TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

廉side


その子……玄樹くんと名乗ったその子はどうやら、俺と岸さんが住んでいるあのアパートの下の階に住んでいるらしく、俺のことだけではなく、岸くんのことも知っていた……岸さんに関しては敵意の視線を向けてるけど……。

とはいえ……

「えーっと、なんでついてきてるん……??」

家に着いたはいいが、玄樹くんが俺たちの家まで着いてきていたのだ。

「岸先輩。あなたこそどうして廉先輩と一緒に住んでるんですか!?」

「は!?え、どーゆーことだよ!!付き……むぐっぐっ!!」

俺は咄嗟に岸さんの口を塞ぐ。何を考えてるんやお前は。

「付きあ……廉先輩!嘘ですよね……!?将来は僕と付き合うって……」

「すまん、岸さんとはちゃんと付き合っとるし、そんな約束した覚えはないし、そもそも君とは初対面のはずなんやが………」

俺が覚えていないだけかもしれんけど……

「いえ、ちゃんと約束しました!廉先輩ひどいです……」と嘘泣きをしだす玄樹。

どこで覚えたんや、そのテク。

「いや、いつ何時何分何秒どこで!?」

「僕が高校二年のとき……ちょうど廉先輩の卒業式のときです。」

小学校とかじゃなくて高校の卒業式!?最近すぎて流石に覚えとるわ!!!

「そんな……僕…そしたら誰と……」

「とりあえず、入んなよ、暑いしょ」

岸さんが家に招き入れようとする。お人好しにも程あるで。

「え、いいんですか……!じゃあ、お言葉に甘えて……」

絶対こやつ、(やった、廉先輩の家にお邪魔できるー!!ひゅー!)とか思っとるんやろなぁ。ええわ。もう。玄樹を居間に入れる。

「じゃあ、俺はお茶入れてくるねん。仲良くしとってなー」

そう言って俺は台所まで急ぐ。冷蔵庫から麦茶とグラスを3個取り出し、お茶を注ぐ。それをお盆に乗せて二人が待つ居間まで運ぶ。

「はい、どーぞ。」

グラスを二人の前に置く。どうやら俺が台所に行っている間、何も話していなかったらしい。なんか話せよ、ご近所さんやろ。


「岸先輩。あなたは僕にとっては敵です。」


玄樹が口を開いたかと思ったら…まさかの宣戦布告だった。

続けて玄樹は言った。

「廉先輩は僕のものです。絶対に取り返して見せます!」

あの……俺、もう岸さんの彼氏なんですけど……

「いえ、絶対にこれは洗脳です!」

何ゆーとるん。この誤解は解かんとなぁ。俺は少し考えてから、岸さんに抱きついた。

「きっさぁん、俺玄樹くんと会ったことないんやけどぉ。なんでぇ」

めっちゃベッタベタの甘々な声で言ってみる。これぐらい、おちゃのこさいさいや。でも、岸さんはこの行動の意図が分からず「え、知らねーよ!」と言う。岸さんの天然を裏手に取った、俺の最善策や。

「これだって絶対に裏があります!僕の廉先輩をこんな奴に取られてたまるもんですか!!」

「は?岸さんがなんやて?」

岸さんを『こんな奴』呼ばわりするとは…!!

「帰れ。お前がいてええとこちゃうわ。」

俺はつい、きつい口調で言ってしまった。いや、岸さんを『あんな奴』呼ばわりするこいつが悪いんや!!

「これだって絶対に……」玄樹が何かを言おうとする前に俺はつい、怒鳴ってしまった。

「いいから帰れ!俺はお前のことを知らんし、岸さんをそんなふうに言う奴に好かれるとかごめんやわ!!」

俺は腹が立って寝室に行く。こんな奴の相手する方が疲れるわ。

「あ!廉!!」

俺は岸さんの呼びかけも無視してベッドに寝っ転がった。


岸side


「あ!廉!」

お客さんいるんだから……と止めようとしたけど、廉は無視して行ってしまった。

「あの…えっと……」

目の前にいる玄樹から『またあなたが何か信号でも出したんでしょ…』と言わんばかりの鋭い視線を感じ、俺は固まる。

「とりあえず今日は…帰ったもらって……」

そう言い終わる前に玄樹は立ち上がり、荷物を持って玄関に向かった。

「あの…」

「あなたがどうしてあそこまで廉先輩を操れるのかは知らないですけど、操ってるなら操ってるで僕は違う方法で廉先輩を取り返します。これは宣戦布告です。では。失礼しました。」

