コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「人ってなんのために生まれるんだろうね」
肌寒い夜の下、僕の彼女はそんなことを言う。僕はポケットから煙草を取り出し、まるでその質問から逃げるように火をつけた。彼女はずっと前に、足を失ってしまい、生憎、歩けなくなってしまった。
「ごめん、いきなり重くなっちゃうね。」
彼女は寂しげな顔をして、足元に目をやった。固い地面には、1輪の小さな花が咲いている。僕が優しく彼女の頭に手を置くと、彼女は泣き出してしまった。
「なんで、なんでだろうなぁ、、私は幸せだったのに。」
彼女の幸せを過去形にしてしまったのは僕のせい。彼女は遠出が好きだった。色んな場所へ何度も、何度も、何度も二人で行った。僕も彼女もそんな時間が好きだった。
「来年は、海を渡る約束だったよね。しばらく外には出られないからって。その前に、実家にも挨拶って、私、私、ずっと、」
もういい。もう言わなくていい。ごめん。ごめんよ。
なんて、僕が言える訳もなく、静かに彼女を見つめる。彼女は1人で泣き続ける。僕もつられて泣く。二人で泣く
彼女の横から、大きな男の人と、小さな子供が歩いてくる。彼女は浮気でもしたのだろうか。
「きっと、浮気だって思われちゃうよね。」
「違うの。貴方との子なの。」
僕はきょとんとした。訳が分からなかった。どうやら、男の人は、彼女の兄のようだ。
「もうこんなに大きくなったよ。」
その小さな子供は、卒園の帽子を被り幼稚園の制服を着た、女の子。その子供は、俺の前に来て、ただ一言
「ぱぁぱ」
それだけ。でももう十分だった。僕は遠のいていく意識の中、妻と子供にハグをして、そしておでこにキスをした。
そうして、僕の名前が掘られた石の前で、彼女は言った。
「2人でつけようって話した名前。幸せになれますよにって、幸。」
みんなが泣いている中、
小さな紫苑だけが強く、強く咲いていた。