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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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「遊びに行きたぁーーいっ!!」



 リビングで大声を出してジタバタとする私。学校も夏休みに入ったことだし、これからは毎日遊べるから嬉しい。そう思っていたのに……。

 今、私はお兄ちゃんに監禁されているのだ。その監禁生活も、今日で七日目になる。夏休みを一週間も無駄にしてしまった。




 ────ポコンッ




「痛っ!」


「遊びたいなら、さっさと宿題やって」



 丸めたノートで頭を殴られて、口を尖らせながら頭をさする。



「……鬼」



 チラリとお兄ちゃんを見ると、ポツリと小さく呟く。



(本当は大声で叫びたいけど……お兄ちゃん怖いから)



「あっそ。じゃあ一人でやりな」



 そう告げると、椅子から立ち上がって歩き始めたお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんの腕を慌てて掴むと、私は顔を見上げてヘラリと引きつった笑顔を浮かべた。



「嘘です、お兄様……手伝って下さい。私を一人にしないで……っ」



 そんな私を見てプッと笑ったお兄ちゃんは、再び私の横に座ると宿題を見てくれる。

 毎年、夏休み最終日にひぃくんに泣き付いている私。今回はそんな事にならない様にと、最初に終わらせるように言われてしまったのだ。



(ひぃくんだったら全部代わりにやってくれるのになぁ……)



 今回も、実はひぃくんに期待していた私。



『響は甘やかすからダメ!』



 とお兄ちゃんに言われてしまった。



(なんて不幸な私……)



 お兄ちゃんはスパルタなのだ。


 幸い、何だかんだでお兄ちゃんも手伝ってくれているから、何とか今日で終わりそうだ。スパルタだけど、優しいお兄ちゃん。

 そんなお兄ちゃんは、自分の宿題を二日で終わらせてしまった。なんて羨ましい頭脳……。同じ血を分けているとは思えない。



(ポンコツすぎるよ……私)



 高校受験だって、お兄ちゃんとひぃくんがいなかったら絶対に受かっていなかったと思う。



「お兄ちゃん、ありがとう」



 隣にいるお兄ちゃんをチラリと見ると、私と目が合ったお兄ちゃんは優しく微笑んだ。



「あと少しだから頑張ろうな」



 そう言ってポンポンと頭を撫でてくれる。

 私はお兄ちゃんに向かって「うんっ」と返事をすると、その後もの凄い集中力で宿題をこなしていった。

 




 


◆◆◆







「終わったぁー!」



 全ての宿題を終えた私は、解放感からその場で大きく伸びをした。

 視界に入ってきた掛け時計をチラリと見てみれば、もう午後三時を周っている。



(朝十時からやってたのに……)



 どうやら、お昼も忘れて宿題をしていたらしい。



「お疲れ様ー」



 突然の声に振り向くと、そこにはひぃくんの姿が。ソファに座ったまま背もたれに両腕を乗せ、私達のいるダイニングを見ているのだ。



「え!? ひぃくん、いつ来たの?」


「んー……お昼くらい?」



 小首を傾げてフニャッと微笑むひぃくん。



(え……全然気付かなかった)



「二人共もの凄く集中してたから、邪魔しちゃ悪いと思って……。ずっと見てた」


「えっ!? ずっと見てたの!? 全然気付かなかったよ……」



(三時間も見ていたなんて……。なんて暇な人なんだろう)



 そんな風に思っていると、ダイニングへと近付いて来たひぃくんが口を開いた。



「お土産があるんだー」



 ニコリと微笑んだひぃくんは、そう告げるとキッチンへと入って行く。その数秒後、再び戻ってきたひぃくんの手元には──。



「……シュクレッ!」



 途端に瞳を輝かせた私は、思わずひぃくんに飛びついた。

 そんな私を、クスクスと笑いながら優しく見つめるひぃくん。その手には、私の大好きなケーキ屋さん『シュクレ』の箱が握られていた。



「頑張った子には、ご褒美あげなきゃねー」



 そう言って私の頭を優しく撫でてくれるひぃくん。

 


「やったー! ありがとう、ひぃくん!」



 ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ私。

 そんな私の腕を掴んだお兄ちゃんは、私を椅子に座らせると「お皿持ってくるから座ってな」と言ってキッチンへと消えてゆく。



「いっぱい買ったんだー。花音、どれ食べたい?」



 ニコニコと微笑むひぃくんに箱の中身を見せられ、私はキラキラと瞳を輝かせた。



(どれも美味しそう……。んー迷うなぁ)



