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コメント
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❤様がやっと🤍🧡に頼ってくれた描写がとても素敵です! あと、三文小説様の小説の内容に合っているかつユーモアなネーミングセンスが大好きです

よかったあーー🥹✨🤍🧡❤️ 🤍🧡さんたち❤️をたのむぞーーー!😉
みんなの声がする。
すぐ近くにいるこの子達の気配をこんなに強く感じるのは、勝手に力を分けてくるこの真っ赤な月のせい。
──やめてよ。こんな能力、全然欲しくない。
──必要だなんて、思ったこともないのに。
「舘さん、大丈夫…?」
「みんな、早く帰って…っ、ぁ”…」
「無理だよ、今のダテさん、一人に出来ない」
「お…願い、じゃないと…ぅ”ぁ”あッ…!」
「舘さんッ!きっ、気分上げよ!?ぇッと、ぁ…て、テレビ見よ!ん〜ッ、ぇいっ!」
リビングから寝室まで、テレビの音声が流れ込んでくる。
悲しげなサウンドトラックが流れ、直後、女性の悲痛な叫び声が耳を劈いた。
『アンタなんかが愛されるわけないじゃないッ!』
自分に向けられた言葉でもないのに、胸にナイフが突き刺さったような心地になると、サイドボードに乗った間接照明が、けたたましい音を立てて割れた。
「ぁややややッ!?ミスった!?」
「何してんですかッ!!」
「フッカさん!!タイミング最悪っすよ!?」
「消さなきゃっ…!ぁわわわわッ」
テレビの雑音が耳に痛い。
──うるさい、うるさい…ぅるさい…ッ!!!
握り締めすぎて白み切っていた手を、棚の上のガラクタを払い落とすかのように横に振ると…
ボンッ!ガシャンッ!!
遠くの方から聞こえた大きな衝撃音の後、耳障りな金切り声も、悲劇的なBGMも全てがピタリと静まった。
きっと、テレビは買い替えだろう。
「舘さん、とりあえず深呼吸しよ?ね?」
少しずつ、こちらへにじり寄ってきてくれるふっかから逃げるように、後ずさった。
「っ…こないで…ッ、、」
「舘さん、大丈夫だから、ね?」
怖い。怖くてたまらない。
これ以上こっちに来ないで。
じゃないと、じゃないと…
──きっと祓ってしまう。
そんなことしたくない。大切な友達を失いたくない。
自分じゃ制御できないの。だから。
お願いだから、近付かないで…ッ!!!!!
「ふっか、ぁ…っ、やだっ、〜っ来ないでッ!!」
「ぅぉわッ!!??!??」
距離を取るように腕を前に突き出すと、ふっかは勢いよく後ろに吹き飛んでいった。思うように力が使えなくて、大切な友達を守るどころか傷付けてしまっていることに、悲哀と絶望の波がますます押し寄せる。
その命の気配は、まだ辛うじて消えていない。
それがわかるだけ、今は十分ありがたかった。
「レン、油断しないで」
「うん、すごいね。体がビリビリする」
「えぇ、すごい霊力。気を抜いた瞬間、祓われてしまいそう」
「っぁはッ、いいね、俺が病む時とおんなじ匂い…ゾクゾクする」
「こら、不謹慎」
「二人とも、危ないから早く、、っ…」
逃げて、そう言いかけたとき──。
ピーーーーーーーーーン…ポーーーーーン……
インターフォンが鳴った。
宅配便が届く予定はなかったと思った。
誰にも会わずに今日を乗り切る準備を毎年しているのだ。
そんな抜けがあるわけがない。
では、誰が来たのか。
それを確かめるため、目を閉じた。
通路を通って玄関の外まで、“眼”を送り込む。
瞬間、大きな動揺が体を駆け抜けた。
──なんで…なんで…っ、家の住所教えてないのに…!?
