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「あけおめ~!今年もよろしくね!」


「こちらこそ今年もよろしく」


年始のバタバタも落ち着きつつある1月下旬の仕事終わり、蒼太くんと私はいつものダイニングバーのカウンターで隣に並び飲んでいる。


今日は年明け初めての例のコラボの打合せだった。


すでに仕事で先に顔を合わせたけど、こうしてプライベートで飲み友達として会うのは、今年初めてだ。


「なんかすっごい久しぶりな感じするね!」


「確かに!年末年始挟んで色々忙しかったから1ヶ月ぶりくらい?」


「そうかも!どう?元気だったー?年末年始は百合さんとも会ったの?」


私たちはこの1ヶ月の出来事を話し出す。


もちろん私は百合さん情報も聞き逃さない。


「この1ヶ月は忘年会と新年会に追われてたよ。仕事の付き合いだから断りづらいし、営業の辛いとこだわ」


「大変だね。広報はそういうのあんまりないからありがたいかも」


「姉ちゃんもないって言ってたな。年末年始は実家帰った時に姉ちゃんに会ったよ。まぁ姉ちゃんは今年は年末だけで、年始は大塚家の方に顔出したけど」


去年結婚した百合さんは、今年から旦那さんである亮祐常務の実家にも顔を出す必要があり、年始に行っていたらしい。


(亮祐常務の実家ってことは、うちの会社の創業者一族っことでしょ!?きっと百合さん緊張しただろうなぁ~。気疲れ大変だったに違いないっ!)


推しの苦労を慮っていると、蒼太くんはその私の想いを察したようで言葉を付け加える。


「たぶん由美ちゃんが思ってるような感じじゃないよ。姉ちゃん、なんか向こうの家から歓迎されてるらしくて良くしてもらってるんだって」


「さすが私の推し!!」


それにしても蒼太くんは相変わらず察しの良いことだと感心してしまう。


こんなふうに察してくれる蒼太くんがモテるのは分かる気がする。


イケメンだからというだけではきっとないのだろう。


「由美ちゃんは年末年始どうしてたの?」


「私はね~、年末年始は実家でゴロゴロ、年始は学生時代の友達と初詣行って来たよ!」


神社がめっちゃ混んでたことや、友人達が必死に祈ってたことなど、私は利々香と千賀子と出掛けた日のことを話す。


蒼太くんは興味深そうにふんふんと頷きながら聞いていた。


「へぇ初詣か。ちなみに由美ちゃんは何を願ったの?」


「私はもちろん推しのことだよ!今年も有意義な推し活が楽しめますようにってお願いしたよ~!」


「ははっ、由美ちゃんらしい!」


蒼太くんは大爆笑だ。


目尻に涙を溜めてお腹を抱えて笑っている。


それは呆れたとか馬鹿にしたような笑いではなく、単純に面白くて笑っているものだった。


「ちなみに推し活って具体的にはどんなことしてんの?推しがアイドルとかだったら、コンサート行ったり出演してる番組見たりとか色々あるだろうけどさ」


「まずは会社で百合さんをウォッチングすることでしょ。それと推しの弟である蒼太くんから情報を得たりとか!あとは休日も‥‥」


「休日?何かすることあんの?」


意外そうに蒼太くんは目を丸くする。


まぁ確かに会社の先輩を推しとする私が休日に推し活をしているのを意外と思ってもしょうがない。


私は丁寧に説明してあげることにした。


「うん!確かに平日の会社がメインだけど、休日も百合さんが勧めてくれたものや場所を体験してみたりしてるの!実はモンエクをやったのも、仕事っていう理由もあるけど、それより百合さんがハマったって言ってたから私も体験したかったっていう理由の方が大きいし」


「そんな楽しみ方があるわけね。それじゃあ、今度休みの日に姉ちゃんが昔よく行ってたカフェとか、好きな美術館とか案内しようか?」


「えっ、本当に!?すごく嬉しい!!」


思ってもみなかった提案に、私の気持ちは急上昇だ。


蒼太くんなら私より百合さんのこと色々知ってるし、コアな場所に連れてってくれそうだ。


「今週末の日曜日でどう?」


「もちろんオッケー!楽しみーー!」


「日曜なら美術館がいいかもな。じゃあ待合せ場所とか時間とかはあとでメッセージでやりとりするってことで!」


「はーい、了解!」


私たちは今週末の日曜日に美術館に行くことになった。


ワクワクする気持ちが隠しきれず、私の顔には満面の笑みが広がる。


そこで、ふと我に帰る。


(あれ?休日に2人で出掛けるんだよね?これって俗に言うデートだったりする!?)


