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日曜日
私は朝から高揚していた。
今日は待ちに待った大型コスプレイベント『コスプレ・ファンタジア』の開催日だ。
昨晩の撮影データを修整し、SNSにアップしてから、私は戦場へと向かった。
イベント会場は熱気に包まれていた。
私はお気に入りの、淡いピンクのフリルが幾重にも重なった、少し露出の多い
セクシーな魔法少女の衣装に身を包む。
白くて長いウィッグをなびかせ、カラコンで瞳の色を変え、完璧な『レイア』としてそこに立っていた。
「レイアさん!こっち向いてください!」
「最高に可愛いです~!」
「めっちゃ色気ありますね…」
無数のカメラのフラッシュを浴びながら、私は完璧な笑顔を作る。
そう、これ。この瞬間だけは、私は誰からも必要とされ、愛されていると感じられる。
「氷の女王」なんて、誰も呼ばない。
——しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
夕方、イベントが終了し、私はクタクタになって会場を後にした。
本当は更衣室で着替えるべきだったのだが
長蛇の列に並ぶ気力が湧かず、上から大きめのマウンテンパーカーを羽織り
ウィッグはそのままで、タクシーで自宅の最寄り駅まで戻ってきた。
駅前のコンビニで夕食を買って、家でゆっくり着替えればいい。
この格好でも、パーカーの前を閉じていれば、少し派手な髪の女の子にしか見えないはず……。
「……うう、足が痛い」
慣れない厚底のブーツのせいで、足が悲鳴を上げている。
私は駅の近くの小さな公園のベンチに座り込み、ヒールを少し脱いで足をさすった。
パーカーの裾から、魔法少女のフリルが少し覗いている。
……誰にも見られませんように。
「——あれ? レイアさん……?」
突然、頭上から声が降ってきた。
その声に、私は心臓が凍りつくのを感じた。
ありえない
どうして、ここに。
ゆっくりと顔を上げると、そこにはコンビニの袋を手にした、私服姿の真壁湊が立っていた。
3枚目の画像にあるような、少し驚いたような
でもどこか面白がっているような、あの瞳で私を見下ろしている。
「……な、ななな」
声が出ない、パニックで頭が真っ白になる。
よりによって、一番見られたくない相手に。
私が固まっていると、真壁はベンチの前にしゃがみ込み、私の顔をじっと覗き込んだ。
「やっぱり。この顔、神代マネージャーですよね? ……いや、今は『レイア』さん、って呼ぶべきなのかな?」
真壁の手が、私の白いウィッグに伸びる。
「やめて!」
私が叫ぶのと同時に、彼はウィッグを軽く引っ張った。
……ずるりと、ウィッグが外れる。
そこから現れたのは、汗で張り付いた私の地毛と、怯えきった私の顔。
「…え、これって本当に、あの……?」
真壁は、私の魔法少女の衣装と、私の顔を交互に見て、今度は心底驚いたような表情を浮かべた。
終わった、と絶望する。
「……見たわね」
私は震える声で、絞り出すように言った。
「神代怜」の全てが崩れ去る音がした。
私は慌ててウィッグを奪い返し、パーカーの前を必死に閉じる。
涙が溢れそうになるのをこらえ、私は真壁を睨みつけた。
「……今の、誰かに言ったら、ぶっ殺すから。……いい? 絶対に、誰にも言わないで!」
私はそれだけ言うと、痛む足を無視して、全力で公園を駆け出した。
背後で真壁が何かを言っている気がしたが、聞こえないふりをした。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
明日、会社に行けない。
でも、この時の私はまだ知らなかった。
彼がこの「秘密」を、ただの脅しのネタにするつもりなどないことを。
#コスプレ
#ドS
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