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#女主人公
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一人大きく頷いた私は釣り竿を振るった。
当然使うのは練り餌だ。
生き餌は敷居が高すぎる。
誰かがつけてくれたのを振るうのも微妙なレベル。
それぐらい苦手だった。
竿を振るって待つこと数秒。
早すぎない?
鼻歌を謳う間もなく当たりの感覚。
強い引きではないので、腰を入れて一気に持ち上げる。
「え?」
餌は一つ。
針も一つ。
なのに何故、二つ同時に釣れたのだろう……。
生きの良さを表すようにばたばたとはためいている。
スカーフ二枚。
色は薄い水色と濃い青色。
鑑定するまでもないが鑑定する。
ウォーター スカーフ、アイス スカーフと出た。
「こんなに早く釣れるんじゃあ、時間をおいて竿を振るといいのかも……」
そんな独り言を言えば、ざばっと激しい水音。
足元に置いておいた練り餌箱の隣に、水の中から飛んできたのは傘。
「えーと?」
開いたり閉じたりしている。
何となくだが文句を言われている気がした。
「竿はがんがん振ってほしい。むしろ振るべきとか?」
傘に向かって話しかければ、傘はしゅぱりと閉じて、ころんと練り餌の隣に転がった。
鑑定の結果はホワイト アンブレラ 百合柄。
……一体何処まで私に都合が良いダンジョンなのかと!
多少は苦労するべきなのでは? と思うも、ドロップ以外の部分で面倒な目にあっている。
これはむしろ御褒美なのかもしれない。
あとは謝罪。
これからも面倒に巻き込むけどよろしくね? みたいな。
封印された神様との語らいができれば、似たような謝罪をされる予感があった。
「まぁ、少しは一般的な釣りっぽさを楽しませてくださいよ。そんなに長い時間は無理でも、一人きりで」
明確には一人きりではない。
子蜘蛛や子蛇が頑張ってフラグを折ってくれているようだ。
何せ幾度となく、そこまで遠く離れた場所でないところから、男性冒険者の悲鳴が聞こえるのだから。
それでものんびりと練り餌をつけて、竿を振るえば数秒でかかりはしなくなった。
五分以上の待ち時間がなかったといえば、釣り好きには地団駄を踏まれてしまいそうだけれども。
「卵から目玉焼き~。だし巻き卵でもいいけどね~。最近流行のエッグベネティクトは作ると大変だから、本当に便利~」
ひたすら卵から卵料理が出てくる歌を謳う。
卵料理のバリエーションがよくわかる歌だよね。
ざっと五分程度。
歌い終わると当たり判定があった。
私に釣りを飽きさせない工夫なのだろうか。
歌えばいいとジェスチャーしてくれたのは子蛇だった。
雪華も歌いながら釣っているのかもしれない。
「サングラス パープル 女性用……おー、つるが凝っているなぁ……」
サングラスのつる部分が薔薇の透かし模様で、薔薇の飾りまでがつけられている。
高貴な女子が喜びそうだ。
『おい! なんで池に入れねーんだ? せっかくここまで来たんだ。何か釣って帰らねーと儲けが出ねぇぞ?』
サングラスを釣り針から外して子蜘蛛に渡していると、そんな声が聞こえてきた。
女性なら入れるかもしれないが、男性はまず無理だろう。
釣りが得意なら今回は残念な結果で我慢してほしい。
ダンジョンは実力もさることながら運要素も強いのだから。
『あー。どっかで聞いたけど、高貴な女性パーティーが入ったって話だぜ? 案外のんびり釣りがしたかったんじゃねーの?』
『高位じゃなくて、高貴ならどうとでもできるだろうが! くっそ! なんで入れねぇんだ?』
『……お前は本当に馬鹿だよなぁ。高位なパーティーより高貴なパーティーの方が怖いにきまってんだろう』
『るせぇ! 商人上がりが! 追放すっぞ』
あと一時間ぐらいで終わりますよーと伝えてもいいんだけど、逆ギレされそうよね。
商人上がりさんには話が通じそうだけど。
うーんと考えながら竿を振るうと、すぐに当たりがあった。
商人上がりさんにプレゼントしろってことかな?
だって……。
『追放上等! せいぜいこれから苦労しろ!』
うん、決別する気配がしたからね。
流行の追放物なら、追放された側が主人公でしょう。
感謝と恩を売るのもいいはず。
男性だけど、真っ当な商人なら大丈夫。
……夫の却下もないし。
釣れたのは何と三つ。
ダンジョンも商人を歓迎しているのかなぁ?
