「騎士さんすっごーい」
と、目を輝かせるルフレ対してグランツは何も答えず、こちらを向いてほめとといわんばかりに私を見つめていた。
私は、どう返してやれば良いのか分からず、離してもらった手で彼の頭を撫でてあげた。これでは、親が子供に接するみたいではないかと思ったが、今の私にはコレが精一杯だった。
「す、凄いね。グランツ。剣だけじゃなくて、こっちの腕もいいなんて」
「……ありがとうございます。エトワール様に褒められると、とても嬉しいです」
はにかんだ笑みを浮かべる彼に私は、胸がキュンとなった。
何だこの可愛い生き物は! と心の中で叫ぶ私だが、それを顔には出さず何とか平静を保つ。やはり、自分は年下に弱いのでは?と思いつつ、私はちらりとルクスの方を見る。
ルクスはわなわなと震えており、怒りを抑えているのか声を絞り出すように言葉を紡いだ。
「僕だって、射的ぐらいできる!」
そう言ってむきになって、銃を構えるルクスはポンと可愛らしい音を立てて的を外してしまう。
その光景を見た私は、つい笑ってしまった。
すると、それが気に入らなかったのか、彼は顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。いやいや、そんなに怒らないでよ。と、思ったが口にするのは止めておく。
「何がそんなに可笑しいんだよ!」
「ううん、可愛いなって思っただけだから」
「う、嘘つけ! それに、可愛いって何だ!」
と、思わずでてしまった言葉を拾いあげたルクスはさらに顔を真っ赤にして指を指す。
ルクスは感情的にならないと思っていたからこれまた意外な姿である。さすがは双子といったところか。
ルフレはルクスより子供っぽくて、感情的になっていたけど、ルクスは違うと思っていた。だけど、やっぱり双子なんだなぁと再認識した瞬間であった。
系統は限り無く違うけどまだ、中身は子供なんだと私は思う。そんな真っ赤になって怒ってるルクスの頭上で好感度が点滅すると同時に、彼の好感度は13%になった。
(ほんとこの双子……何で上がるか分からない……)
ルクスはぷるぷる震えて何も言わないし、ルフレは次の的はどれにしようかなと景品をじっと見ていた。すると、ルフレがこちらを振向いたかと思うと自分の兄、ルクスの名前を呼ぶ。
「ルクス、ルクス、あれ狙おうよ」
と、ルフレが指さしたのは先ほどグランツが当てて落としたシロクマのぬいぐるみよりさらに大きいドラゴンのようなぬいぐるみだった。
あれは一発で落とせないだろ、と思っているとルクスは何か思いついたかのように、いいね。と語尾に音符がつくぐらい弾んだ声で言ったかと思うと、銃を構えた。
「あれ、落とせないでしょ」
「わー聖女さまひっど~い」
「ひっどい~」
私がぽろりとこぼした言葉を、またも拾って二人は銃を構えたまま顔だけこちらに向けてクスクスと笑った。
何か策があるのだろうが、一体あれを如何落とすのだろうかと気になって仕方がなかった。私は、グランツの隣でシロクマのぬいぐるみを抱きかかえながら彼らの行く末を見守る。授業参観で子供を見守る親ってこんな気持ちなのかな……とか、阿呆な事を思いながら。
(でも、私授業参観に一度も親来てくれなかったな……)
だから、こんな気持ち。と言っても、分からないわけで、私はそんなネガティブな思い出と思考を頭の片隅に避けてさらにぎゅっとシロクマのぬいぐるみを握る。シロクマのぬいぐるみは苦しいと言わんばかりにプレスされていたが、私にそんな事を気にする余裕なんてなかった。
そうして、構えられた2つの銃はドラゴンのぬいぐるみを捉える。
「一人じゃできなくても」
「二人ならできる」
そう、呟いたと同時にパンッと音が鳴り、二人の放ったコルクは一直線にドラゴンめがけて放たれ、放った銃弾は見事命中し、ドラゴンのぬいぐるみはぐるりと回転しその場に落ちた。
その行動に私もグランツ、周りの人も驚いている様子だった。
だって、あれは誰から見ても落とせないと思っていたから。
「やったぁ!」
「やったぁ!」
と、二人は手を合わせて喜ぶ。私もつられて嬉しくなって小さく拍手をした。
すると、ルフレはこっちを見て照れくさそうに笑う。そして、ルクスの方を見ると彼もまたルフレと同じように笑っていて、こちらもまた可愛らしく見えた。
(そう、黙っていれば可愛いのに……!)