『ここで合ってるんだよね?』
『やと思うで?ポン太がここで止まったんやもん』
『でも、舘さん出てこないよ?』
『寝てんのやろか?』
『えーっ!じゃあ悪魔くんが言ってたことはなんだったの…?』
『確かにな』
ドアの前に立っていたのは、ラウールと康二だった。
何故ここが分かったのだろうか。それに、何故来たのか。
こんな最悪の日に。
しばらく二人の会話を盗み“見”して、彼らの思惑を探ってみることにした。
『ねぇ、やっぱり心配だから会わせてもらおう?大丈夫そうなら帰ればいいしさ…』
『せやな。ほんならベル鳴らしまくろ』
──おい。ふざけんな。
ピーーーーーーーーーン…ポーーーーーン……
ピーーーーーーーーーン…ポーピーポピーーーーーン…ポーーン…
ピーーーーーンポピポピポピポピーーーン…ポーーーーン……
──あぁぁっ、もぉおおお…っ…。
先程のように腕を振りでもしたら、二人に何が起こるか分からない。
決して低いとは言えない階の廊下にいる彼らが、俺が腕を一振りしただけで塀の外に投げ出されでもしたら…と、考えたくもない想像が頭に浮かんではゾクっと体が戦慄いた。
下手なことはできない。
二人が諦めて帰るまで、耐えるしかない。
“眼”を寝室に戻して、延々と鳴り続けるインターフォンの音から逃げるように、両手で頭を抱え、蹲った。
「…出ないんですか?」
「…でない…でたくない…」
「何故ですか?」
「…あいたくない…それに、今あったら…ん”!?ぁ”、、ぁ”あッ!?」
よく分からない発作のようなものが、先程から定期的に訪れては心臓をギリギリと痛くさせていた。忘れた頃を見計らっているのか、突然襲いかかって来るので大変に腹立たしい。
「は…ぁ”…ッぅ”、ひッ、かひゅッ…ぁ”、ぁ”っ」
息をするのがやっとで、苦しくて、自然と涙が目に溜まる。
視覚も聴覚も全部が朧になって、今この目の前には何があるのか、全て分からなくなる。
辛うじて聞き取れたのは、守護霊たちの会話だけだった。
「はぁ…埒が開かない。レン、開けてきて」
「えっ、でも…ダテさんやだって…」
「いいから行ってきて」
「はい」
嫌な予感が、背中を這い回っていた。
ポンちゃんの道案内に着いて行き、辿り着いたのは一棟のマンションだった。
もしかすると、ここが舘さんのお家なのかもしれない。
康二くんが足を止めた部屋のインターフォンを鳴らしてみたが、舘さんが出てきてくれる気配はなかった。
悪魔くんが言っていたことが胸につっかえていて、このまま帰るのはよくないと、そんな予感でいっぱいだったので、出てきてくれるまで鳴らし続けてみようということになった。
何度目かの余韻が消えて周囲がシンと静まり返ったあと、二秒くらいの間があってからドアが開いた。
が、そこに舘さんの姿はなく、真っ暗で先の見えない廊下があるだけだった。
「…?!ドアが勝手に開いた……!?」
「舘が開けてくれたんかなぁ、念力とか使うて」
「あ、確かにそうかも」
「ちょい手ぇ離せんかったとか?」
「なるほど!ご飯作ってるのかもね!」
「…にしては部屋暗いけどな…」
「…そ、そうだね…」
「気抜くなや。絶対、怖がったらあかん。ええな?」
「うん……!!」
意を決して中に入ると、なんとも言えない生暖かい空気に包まれた。
それはどんよりと重たくて、寂しい匂いがした。
どこもかしこも真っ暗で、舘さんもなかなか見つからない。
リビングに入ってみると、画面が粉々に割れ、所々焦げているテレビが床に転がっていた。
「…強盗…じゃないよね…?」
「無くはないやろうけど、多分ちゃうやろな…」
リビングを出て更に奥へ進んでいくと、一部屋だけ赤い光がドアの隙間から漏れ出しているのに気が付いた。
「康二くん、あれ…」
「…っしゃ、行こか」
「…うん」
ごくっと唾を飲み込んでからノブに手を掛け、一気に開け放った。
真っ赤な月を逆光にして、黒い人影が一つ。
苦しそうに丸まった背中が小さく動く。
浅く、掠れた呼吸音が、静かな部屋に響いている。
「舘さん…?」と声を掛けると、それはゆっくりと顔を上げて、刹那──。
「帰ってッ!!!」
その痛そうな叫び声に乗せて、強い風が僕と康二くんに吹き付けた。
