sideセラ
甘い金木犀の匂いがして、秋の風がやっと吹いた気がした。少し寂しい気持ちになるなぁ。何も寂しいことなんてないけれど、なぜか心が痛くなる。
「あ、マイ!ウミ!」
私は幼馴染みのマイとウミを見つけて走り出した。
マイはハーフの男の子だ。
緑の目、そして白い髪と睫毛を持っている、少し変わった男の子だ。明るい性格で見た目もそんなだからとても目立つ存在だ。
ウミはとにかく普通の男子。たれ目で柔らかい印象だ。真っ黒い瞳は少し印象深いけど、あまり好かれないし嫌われない。そうだ、ウミは髪の毛が少し長めだ。そういえば髪も真っ黒だ。黒い髪と目は綺麗だけど、それだけでは学校では目立たない。
「ウ~ミ!なあ、今日お前ん家いっていい?いいだろ?」
マイがウミに言った。
「いいけど。明後日テストだよ?マイは授業態度よくないし、テストも大丈夫なのか?マイはハーフと言っても英語さえできないし。」
「まあな!ダイジョブ!なんとかなるだろ!」
マイは笑顔でグッ!と親指を立てた。白い歯がキラッと光る。
「ウミは成績いいもんね!すごいよね!」
私がそういうとウミは嬉しそうに笑って
「ありがと、セラ。」
と言った。口角を少しだけあげる。この、へらっ、としたウミの笑顔が私は好きだ。
「セラもすごいよね、俺と違って文武両道だし。」
ウミはそう笑う。
「ありがとう!」
私も笑顔で答える。
「俺も褒めろよ、セラ!」
マイが膨れっ面で言う。
「えー、でも、褒めるとこないなぁ…」
冗談っぽく言ってみた。マイはひどい、と言ってその後笑う。
「確かに今の会話じゃ褒めるとこないか。」
「認めんのかよ。」
マイの正直すぎる発言にウミが絶妙なタイミングでツッコミを入れた。
でも、いつもならマイは、『俺もセラの好きなとこなんて、ないし~~!!』って、言いそうなのに。まあいいか。
私が笑うと、マイとウミも笑った。
「はやく行くぞ、ウミ、セラ!」
「うん!」
「うん。」
そういえば、帰りに2人と一緒になることは多いけど、行きはなぜかウミだけ早いな。今度誘ってみようかな。いや、まあいいか。
ウミの家で私たちはまた話をした。
「そういやさ、佐藤さんと田辺、付き合ってるらしいよ。佐藤さんだよ、あの一匹狼の。」
マイがすごく驚いた様子で言った。
「えぇ、佐藤さん!?」
私も驚いた。くれはちゃんとはそこそこなかがいい。でも男子とは一切会話しない感じだ。
「えぇ、誰?てか俺田辺ってやつも知らない…やべ…」
ウミが笑いながら言った。でも、こっちもなんだかいつもと違う、気がする。
「ウミはほんと周りのやつとか興味ねぇよな、まあウミらしいけど。」
マイは、それもいいよな、と言った。
「俺も、そうなりたいな。」
スンとした表情。一瞬あらゆる光が消え失せ、周りの明るみは全ていつの間にかなくなっている。そんな、…気がした。顔はよく見えないから。
マイはハッとして言った。
「ご、ごめん、話の続き…なんだったっけ。」
ウミは少し眉を潜めた。
私はマイの顔を覗き込むように見た。
ウミがハッとしたように私を止めたのを、知らなかった。
マイは俯いて顔を歪めていた。
マイ…?
「なにか、あったの?」
私が聞くと、ごめん、と言ってマイは飛び出していった。
私は驚いた。追いかけようと、その場を立つ。
そのとき私の腕がぐん、と引っ張られた。
「だめだ。行くな。」
ウミは汗をたくさんかいていた。目が見開かれていた。私はそんな見たこともないウミに驚き、そして動けなくなった。
「ごめん、」
ウミはパッと手を離した。
「セラも帰る?送るよ。」
ウミがそういって笑ったから、私はうん、と言えた。
ウミがまたへらっ、と笑ってくれたから、落ち着いて、帰ることができた。