口を開けば、毒を吐くのに、こういう所だけ純粋無垢な子供というかなんと言うか……。
まあ、そんなところも含めてルクスとルフレなんだろうけど。その後、彼らは景品を貰うとこちらに向かって歩いてきた。
「どう? 聖女さま、上手いでしょ」
「どうどう? 聖女さま上手いでしょ」
二人は同時に胸を張って自慢げに言う。
確かに、すごいとは思うが……
私は苦笑いをしながら、そうだねと返す。正直な感想を言うならば下手ではないと思う。というか、上手い下手ではかれるものではない。
二人は、きゃっきゃっと喜びながら次はあれが欲しいだのこれが欲しいなど話している。どうやら、ルクスのほうの機嫌も直ったようで二人とも上機嫌になっていた。
ピコンという機械音と共に二人の好感度が3上がる。
別に私は何もしていないのになあ……と遠目で見つつまあ、喜んでいるし、私的には好感度が勝手に上がったから良いかな。と思っていた。
「エトワール様ただ今戻りました」
と、双子が喜んでいる声に混ざって、リュシオルの声が聞え私は振返った。
そこには案の定リュシオルがおり、双子のメイドもどうも。と私に頭を下げた。私はそれにお疲れさまと労いの言葉をかける。
すると、リュシオルが私の方に近づき何か言いたそうな表情でじっと見つめてきた。
私は、その視線に耐え切れず私は何?と聞くとリュシオルは私の肩を掴んで上下に揺すってきた。
「ちょっと、あの可愛い双子何よ!」
「何って、ルクスとルフレ……」
「ちがくて! あんな可愛い双子ショタ最初から最後まで見たかったわよ! 尊すぎるでしょ!」
そうリュシオルはまくし立てるようにいい、さらに私を揺さぶった。そんな私を見て、おどおどする双子のメイドと、何も言わないグランツ。
リュシオルはこの双子できっと妄想しているんだろうなと、私は苦笑いするが、そんなことを妄想されていると知らない双子はキョトンとした顔でこっちを見ていた。
(もう、アンタのせいで変な目で見られちゃってるじゃ無い)
「聖女さまのメイドって面白いね」
「面白いねー」
双子はクスクスとリュシオルを見て笑う。
リュシオルはそれに対して、そうでしょうと胸を張るが多分褒められていないと思うと彼女に伝えると、それもいいでしょう。と笑っていた。
「あ、聖女さま、さっきのこと許してあげる」
「何の話?」
「うん? 何でも」
私がため息をついていると、ルクスがこっそっと私にそう言いニッコリと笑った。
何が許してあげるなのか、許されないことを私がしたのか全く分からなかったが、まあ彼の機嫌が直ったなら良いだろうと気にしないことにした。
思い当たる点があるとするなら、ルフレの興味がグランツに言ったことだろうか。でも、人の興味なんて操作できないわけだし私に八つ当たりされても困るのだが。
そう思っていると、ルクスとルフレはメイドの服を掴み帰る。と一言だけ言うと私達に背を向けて歩いて行く。
「あ……」
「何? 聖女さま」
「何? 聖女さま」
「あ、ううん、何でもないの。ああ、えっと、まあその内」
私は、そういえばこの双子にプレゼントを買ったんだったと思いだし、いつ渡そうかと考えていた。でも、勿論今手元にあるわけじゃないし、とってもどるにも時間がかかるため、また今度と諦める。
まあ、この二人にあいたいかと言われればNOに近い答えを出すだろうけど。
私がそう曖昧に返すと、変なのーと二人は声を合わせ私に手を振って人混みの中に消えてしまった。
全く、嵐みたいな双子だったと思いつつ、好感度が上げられたから一概に最悪な出会いだったとは言い切れない。寧ろ、ありがたかった。こちらから好感度を上げるために行動を起こさなくて良かったのだから。
「それじゃあ、私達も戻ろうか」
と、私はグランツとリュシオルに言った。
リュシオルは首を縦に振ってくれたが、グランツは、何か言いたげにこちらを見ていた。不満でもあるように。
私が如何したのかと聞けば、グランツは私の手をスッと取って翡翠の瞳を潤ませて口を開いた。
「エトワール様、俺、言いましたよね」
「え、えっと、えと……」
「貴方と二人きりになりたいと。ダメ、ですか……?」
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