窓なんて全く開いていないのにどこから入り込んできているのか、まるで台風を正面から浴びているみたいで、立っているのがやっとだった。
──あぁ、今、舘さんは拒絶してるんだ。
そう、思った。
舘の姿を見た瞬間、全てを理解した。
彼は今、怯えているのだ、と。
俺は、舘に二度も助けられた。
みんなのことも、舘は平気な顔をして助けてくれていた。
だが反対に、舘が自分自身のことを救えたと感じられた瞬間は、どれくらいあったのだろう。
もしかすると、一度も無かったのかもしれない。
自分の能力に引け目を感じ、全てを諦めたまま寂しそうに微笑む。
あの目がずっと、頭から離れなかった。
だから、今度は俺が。そう、思ったんだ。
何も諦めていない、寂しいなんて一つも感じない。
そんな状態で、舘が心の底から笑えるようにしてあげたかった。
厚かましくても、お節介だったとしても、どうしても俺がそうしたかった。
他の人じゃ嫌だった。
俺じゃなきゃ、俺たちじゃなきゃ、絶対に嫌だった。
舘のことを一番見てきたのは、一番知っているのは、俺たちなんだから。
自惚れも甚だしいかもしれないが、ラウール以外には他の誰にも譲る気はなかった。
たとえ、舘がそれを望んでいなくても、一人で堕ちて行ってしまうことだけは、して欲しくなかった。
強く厳しい風が吹くせいで、舘のそばに行けない。
それならせめて、ここからありったけ届けよう。
「だて、だーて」
「…っ…」
「舘の力は、そうやって使うもんやない。舘が一番分かってるやろ?」
「わかんないよ…っ、だってッ、勝手に動いちゃうんだもん…っ!止められないんだもんッ…!もしかしたら、ほんとは、みんなを傷付けるためにしか使えないのかもしれない…っ…」
「んなわけあるかい。やったら、俺たち今なんでこんな元気やの?」
「それはっ…」
「舘言うてたな、俺とラウールが毎月集まってた日には、みんなにもなんかしら起こってたて」
「…そう…俺のせいだったの…全部俺が悪いの…」
「アホ、そのおかげで何組カップルできたと思てんねん。みんなして毎日イチャつきよって、こちとら羨ましすぎて歯から血ぃ出そうやわ」
「それはみんなが頑張ったからでしょ…?俺はなにもしてない」
「ええ方に目ぇ向けてみ、「せい」やない。「おかげ」や」
──こっからじゃまだ届かんか…。
もうひと押し、あと少し、千切れかけている舘の心を繋ぎ合わせられる“何か”を必死で探していた。
ドス赤い気持ちが膨れるたび、体の中に欲しくもない力が満ち満ちていくのを感じる。
明るいことでも考えておけばいいということだろうか。
残念だが、それは無理だ。できるなら、こんな苦労は初めからしていない。
「舘さん、元はと言えば僕たちがいけなかったんだよ、ごめんね…。舘さんは何にも悪くないんだよ」
──違う。俺なんかがここに存在してるから…。
「舘、自分で言うてたやんか。“怖がったら”あかん」
──なんの話?今二人を怖がらせてるのは、俺だよ…。
「舘さん」
「舘」
──やめて、やだッ…!!
そんな声で。
愛しむような、包み込むような甘さで…
「優しくしないでッ”!!!!!!!!!!!!」
そう叫ぶと同時に、ベランダの窓ガラスが全て砕けて飛び散った。
「もう帰ってよ………お願い…」
優しくされた分だけ、離れるのが怖くなる。
触れられた分だけ、また独りになったら苦しくなるって、痛いほど分かってるの。
これ以上は入り込んでこないで…。
今のままでいようよ…。
お互い何も知らなかった頃に戻ろうよ…。
これ以上騒ぎ立てないで。
臆病なくせに、何も出来ないくせに。
温もりを求めようとしないで。
今ならまだ間に合うから。
無かったことにできるから。
この一歩を踏み出さなければ、傷なんて一つも付かない日常に戻れるから。
だからもう、何も考えないで。望むこともしないで。
だって、少しずつ、少しずつ。
二人と離れたくないって、そんなこと、思い始めちゃってるから。
──そばにいて欲しい。近付いてみたい。
──黙って。それで二人に何かあったらどうするの?
──心を通わせてみたい。
──バカ言わないで。理解してもらえるわけないじゃん。また独りになるって分かんないの?