蒼太くんとはいつも平日の仕事終わりに飲んでいるだけなので、休日に会うのは初めてだ。


それに気付くと楽しみの反面、なんだか急にソワソワしてくる。


蒼太くんをチラッと盗み見るが、彼は照れるでもなく、ソワソワするでもなく、至って普通だ。


そういう恋愛的な意味で誘ってくれている意図は全く感じ取れない。


(蒼太くんは全然そんなデートとかのつもりじゃないはず。私の推し活に付き合ってくれるだけのこと!なに意識してんだ私!)


心の中で動揺する自分を戒める。


これはきっとついこの前、利々香にデートとか言われたから思い出しただけに違いない。


今回のこれは断じてデートではないのだ。


私は自分に言い聞かせ、利々香の言葉を思い出すのを拒否するように首をブンブンと振った。


そして迎えた日曜日ーー。


私は少し早く到着し、待ち合わせ場所の美術館前で蒼太くんを待っている。


着ている服は、年始に利々香に選んでもらった、あのワンピースだ。


(まさかこのワンピースの出番がこんなに早々やってくるとは思わなかった‥‥!)


なんだか利々香の思惑通りな感じがしてちょっと癪だったけど、男性と休日に出掛けることなんてない私には全然着て行ける服がなかったのだ。


ニットのワンピースにコートを羽織り、足元はブーツという格好で、休日らしいカジュアルさもありつつ可愛らしさもある。


昨日さりげなく利々香にメッセージで「ワンピースに何を合わせるといいと思う?」と聞いてみたらアドバイスされたのだ。


もちろんデートだなんて一言も言ってないけど。


だってこれはデートではなく、あくまで推し活なのだ。



「由美ちゃんお待たせ!ごめん、待った?」


蒼太くんは待ち合わせ時間ぴったりに颯爽と現れた。


平日に会う時は仕事終わりということもありスーツ姿ばかりだけど、今日は明るい色のセーターにチノパン、カジュアルなコートという休日仕様な服装だった。


こんなカジュアルな服装もとても似合っていた。


いつもと違う感じに、私は妙に緊張してしまう。


「え、あ、全然待ってないよ!大丈夫!」


「由美ちゃんは休日だとこんな感じなんだ。ワンピース似合ってて可愛いよ」


「‥‥!あ、ありがとう!」


いきなりワンピースを褒められてビックリする。


蒼太くんから服装を褒められるなんて初めてだったから、なんだかくすぐったいし、変な感じがした。


「じゃあ行こっか。知ってるかもだけど、姉ちゃんは美術館巡りが好きでさ。ここの美術館はその中でもお気に入りなんだって」


「そ、そうなんだ!美術館巡りが好きなのは前に百合さんから聞いたことあったけど、ここがお気に入りなのは知らなかった~!」


「なんか落ち着くらしいし、あと併設されてるカフェも良いらしいよ。あとでカフェにも寄ってみよ」


「そ、そうだねー!」



休日仕様な顔を向けられるたびに、私はなぜか心臓がドキドキして、声が上擦ってしまう。


(蒼太くんに変に思われなかったかな!?これは推し活なんだから!何意識してんの、私っ!!)


私たちは入り口で展覧会チケットを購入して、中を見て回る。


「姉ちゃんは1つずつじっくり見て回る派なんだって。亮祐さんは気になるものだけじっくり見る派らしくてペースが早いから、いつも見終わったら出口で姉ちゃんを待ってるらしいよ」


推し情報に敏感な私のために、蒼太くんが美術館にまつわる百合さん情報をそっと教えてくれた。


美術館は静かにしなければいけないので、話そうと思うと小声になり、必然的に距離が近くなる。


180cmを超える長身の蒼太くんは、少し身を屈めて私の耳元に近寄って話しかけてくるから、わずかに息が耳にかかった。


この距離感にまた心臓が飛び跳ね、鼓動が激しくなってしまう。


(ううっ、せっかくの推し情報なのに全然頭に入ってこない‥‥!私の全細胞が蒼太くんを完全に意識してしまってる‥‥!!)