そう言い切って彼は家から出てってしまった。ホントに気の強い子だなぁ。とりあえず、廉の様子を見に行こう。



寝室に行くと廉は横になっているだけで起きていた。夕日の光が窓から部屋に入ってくる。俺は廉の近くに寄る。「廉。玄樹くん帰っちゃったよ。」一応報告しとく。

「俺、なんかしたんかな。俺、あの子の記憶ないんやが…」

「多分、あの子の勘違いか妄想だよ。大丈夫だって。」

俺は廉の頭を撫でる。

「でも、岸さんのこと、『あんな奴』って言ったの、許せん。」

俺は周りから『あんな奴』としか言われたことなかった。こういう風に俺のことを庇ってくれる人は廉が初めてだった。


「ありがとな、廉。」


玄樹side


「どうして廉先輩が……」

いつの間にあんな奴と付き合っていたんだろう。廉先輩の情報は他の誰よりも持っているはずだし、廉先輩が住んでるからこのアパートにした。なのに……

アパートの階段を降りると、家の前に神宮寺先輩がいた。沈みかけた夕日が僕たちを明るく照らしてくれる。

「せん…ぱい……??」

どうしてここに?家はここの近くではなかったはず。

「玄樹くん。廉との話はどうだった?」

「ちゃんと話しましたよ。でも、なにかにキレて怒られました。」

「岸くんのこと、悪いように言ったんじゃない?彼そういうの、嫌がるから」

神宮寺先輩が落ち着いた声で言う。

「そんなことないですよ。岸先輩が廉先輩を操ってるんです。」

そうじゃないと、辻褄が合わない。

「君、面白い子だね。岸くんは催眠術とか全く出来ないし、廉はそもそもそういうの、怖くてかかろうともしないよ。」

何を言っているんだ。この人は。

「いいです。もう宣戦布告してきたんで。失礼します。」

そう言って僕は家の鍵を開けて家に入った。神宮寺先輩が後ろで呼びかけていたような気がするけど、僕は無視した。


岸side


次の日。

休みの日だけど、廉はバイトーと言いたいところだが、実は廉は俳優で、学業との両立のため、エキストラの仕事だけを受けているーに行ってしまったので俺は一人で漫画を読んでいた。廉とはバイトの時間を出来るだけ合わせようと話していたが、急用により来れない人が出てきてしまったようで急遽行くことになってしまったのだ。久しぶりに一人で家にいるとなると、何をしようか迷ってしまう。漫画を読み終わってしまったので、次は何をしようかと考えていた時。

ピンポーン

家のインターホンが鳴った。俺は慌てて出る。相手は玄樹だった。

「え!?あ、何しに……」

「岸先輩、勝負です!いいから出てきてください!公園で説明します!」

急に何を言い出してるんだ。この子。俺は言われるがまま外に出て、公園に行く。

初夏ということもあって外はとにかく蒸し暑い。俺が公園に着くと、玄樹は俺の方まで寄ってきて人差し指を俺にむけて

「勝負です!岸先輩!」

と荒々しい声で言い放った。

「どちらがより廉先輩を惚れさせることができるか勝負です!!あ、そうそう、洗脳なんてズルは絶対にしないでくださいよ!?あと、口裏を合わせるのもズルです!期限は来月の学園祭までです!!それから、ズル対策のためにこれをお風呂や寝る時以外、常に身につけてください!」

そう一気に言い切って玄樹が俺に渡したものは小さいマイク……のようなものがついたブレスレットだ。なるほど、録音しとけってことね。

「はい、ミニ録音機です。通話のような機能も着いていて、結構いい値段するので無くしたりしたら弁償、それから僕の勝ちです。僕が勝ったら廉先輩は僕のものです!!」

廉は絶対に玄樹の方に振り向いたりしない。分かっているけど、ちょっと楽しそうだな。


「分かったよ。この勝負、受けてやるよ!!」


玄樹と公園で別れてから俺は家に帰り、バイト中だとは思うけど一応廉にLINEを送った。


『玄樹に呼ばれた。めんどくさいことになった。どっちがより廉を惚れさせれるか、勝負だってよ。』


日本語変かな。まあ、いいや。返信はしばらく来ないだろうなと俺はテレビをつけた。


勇太side


夕方四時。

俺は玄樹くんの家の前にいた。廉とのことを聞きたかった。

廉本人は『あんなやつ知らんねん。あいつの勘違いや』の一点張りだから、多分、本当に初対面なのだろう。廉の前で昔の話をしなかったことも気になる。俺はインターホンを押す。ピンポーンという音の数秒後にガチャッとドアが開いた。

「じ…神宮寺先輩……!何の用ですか……??」

「廉とのことを聞きにきた。本人に頼まれてね。」

もちろん廉自身は「あんなやつもう二度と俺らに関わらないで欲しい!!」と言っていたが、理由作りには廉は必要だった。ホントごめん、廉。

「わかりました。中、入ってください。」玄樹くんに連れられ、俺は玄樹くんの家にお邪魔する。

中は男性が住んでいる割には綺麗。間取りはおそらく廉の家と変わらない。

俺と玄樹くんは居間で話をすることにした。

「それで…廉とはどこで…」

「廉先輩とはホントは面識はありません。廉先輩は……僕の推しです。廉先輩が子役をやっていたときからです。」

玄樹くん曰く、テレビで廉を見た時からのファンで廉が出ているテレビなんかは全て録画し、話していたことやセリフを全て言えるようになるまで見返していたという。相当なファンだ。

「じゃあ、付き合って欲しいとかの話は……」

「あれは本心です。僕は廉先輩のリヤコ勢なので。大学も志望校を変えて猛勉強して受かりました。」

そこまでしてまで廉と近づきたかったのか……。これを廉が聞いたら、100%、嫌がるだろうな。

「どうしてそんな嘘までついて……」

「それはもう、付き合いたいからじゃないですか。いくら男同士とか変に思われても、僕は自分の気持ちを廉先輩に伝えることができるなら、どんなことでもしますよ!」

決意のある表情で玄樹くんは言った。でも、ちゃんと現実を見せつけないといけないものはあるけど……

「そっか。ありがとう、話してくれて。廉にはこのことは秘密にしておくよ。」それじゃあ、と俺は軽く挨拶をし、家に帰る。

帰る途中、俺は考えた。


玄樹くんの気持ちは絶対に廉に届かない。でもそれを玄樹くん本人に言っては、本人を傷つけてしまう。逆に今のことを廉に言っても、さらに廉は嫌がってしまう。どっちにしろ、玄樹くんの恋は叶わない。そして…


俺の恋も叶いそうにない。

キンプリの恋愛事情(完結済)

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

1

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