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大学の用事が長引いたせいで、帰りはすっかり夜だった。
その帰り道、顔に冷たい水の感触がし、上を見上げる。
「雨か…」
これぐらいの雨なら急がなくてもいいだろう。桜の並木の中を通り抜けて行く。
雨に濡れた桜は、昼間よりも少し濃い色をしていた。
花びらは風もないのに、ぽとり、ぽとりと落ちていく。
落ちたそれは、濡れたアスファルトに静かに貼り付いた。
気づけば肩が少し冷えていた。
雨に濡れたシャツが肌に張り付いている。
「…寂しいな」
隣に陽がいないだけで、景色が少し寂しく見えた。
今頃、家で夕飯の準備でもしているのだろうか。
そんなことを思ったとき、スマホが鳴った。
「…もしもし?」
「あ、先輩。雨が降ってきましたけど、大丈夫ですか?」
「あー大丈夫、用事終わって、家に向かってるとこ」
「風邪引くんで早めに帰ってきてくださいね?」
「はいはーい」
「…今日の夜ご飯はシチューです。じゃがいもたっぷりの」
「春にか?」
「それがいいんでしょう。なので…早く帰ってきてくださいね?」
「フッ…分かった」
気づけば足取りが少しだけ早くなっていた。
通話が終わる。
本当に陽介は鋭いな。
月也はスマホをポケットにしまう。
足元で、雨に濡れた桜の花びらがまた一枚落ちた。
「帰るか。俺たちの家に」
雨の夜でも、そこには陽がいる。