 あーでもないこーでもないと悩む私を見て、ひぃくんはクスリと笑う。



「半分コにして色々食べてみる?」


「うんっ!」



 ひぃくんの提案に即決する私。

 今日は何ていい日なんだろう。宿題は終わったし、シュクレのケーキは食べれるし……。



(……幸せだなぁ)



 思わず顔がニヤけてしまう。


 お兄ちゃんが持ってきてくれたお皿にケーキを取り分けると、私達はそれぞれにケーキを食べ始める。半分コな私は、ひぃくんから「あーん」なんてされているけど、今の私は幸せだから気にしない。

 素直に食べさせてもらっている私を見て、ひぃくんは随分とご機嫌の様だ。



「可愛いねー、花音」



 そんな事を言われながらケーキを口に運ばれる私は……さながら餌付け中の犬だ。

 お兄ちゃんの視線がちょっと痛い。



「宿題も終わった事だし、今度花音の行きたいとこ連れて行ってあげるね」


「本当!?」


「うん。どこに行きたいか考えといてね」


 ニッコリと笑ったひぃくんは、そう告げると私に向かって顔を近付けてくる。



(……えっ?)



 と思った時には遅かった。ひぃくんは私の唇に付いたクリームをペロリと舐め取ると、フニャッと笑って「美味しー」と言った。



「……響っ!?」



 慌てて椅子から立ち上がるお兄ちゃん。



(えっ……? ……え!? えぇぇええーー!!?)



 握っていたフォークを落とした私は、口元を抑えると呆然とした。



(私……の……ファーストキス……、が……)



 呆然としたまま隣を見ると、そこには幸せそうにニコニコと微笑むひぃくんがいる。



(な、なかった事にしよう……。なかった事にすれば……きっと大丈夫。……うん、これはキスじゃない。犬に舐められただけ。大丈夫……ひぃくんは犬)



 訳のわからない暗示を自分にかけた私は、思いっきり痙攣った笑顔でひぃくんを見つめ返すことしかできなかった。








◆◆◆








「海に行きたい!」


「海はダメ! 絶対ダメ!」


「ひぃくんの嘘つきっ! この前行きたいとこ連れてってくれるって言ったのにっ!」



 私は今、自宅のリビングでひぃくんと口論をしている。

 海に行きたいと言う私に、ひぃくんは首を縦に振ってくれないのだ。



(ひぃくんの嘘つき……! 行きたいとこ連れてってあげるって言ったのに!)



「ひぃくんなんて嫌いっ!」



 プイッと顔を背けると、ひぃくんは焦った様に私の顔を覗き込んだ。



「ごめんね、花音。でも……裸で海に行くなんてダメだよ」



 悲しそうな顔でそんなことを言うひぃくん。



(もうっ! 何なの!? この前の時といい、裸裸って人を変質者みたいに……!)



「裸でなんて行かないよっ! ちゃんと水着着るもん!」


「っ……、あんなの裸と一緒だよーー!!」



 私の肩を掴んでガクガクと揺らすひぃくんは、大きな声でそう叫んだ。



(み……耳が痛い……っ)



 至近距離で叫ばれた私の耳は、鼓膜が破れるんじゃないかってくらいにキーンとしている。



「……もういい。ひぃくんとは行かない」



 私の言葉にショックを受けたのか、ひぃくんは目を見開いたまま固まってしまった。



(もういいもん……。ひぃくんとなんて行かないんだから。彩奈と一緒に行くもん。ひぃくんなんて知らない!)



 そう思って立ち上がると、突然ひぃくんが私の腕をガシッと掴んだ。

 驚いた私が振り返ると、ニコッと微笑んだひぃくん。



「プールならいいよ?」



(えっ? ……プール? プールならいいの……?)



 本当は海に行きたかったけど、この際プールでもいい。



「本当!?」


「うん。じゃあ、今からプールに行こうね。着替えておいで、俺も準備してくるから」



 そう言ってニコニコ微笑むひぃくん。

 何で突然いいと言い出したのかはわからない。だけど、プールに行けるならそんなことどうだっていい。



「うんっ! わかった!」



 笑顔でそう答えた私は、ルンルン気分で二階へと上がって行く。

 この時の私は、まさかあんな地獄のプールが待ち受けているとは……これっぽっちも思ってはいなかったのだ。




ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

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