──愛してほしい。
──何言ってんの?自分のことすら愛せ…ない……や、つ…が…、ぁ…ぁ…っ…
──あぁ、そうか。そういうことか。
康二が言っていたことの意味が、やっと分かった。
一つの答えに辿り着くと同時に、散らばったガラスの破片が浮かび上がってくるのが視界の端に見えた。
「…ラウール、康二、ごめんね」
「へ…?」
「舘…?」
「俺、誰とも心を通わせたことが無かったの。深く関わった分だけ、自分の本当の姿を知られちゃった時、突き放されちゃった時、苦しくなるから」
「そんなことするわけないじゃんっ!」
「怖いって、一緒にいたくないって、たくさん言われてきた。そのうちに、誰のそばにも行かなくなった」
「よくまぁそない酷いこと言えたもんやで…」
「ほんとに…悔しい…その人たちに教えてあげたい、舘さんがどんなにすごいかって」
「違うの。同情して欲しいわけじゃなくて、気付いたことがあるの」
「ん?なんや?」
「教えて?」
「…嫌いって、そばにいたくないって、気持ち悪いって、誰よりも俺にそう思ってたのは、…ッ……俺だった…っ…」
「舘さん…、うん、そう見えるよ」
「だから言うたやろ?「怖がったらあかん」て」
「まだ間に合うかな…、俺、できるようになるかな…」
「当たり前や、失敗しても、またやり直したらええ」
「うん!僕たち、いつでも何でも協力するよ!」
「でも…やっぱり…」
自分自身を変えていくことって、こんなにも怖い。
足踏みばかりで決心し損なっているうちに、どんどんと不安が押し寄せてくる。
その気持ちに釣られて、空中に浮かんでいたガラスの破片がゆっくりと持ち上がっていく。
その鋭い先が、俺の意思を無視してラウールと康二の方に向いていく。
「っ…!?…なんで…っ…!?」
──だめ、やだっ、違う、そっちに行かないで…っ…
──二人のおかげでやっと前向けそうなの、お願い…っ、失わせないで…
ガク…ガクガク…ピクッ……
その切っ先が、今すぐにでも飛び出したいと唸るように震える。
「ラウっ、康二ッ…逃げて…ッぁ”!?ん”ぐぁ”あッ!!!」
「舘さん!?どうしたの!?」
「舘!!」
また発作が始まる。
心臓に、太い杭でも打ち込まれているみたいだった。
痛くて、苦しくて、重たい。
でも、止めなきゃ。
絶対に失いたくないの。
大切なメンバー、ううん、違う。
他の誰にも代われない、俺の大事な人、だから──。
「ぁ”ぐ…ぅ”ん”ん“ッ”…はぁ”ッ、はッ、っく、ぁ」
「舘さんやめて!」
「舘ッ!それ以上はあかん!」
──なんで止めるの?
──俺はどうなってもいい。二人を守りたいの。
──自分を信じれば、少しでも好きだと思えれば、今度こそ上手くできそうな気がするの。
──俺を見つけてくれた二人に、俺しかできないこと、したいの。
ブチ…ブチブチッ…
あの日と同じ、頭の血管が切れるような音を聞く。
目が血走っていくような感覚がする、鼻の下を温かいものが流れ落ちていく。
「舘さんだめッ!」
「舘!鼻血出てんねん!無理したらあかんて!!」
鋭い痛みが走る胸をギュッと握り潰し、強く力む。
一つでも多く破片が床に落ちるように、荒くなる呼吸をなんとか落ち着かせ、深く息を吸い込んでは吐く。
神経を研ぎ澄ませて強く念じると、
カラ…コツン……
と、ごく少ない欠片たちが、フローリングを叩く。
少しだけ前進できたことに嬉しくなるが、安心なんて全然できなかった。
破片はまだまだ残っていて、飛び出してしまわないように堰き止めるので精一杯だった。
「ぅ”っ、だからッ”、逃げて…ってば…ぁ”ア”ッ!?」
きっと、もうすぐ意識が途切れる。
体に力が入らなくなってきていることなんて、少し前から分かっていた。
俺が目を閉じた瞬間、望んでいないことが起きる。
だから、まだ眠るわけにはいかない。
その前に、二人を家に帰さなきゃ。
あの日みたいな痛みは、もう二度と、味わいたくない。
でも…、もうダメかも……。
気力も体力も、空っぽになってしまっている。
「ぁ”…っはぁっ…はっ”…ふっ…ん”……ッ!?」
息を一つ飲み込んだ瞬間、全てがプツッと切れた。
力を溜め込んでいた破片が、わなわなと助走をつけるように震える。
怖いくらいに、辺りがシンと静まり返る。
隣り合ったガラスたちが擦れる音だけが鳴っている。
カラ…カタカタ……ピシ…
──だめ…、
カチャ…キン……
──やだっ、…っ…だめッ…だめーーーッ!!
