし、そのすきに帝国が便乗する形で戦争になります。なすすべもなく3国は負けてしまいます。3国全体で多額の金銭と男性の徴兵、女性の奴隷を差し出すような混沌とした時代がきます。今から25年後ぐらいでしょうか……? 確かにトワイス国は、帝国からは遠く離れていますが、反乱を起こした者たちが帝国の言いなりになるので、それは、避けられないでしょう……」
家族は、戦争が避けられないという話を聞き固まってしまった。衝撃の未来だろう。
まだ、私の未来には、衝撃的なものもあるのだけど……。
「私には、『予知夢』により、2つ未来が用意されているの。1つ目ですが、今言った未来が待っている方と、それから別の……2つ目の被害を少しでも小さくできる選択肢があるの。1つ目の方からお話しますね」
言葉を切る。
私は次の言葉を発するのが怖い……とても、怖いのだ。でも、言わないと進まないので、口にする。なるべく淡々と話せるよう感情がこもらないよう注意しながら。
「私が、この国に残りハリーと結婚することを選べば、私は家族と友人を失うことになる。5年後に、私は幸せな未来が待っています。でも、15年後には、私の大切な方は殺され、家族も友人も皆殺されてしまう未来」
あの光景を思い出す。父と母が折り重なるように殺され、兄も子供たちを守ってこと切れていた。その子供も妻も奴隷として連れていかれてしまう。
殿下が、前線で戦いさらし首になっている。そして、ハリーが血だまりの中で死してなお私に手を伸ばしてくれている。私も必死にハリーに手を伸ばしていたが届かずこと切れた。
ひどい惨状を夢で見た日からしばらく眠れない日を過ごしたことも覚えている。兄に縋りついて眠りにつけたこともあった。
私の語るのは、所詮、夢でしかない。確定した未来なんて誰にもわからないのだから。三人ともが神妙な瞳を私に向けてくれている。それだけで、心が落ち着いていくようだった。
「夢の内容は、もっと詳しいのかい……?」
父は、私を心配してくれるし、状況も知りたいと思っているのだろう。
「私の親しい人の死が、鮮烈に思い起こされます。ただ、陛下が結ぶ条約に反対して、私たち家族とサンストーン家は皆殺しにされますね。反対しなければ生きていられるかもしれませんが、私たちは国民を大切にしているからこそ、奴隷や強制徴兵に賛成ができなかったのです」
「!!!!!」
「私が知っているのはこれだけ……この夢を見て以降は、この続きや詳細な映像は見ていません」
重い重い沈黙が流れる。仕方がない。
「2つ目の選択肢について、こちらの未来を選ぼうと、もう決意しています。私、家族は守りたいですし、殿下も友人も同じくです。ハリーも死なせたくないのです。領民もまだ見ぬ人たちも守れるなら……守りたい」
選択の決意として、ぎこちないが少し微笑むと、「痛々しい」と母に言われた。
仕方がない。
幸せな映像とどん底の映像を同時に思い出してしまったのだから……。
「今後のことですが、学園に入ると一人の男性に出会います。お兄様のお友達ではない方だと思いますが……、名前は、ジョージア・フラン・アンバー。ローズディア公国の公爵家嫡男です」
名前を告げると、兄は思い当たる人物の名前が出てきてかなり驚いていた。
「あの銀髪の君か……? 確か、ローズディアでアンバー公爵は、かなりの地位だったはずだ。それに、銀髪の君は、2つ年上のダドリー男爵の娘でソフィアと婚約しているはず……」
兄には、ジョージアの婚約者にも思い当たる人がいるのだろう。実際に学園でジョージアにもソフィアにも会ったことがあるのだから。ものすごく苦い顔になっていく。
「そうですね。その銀髪の君が未来の旦那様です。残念ながら、銀髪の君とお兄様が呼ぶ彼は、私の入学と同時に私に恋をするのです。それは、ジョージア様の中だけで誰にも語られません。ソフィアのことがあるので想うだけなのですって」
兄は疑わしいという目をこちらに向けてくる。どんな人物かを知っているからだろう。兄と同じく、物静かな令息が、こんなじゃじゃ馬な妹に? と疑いたくなる気持ちもわからなくもない。
「自分で言っていて恋をされるなんて、とっても恥ずかしいのですし、お兄様の考えていることは私も感じています。お兄様が聞いているソフィアとの噂話、今の時点ではジョージア様は誰とも婚約はしていません。ただの噂にすぎないのです」
「ソフィア嬢との婚約は、噂なのか? かなり学園中に広まっている事実のようだが……それも、ソフィア本人が流したとも言われているんだけどね。銀髪の君ってかなり好物件すぎるものだから……あのご令嬢の牽制がすごいらしいね?」
兄は学園での噂話を聞かせてくれる。
「ソフィアは、ジョージア様に婚約するようかなり強く迫っているようですね。あの二人も幼馴染らしいですよ。ソフィアとの婚約は、私の学園卒業後で私との婚約が決まる直前に成立します」
「それは本当? 2つも年上だから、先に決まるんじゃないの?」
「いいえ。決まりませんよ。理由は、公爵夫妻がソフィアを第一夫人として迎えるのに抵抗があること、家格が違うこと、そして何より年上のソフィアにジョージア様が押し切られたこと。幼馴染としてどうしてもと迫られた手前、渋々婚約を認めてもらうように手筈を整えていたというのが本音ですよね」
「なんとも、銀髪の君らしい……押しに弱そうだ」
兄の感想はもっともな気がするが、今はいらない。両親へジョージアの悪い印象は少なくしたい。私の夫となる人で、両親に許しを得ないといけないのだから。
「公爵夫妻は、ジョージア様がソフィアに根負けしてしまったと見抜いています。手放しで喜んで受け入れるわけにはいかなかったようで、期間を設けました」
「期間?」
「ジョージア様をご両親が試したようですね。公爵家になれば、離婚を易々とできるものではありませんからね。もう一度、きちんと考えるようにとジョージア様が学園を卒業するまでの間です」
「ソフィアと離れる期間があるから、その間にじっくり将来を考えるようにということか。ソフィア嬢は納得いかないだろうね」
私はコクっと頷く。その期間があるから、私という異物もその隙間に入ることができるのだ。
「ソフィアとの婚約発表の前に私が滑り込みでジョージア様と政略結婚のために婚約できます。ソフィアより家格が上だったことを踏まえ、後決まりの私でも第一夫人に収まることになるようです」
「ほう」と父は面白くなさそうな顔をしている。「第一夫人」という言葉に引っかかったのだろう。貴族なのだから、複数の夫人がいることもある。公爵家は、直系になり替わることもあるので普通のこと。うちは、母以外の夫人がいないだけで、父も母以外の夫人を側に置くつもりがないだけで、貴族ではよくある話だ。
うん、確かに、お父様には面白くないよね。私も嫁ぐ人に愛人いるなんて知ってたら、嫁ぎたくないですよ? ハリーとの幸せ家族計画なんて見ているから……余計に。
………………でも。
私は選んだのだ。自分の未来を。進むべき道を。