2人が出ていったことでしにがみも少し緊張が和らいだのか、こちらの顔を見つめて叫んだ。
「僕だって…僕だって役に立ちたくて努力してるのに…!!!」
初めて聞いたしにがみの本音は、やっぱり弱々しくて。でも、バカにはしない。心が小さい人、大きい人…この世にはたくさんの色がある。ほら、十人十色ってやつだ。だから俺はバカにはしない。ただ受け入れるだけ。
心の叫びを叫べる場所は、なかなか無いのだから。
「努力してもみんなの背中に追いつかなくて…死ぬほど走ってるのに!!死ぬほど歩いてるのに!!死ぬほど長く長く…長く長くこの道にいるのに!!!」
そう叫びながら、しにがみは泣き喚いていた。
いつもなら叫び声だけがうるさいが、今日は酷く泣き声が赤子のようにうるさかった。でも、少し嬉しい。
「…追いつかなくていいんだよ。」
しにがみの気持ちを知れて、俺は嬉しいだなんておかしいかな。
しにがみは俺の発言に驚きながらも瞳からは涙を流していて、それは酷く大粒の涙だった。
「追いつくとか追いつかないとかねぇから。お前が一歩先に行くなら、俺達はそれに合わせるよ。」
「っ……!!」
ふと、頬には暖かな液体が伝わる。顔もじんわりと熱くなってきて、目の前がぼやけてくる。それでも俺は、笑いながらしにがみを見た。
───あー、こういうの本当に久々だ。俺はすごい涙脆いからいつでもどこでも感情が高ぶればすぐに泣いちゃうんだけど…こんな嬉しい涙って久々かも。
「お前がついて行こうって思ったのは、俺たちの背中を見たからだろ?」
「っ…はい………うっ……。」
泣きながらも激しく同意するしにがみに、俺ははっきりと一言一言を伝えていく。
「それなら、俺達はお前がついて行こうと思えるような背中を見せてやりたいんだよ!!」
俺は泣き叫んだ。しにがみも泣き喚いた。その車内は、酷く熱気が溜まってたと思う。しにがみとハグをしあって、泣いた。目が腫れるほどに。そのおかげか目が痛くて痛くて仕方がない。
「…お前、俺について来れるか?」
「………バカなんですか?ついていかない選択肢なんてありませんよ。」
勇気のある眼差しに、俺は笑顔を返した。
───その後はトラゾーとクロノアさんも帰ってきて、俺たち分の飲み物も買ってきてくれていた。何とも、こちら側の勝手な都合なのに、気を利かせてしまった。
しゃーねぇ、今度ご飯でも奢ってやるか。
「…撮影、したいな。」
ふと走行中の車の中でしにがみがポツリと言葉をこぼした。しおっとした顔をしながらコンポタの暖かな缶を両手で握り、窓の外を見ていたしにがみに俺は返した。
「───俺も、ずっとしたくてしたくてたまらなかった。」
2人でそう会話をしていると、運転席と助手席から声が聞こえた。
「お前らだけじゃねぇんだからな!俺たちだって撮影なくて暇だったんだよ!!」
「しにがみくんとぺいんとは罰としてネタたくさん考えてね。俺、トラゾーと2人で撮影停止期間中めっちゃ考えたんだから!!」
2人のやわらかくもあたたかな笑い声に、ふと釣られる。
「まじかー!早速仕事なのに嬉しいわ!!」
「ですね!これはいいアイデアが思い浮かびそうですよ!」
4人で笑い合うこの空間が、やっと来てくれて嬉しいなんて、言えるわけがないよ。
コメント
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完結おめでとうございます!! この作品ほんっとうに大好きです!! また見返します!!神作を本当にありがとうございます!!