願いが聞き入れられることなく、その刃先は二人目掛けてまっすぐに進んでいった。
やはり自分にできることなんてたかが知れていたのだと、絶望に身を堕としかけた瞬間、誰かが優しく囁いた。
「やっと恩返しできる。リョウヘイ出番だよ」
「やれやれ、またこれを出す日が来るとは」
視線の先で立ち尽くしていたラウールと康二の手には、何かが握られていた。
ふわふわと浮かんでいたガラスの破片がこちらへ飛んでくる光景が、スローモーションのように映った。
ゆっくりと迫ってくるそれに目を奪われていると、いつの間にか僕と康二くんの手には一本ずつ傘が握られていた。
──え?いつの間に傘なんて持ってた?
──ていうか、この部屋に傘なんてあったっけ?
何に使うものかは全く分からなかったが、康二くんと目を合わせて、一つ頷き合った。
「康二くん、いこう…っ!」
「おうっ!!!」
傘を盾代わりにして、康二くんと一緒に舘さんの元へ駆け出す。
「ぅおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ガラスが当たっているはずなのに、不思議とその傘には傷が一つも付かなかった。
意識が朦朧としているのか、ぽーっと虚ろな目をした舘さんの胸元へ脇目も振らず飛び込んだ。
二つの傘の下で、ラウールと康二が俺を抱き締めていた。
ぼーっとする頭では何が起こったのか着いていけていなくて、気付いたらこの状態だった。
「ラウ…?康二…?」
「舘さん、どんな姿でも、僕たちは舘さんが大好きだよ」
「怯えんでええ。俺らがずっと笑わしたる」
「…っ、…」
「一緒に帰ろう?」
「まだ好きになってくれんくてもええ、まずは、自分のこと大事にしたって」
二人が優しく囁いて、頭を撫でてくれるたび、騒がしかった物音が静かになっていく。
吹き荒れていた風が凪いでいく。
浮力を失ったガラスが、赤い月の光に照らされている。
それはまるで、いちご味の琥珀糖のようで、柔らかく輝いては傘の上に優しく降り注ぐ。
「…ねぇ…」
「ん?」
「なんや?」
「俺…二人のそばにいてみたい、自分が、自分の周りにあるものがどうなっちゃうのか、二人が危ない目に遭わないでいられるのか、全然分かんないけど、それでも、一緒にいてみたいの…そしたらこの力、ちゃんと使えるようになれる気がするの」
「うん」
「ぁ…力のためじゃなくて、、っ…、その…二人といたら、自分のこと、ちゃんと愛せるようになれる気がするの…二人が気付かせてくれたから…」
「大丈夫や、ちゃんとわかってんで」
「だから…隣に居させてくれる…?そう思っててもいい…?」
「あほ、頼みたいんはこっちの方や。そばに居さしたってくれるか?」
「僕たち、舘さんが舘さんのこと好きになれるように、いつでも励ましてあげる。そばにいさせて、僕たちに、舘さんを幸せにさせて?」
「…ぁりがとう…っ…」
二人の優しさが温かくて、二人の愛情が嬉しくて、心臓がぎゅぅぅ…と締め付けられる。
今までに感じたことのない痛みは、どうしてか不快感がなくて、むしろ心地がよかった。
いつの間にか発作が収まっていたことにも安心していると、ふわふわと舞うようにして“友達たち”がそばに来てくれた。
──みんな、ありがとう。怖がらせてごめんね…。
「一件落着、って感じ?」
「そのようですね」
「リョウヘイ、カッコよかったよ」
「やはり満月の夜は面白いですね。ガラスを弾くほどのものを出せたのは、非常に僥倖でした」
「俺ほとんど寝てたからさ、どんな感じで解決したの?ねね、舘さん教えて!」
