「見て見て!すっごい!映画で見たお城まんまだよ!」
遊園地の入り口から見て真正面にあるお城を見て、君が子供のようにはしゃぎだす。ここは、グリム童話をコンセプトに作られたテーマパーク。日本で一、二を争うほどに人気の遊園地だ。
「ほんとだね!おっきいお城だねえ!」
「ねえ!あそこの前で写真撮ろうよ!私たち二人で!」「いいね!撮ろう撮ろう!」
二人で撮る写真。乗りたかったアトラクション、見たかったショー。二人で初めてデートをした遊園地を思い出しながら、君との思い出を次々と更新していく。あまりにはしゃぎすぎて疲れた僕らは、園内のレストランで食事をすることにした。
「ありがとうね。」
君は席についた途端、改まった様子で小さく呟いた。
「ん?急にどうしたの?」
「君がいなかったら、私は今頃この世界にいなかった。この遊園地にだって、一生来ることができなかった。だから、ありがとう。」
「ありがとうは、僕の台詞だよ。生きていてくれて、ありがとう。」
僕の返す言葉を聞いた途端、突然君がクスッと笑い出す。何かおかしいことを言っただろうか。
「なんだか、ありがとうって言葉、いいよね。ありがとうって言ってもらえると、私は今ちゃんと生きているんだ。って思うことができる気がする。」
「それはありがとうを伝える方も一緒だよ。生きているからこそ、相手に感謝を伝えたいって思うことができる。」
「それもそうだね。二人とも幸せな気持ちになれる。やっぱり、いい言葉だよ。」
アコーディオンと金管楽器による愉快なBGMが園内に響く中、幸せを噛み締めるかのように君と二人の時間がゆっくりと流れ出す。
幸いにも、閑散期の影響で次々とアトラクションに乗れた僕らは、やりたいことをひと通り終えた後、ベンチに座って君と空を眺めていた。空は太陽が沈みかけてオレンジ色のグラデーションが拡がっている。君と見る空は、いつだって綺麗だ。
そこを通りかかるカップルや女子高生たち。みんな、全力でこの空間を楽しんでいる。きっとみんな、形は違えど大切な人とここへきているんだろう。一人一人に物語があるんだ。
そんなことを考えながら人間観察をしていると、ベビーカーを押しながら歩く若い夫婦が僕らの前をはしゃぎながら横切った。その夫婦を見た君は、突然表情が曇り出し、一度僕を見たあとで、すぐに目を背けた。
「なにかあった?大丈夫?」
………。
君はなにも言わないまま、相変わらず僕の方から目を背けたままだ。
「ごめんね、言いたくなかったら大丈夫。ちょっと疲れちゃったよね、そろそろ帰ろっか。」
………。
何も言わない。一向に目を合わせようとしない君に、僕はそれ以外かける言葉が見当たらなかった。君が話そうとするまで、僕は静かに待ち続けることにした。