落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせて、なんとか平常心を保つ。


静かにしなきゃいけないのをいいことに、私は蒼太くんへ返事はせず、ただ頷いて応えた。



今日の私は一体どうしたのか。


自分でも自分が理解不能だった。


今までこんなふうに蒼太くんに緊張したことなかったのに。


(きっとこれは休日マジック!きっといつもと違うシチュエーションだからまだ適応できてないだけだ‥‥!)



蒼太くんは一緒に見る人のペースに合わせるタイプのようで、時折り他の人の邪魔にならない程度の小声で私に話しかけながら、展覧会を楽しんでいるようだった。


話しかけられるたびに私の心臓が飛び跳ねたのは言うまでもない。


途中、なんだかもうこのドキドキが苦しくなってきて、私はわざと鑑賞ペースを早めて、出口へと向かった。



展覧会を見終わった私たちは、予定通りそのまま併設されているカフェで一息入れることになった。


私は百合さんがお気に入りだというチーズケーキとコーヒーを、蒼太くんはシフォンケーキとコーヒーを注文する。


「俺、あんまり美術館とか来ないけど、なんか今日は楽しかったよ。由美ちゃんの反応見てるのが面白いというか」


「私の反応!?」


私が蒼太くんにいちいちドキドキしていたのがバレていたのかと内心焦る。


思わず大きな声が出てしまった。


「そう。自覚ないんだろうけど、絵を見ながら眉を下げて悲しそうな顔したり、眉を顰めて困惑した顔したり、ワクワクした顔したり、喜怒哀楽が顔に出てんだよ由美ちゃんは。絵より由美ちゃんの表情の方が見応えあった!ははっ」


蒼太くんは思い出すように笑った。


まさかそんなに自分の感情が顔に出てたとは全く自覚していなかった。


でもドキドキがバレたわけではなさそうなので、とりあえず一安心だ。


「てかさ、由美ちゃんと俺がコーヒー飲みながらケーキ食べてるのって何か新鮮じゃない?いつもはお酒とつまみだし」


「確かに!服装とかも休日仕様でいつもと違うもんね!」


(そうだ、そうだ!やっぱりシチュエーションの違いに違いない!新鮮だからドキドキするんだ!)


蒼太くんの発言に、私は激しく賛同する。


この正体不明なドキドキの原因が解明されたような気がして嬉しくなった。



「たまにはこういうのもいいね。あ、由美ちゃん、こっちのケーキも食べる?違うやつも試したいでしょ?」


そういって蒼太くんは自分の注文した食べかけのケーキを私の前に差し出す。


実は紅茶フレーバーのシフォンケーキを私も気になっていたのだ。


「もしかして、あえて私と違うケーキ頼んでくれたの?」


「メニュー見てる時に由美ちゃんめっちゃ迷ってたしね。俺はなんでも良かったから」


なんて察しが良くて、そして細やかな気遣いをしてくれるのだろう。


私は驚きと嬉しさで、思わず蒼太くんを穴が空くほどじーっと凝視してしまった。


「蒼太くんの察しの良さは一級品‥‥!」


「そんなことないって。由美ちゃんは分かりやすいから見てれば誰でも分かることだと思うよ」


でもそれって蒼太くんが私を見ていてくれたってことじゃないだろうか。


そう思うと私の心は、にわかに浮き足立つ。


(ん?でも私はなんでこんなに喜んでるんだ?なんで蒼太くんに見ていてもらって嬉しいんだ??)


また新たな疑問符が浮かび上がり、心の中の私は首を傾げた。


でも分からないことは一旦蓋をしてしまおうと、その疑問は見なかったことにした。



その後、私たちはケーキを交換してどちらの味も楽しみ、たあいもない話に花を咲かせ、休日の美術館で私は推し活を満喫したのだったーー。

初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

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