「それは僕たちからお話ししますから、さ、もう行きましょう。いつまでも僕たちがここにいるのはお邪魔でしょうし、始まるものも始まらないでしょうから」
「みんなで月見ながら散歩しない?マスターのとこ帰る前にさ」
「ぉー!いいじゃんいいじゃん!」
「ではミヤダテさん、僕たちはこれで失礼します」
「舘さんまたねー!」
「ダテさん、絶対大丈夫だよ、またね」
──ありがとう。本当に、ありがとう。
三人は手を振ると、すうっとその体を薄め、散歩に出掛けていった。
ぐちゃぐちゃに荒れたベッドの上で、しばらくの間三人で体を抱き締め合った。
ひとしきり気持ちも呼吸も落ち着いたところでお互いに腕を離す。
少し気恥ずかしくて、手持ち無沙汰を解消するようにきょろきょろと辺りを見回してみた途端、三人共が呆れたような笑い声を漏らした。
「あーあー、えらいこっちゃやで、これ」
「窓全部割れちゃったね」
「…っふ、ぁははっ…うん、これは酷いね」
窓ガラスは全て割れて風が入り放題になっていて、その破片たちは壁に突き刺さっている。花瓶も割れて、そのせいで部屋中水浸しだった。
唯一、枯れ切っていたはずの薔薇だけは鮮やかな色を取り戻し、フローリングの上に静かに横たわっていた。
「雨とか土埃とか入ってこんように、ゴミ袋でも繋げて貼っとこか」
「そうだね!僕と康二くんでやっておくから、舘さんは少し休んでて?」
「ぇ…ぁ…ありがとう…」
やっぱり、この二人は少しおかしい。
先程まで、怪我をするかもしれない危機一髪の状況にあったというのに、今はもう、すっかりケロッとした顔に戻っている。
フローリングモップでガラスを端に寄せ、ガムテープとゴミ袋を窓枠に張りながら楽しそうに談笑している。
こんなに拍子抜けしてしまうのは、初めてだった。
こんな風に平気な顔をされるのも、初めてだった。
──なんでこんな、変に慣れてるんだろう…?二人とも怖がりなはずだったと思うんだけどな…。
鼻血を拭き取りながらぼーっと二人を眺めていると、全て片付いたのか、彼らはふぅと息を吐いてからくるっとこちらを振り向いた。
無意識にじっと見つめてしまっていたことに今更ながらに恥ずかしくなって、誤魔化すように下を向いた。
顔が熱いが、大きくなりすぎた霊力の副作用で熱でも出ただろうか、なんて都合の良いことを考えて、無理矢理落ち着こうと必死だった。
「ぇっ…ど、どうしたの…っ…?」
「今日は俺ん家でみんなで寝よか」
「え”っ」
「さんせーいっ!」
「で…でも…っ…」
「舘ここで寝れるんか?」
「…が…がんばれば…」
「あかん。風邪引いてまうやろ」
「いやっ…でも今日は…変なこといっぱい起きるから…」
「なんのための“超常現象探求クラブ”やったと思てんねん」
「えっ…」
「舘さんのそばからずーっと離れないため、だよ?」
「ぁ…ぁははっ…、だからか…ふふっ…」
「ん?なんや?急に笑って」
「ううん、なんでもない。二人とも、ずっと、ありがとう」
「なんか分かんないけどお礼言われちゃった!うれしー!」
「こちらこそや。ほなそろそろ行こか、手ぇ出したりせぇへんから安心せぇ」
「そっ、そんなこと心配してないッ!」
「早く行こ!僕お腹すいちゃった!」
「ほやね」
「あっ、待って、ちょっと…!引っ張らないで…っ!ぅわッ!?」
「っと、大丈夫?」
「足フラついてるやん、タクシー呼ぼか」
ベッドから降りて床に足が付いた途端、ガクッと膝から力が抜けたところを、二人が受け止めてくれる。
なんでもないことのはずなのに、どうしてか、心臓は痛いくらいに激しく鼓動を打ち鳴らしていた。
自分自身のことは、まだよく分からない。
けど…きっと、二人のことは、もう、きっと──。