「追放されたっぽい商人上がりさんに、これを持って行ってくれる?」
頭の回転が良い商人なら私が高位で高貴なパーティーのリーダーだと理解するはずだ。
ちなみに釣れた品物は全部女性用。
この辺りにもダンジョンの配慮が窺えるわよね。
ブラック ヤシュマク、ホワイト アンブレラ、シルバー ビブネックレスの三点セット。
高貴な女性が幾つでも欲しいアイテムだもの。
素早く渡しに行った子蜘蛛たちは、カードと精緻な刺繍が施された巾着を持って戻ってきた。
商人上がりさんが渡したのだろう。
カードの表は恐らくお店の名前と所在地。
裏面には、高貴な方に心からの感謝と敬意を、というコメントのあとに本人の名前。
達筆すぎて読めないので、ダンジョンを踏破してから焦らずに調べればいいだろう。
巾着の中にはレッドダイヤモンドが一粒だけ入っていた。
あちらでは一番希少なカラーダイヤモンドだったはず。
恐らくこちらでもかなり希少に違いない。
随分と奮発したものだ。
商売を楽しみたいなら良い商人と縁を繋ぐのはありよね。
孤児たちの自立を手伝ってもらうのもいいかなぁ?
何にせよ、ダンジョンから出たら一度訪ねてみよう。
『はぁ? くっそ! 何だよ。ここ、服ダンジョンだぞ? どうして、蛇とか蜘蛛とかいるんだ?』
『俺、蜘蛛駄目!』
『僕、蛇だめぇ!』
追放された商人上がりさんを含めて四人パーティーだったのかな?
悲鳴が聞こえた。
特に蛇駄目な人にはちょっと同情する声だった。
『本日貸し切りって、あるわけねぇだろ、くそがぁああああ!』
誰かが立て看板でも見せたか作ったかしたのかな?
直接会いたくはない、冒険者らしい男の声と気配が遠ざかっていった。
うん。
君たちが私に恨みを抱かなければ、次に来たときはダンジョンがきっと贔屓してくれるよ……たぶん。
「いいコネができたかもね~」
御機嫌に竿を振るえば、またしても即座に当たりがある。
「ん?」
帽子が五種類も釣れた。
女性用三種、男性用二種でいいのかな?
カンカン帽とサファリハット。
砂漠での需要は高そうだ。
しかし、どうして即座に釣れたのかしら?
子供たち用かな?
「……アリッサ!」
雪華が入ってきた。
やはり子供用な気がする。
「帽子って釣れてる?」
「今五個釣れたから、すぐに必要なのかなーって思ってました」
「さすが、ダンジョンに愛されるアリッサだね! 髪の毛が嫌いなモンスターが出てさ」
「え、ちなみにどんなモンスター?」
服飾小物階だから……んーと?
「ミリタリーベレー。えーと? 髪の毛があるのが許せないみたい。軍人はスキンヘッドに限る、みたいな主張が強いっぽいよ」
「……どういう理由なのよ? それ」
呆れる理由だったが、モンスターの存在意義なのだ。
何でもありなのだろう。
「帽子を被ってると避けられるの?」
「うん。その辺は無理強いしないみたい。小さい子用だからあともう少し欲しいかな」
「はーい」
といいながら竿を振るう。
当然の即時当たり判定。
予備が必要なのだとしても一ダースは釣れすぎじゃない?
カプリーヌ、ワークキャップ、マリンキャップが釣れた。
服装によっては私も被りたいかなカプリーヌ。
日本で言うところの女優帽ね。
「子供たち全員に被せておくわ。ありがと! まだ一人で続ける?」
「子供たちも釣りをしたいなら来てもらってもいいわよ」
「したそうな子が何人かいるんだけど、釣り道具がないのよね」
「じゃあ釣り道具も釣っておくわ」
「釣れるの?」
「……たぶん?」
子蛇に帽子を持たせた雪華が戻っていくのを見届けて、竿を振るう。
子供用の釣り用具一式が釣れたよ!
これは自分の持ち物としてプレゼントしていいかな。
孤児は自分だけの物を持てない場合が多いと聞くからね。
きっと喜んでくれるだろう。
「えーと? あとは何を釣ればいいんだっけ」
引き受けた依頼品を思い浮かべる。
「うん。だから何もダースじゃなくていいんだよ? ダースじゃなくて」
早く依頼を達成させたいと考えてくれたのか。
選んだ五点が一ダースの箱入りで釣れた。
私しかいないからって、大盤振る舞いが過ぎない?
「しかも釣り上げるとき重くなくなってきたわよ? 私が疲れないように配慮までしてくれてるのかしら……」
今度は池がきらっと光った。
池、池にも意思があるの?
ダンジョンの一部だから?
首を振って竿を振るう。
「ごしゅじんさま~」
可愛らしい声を聞きながら竿を戻す。
「う、うわーすごい! はじめてみた! つりしのながぐつ!」
「し、しかも、こんなにたくさん!」
子供たちが目を輝かせている。
釣り道具&餌にプラスして釣り師の長靴まで釣れてしまった。
このダンジョンは子供が好きなのかしら?
まぁ、三階まで小さい子はこれないだろうしね。
せいぜい一階が限界だ。
「今釣った長靴とそこに置いてある釣り道具は皆のだから、喧嘩しないで仲良く選んでね」
「ありがとうございます、ごしゅじんさま~!」
ナータンがぴょんぴょんと跳び上がって喜んでいる。
その他の子たちも耳を震わせたり尻尾を振ったりと、わかりやすく喜んでいた。
私の言葉に従い喧嘩をしないでそれぞれの長靴と釣り竿で挑んだ釣果も、なかなかだったと付け加えておこう。
「ほ、本日貸し切りって、これ……ダンジョンが認めているんですね?」
「みたいだね。初めて見た。初めての経験ばかりで驚きっぱなしだよね……」
三階での戦闘を終えたらしい。
額の汗を拭きながら池の近くまで、皆がやってきた。
本日貸し切りの看板にはなんと、結界の効果があるらしい。
他のモンスターが入ってこないのに驚いたようだ。
冒険者たちも無理だと思ったら、子蛇や子蜘蛛たちの頑張りだけじゃなくて、ダンジョンの協力もあったっぽい。
……望んで得られるものなのかなぁ、ダンジョンの協力。
「れおんにぃ! でぃあねぇ! みんなのぶんのつりぐや、つりしのながぐつもあるよ!」
「けんかしないでえらんだら、いっしょにつるのよ! びっくりするほどつれるのよ!」
ナータンもヒルデも釣り竿の先を見ながら、そんな説明をしている。
一緒に釣りがしたいのだろう。
こんなにのんびり釣りができる機会なんてないだろうしね。
小さい子たちの気持ちを汲み取ったようだ。
戦闘組は苦笑しながらも、釣り竿と長靴を選んで子供たちの近くに座って、釣り竿を振るいはじめた。
釣果の量と質の良さに喜んでいる子供たちを見て、子蜘蛛&子蛇たちと一緒にこっそりと喜んでいるとノワールが音もなく、隣……一歩下がっている……にやってきて、ひそりと囁いた。
『主様、隠しフロアの探索は子供たちには毒だと思われますので、地上へ送りたいのですが如何いたしましょう?』
全員の口止めは無理だろうしね。
子供たちが場所を吐け! と拉致されて脅される予感もする。
『休憩小屋で待機じゃまずいの?』
『それでもよろしゅうございますか?』
『ノワールが嫌じゃなければ』
雪華やランディーニとともに宿で待機してもらってもいいけど、いい宿だから孤児たちが入れるのか微妙。
宿自体は寛容であってもその客までが同じとは限らない。
んー。
どうしたらいいのかな?
休憩小屋で隠しフロア攻略まで待機。
攻略完了後、孤児院で話し合い?
魅了娘にざまぁをして、追い出す方がいいのかなぁ。
商人を訪ねて、状況を聞くのもありかもね。
間違いなく情報通だと思うし。
『では、そういった流れで手配いたしましょう』
当然のように頷かれた。
『主様はあと少々、竿を振るってくださいませ』
ここまでさくさく釣れると本来の釣りとはかけ離れた気しかしないけれど、アイテムのコンプリートをするのは好きなので大きく頷く。
何故か同時に当たり判定があった。
ひょいと竿を持ち上げる。
「ブラウン トランク、ブラック スーツケース、ブラウン ボストンバッグ、キャンディーカラー オーバーナイトケース……どれも高級品で需要が高いものじゃ。高貴な旅行者に好まれるものばかりじゃぞ?」
ランディーニが教えてくれる。
オーバーナイトケースは夫が使っている物によく似ていた。
部屋を移動するときに小物を入れる収納箱。
初めて見たときは、贅沢品! と思ったなぁ。
使ってみると想像していたより便利だったので、あちらでは重宝していた。
こちらだと誰かが持ってくれるので、使う機会はなさそうだけどね。
「おぉ、良さそうなものが釣れておるのぅ。奥方用の物も一通り釣ったらどうじゃ?」
「アイテムボックスがあるから、小さいバッグならまだしも、大きい物はそこまで必要な気がしないのよねぇ……あ」
そんなこと言わないで! と声まで聞こえた気がする。
釣り竿を振った記憶もないのに、当たりの手応えも感じていないのに。
如何にも女性が好みそうな大きいバッグが釣れる。
ラインナップは先ほどと同じだったが、違う点もあった。
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