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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第27話 〚選択の第一歩〛(澪視点)
放課後の教室は、いつもより静かだった。
窓の外から聞こえる部活の声が、遠い。
私は席に座ったまま、ノートを開いていた。
でも、文字はほとんど頭に入ってこない。
——考えている。
昨日芽生えた、あの感覚。
「何もしない」を選ばない、と決めた自分。
(……でも、何をすればいい?)
予知は、見える。
危険も、意図も、感情の歪みも。
けれど、それをどう使うかは、
今まで誰かに委ねてきた。
「澪、帰る?」
声をかけてきたのは、えまだった。
しおりとみさとが、その後ろにいる。
私は一瞬迷ってから、首を振った。
「……少し、残る」
三人は顔を見合わせたあと、
「無理しないでね」と言って教室を出ていった。
静寂が、戻る。
そのときだった。
胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
でも、痛みは走らない。
(来る……)
予知だと、すぐに分かった。
視界が、ゆっくりと歪む。
——廊下。
——夕方の光。
——誰かが、こちらを見ている。
恒一。
壁に寄りかかるように立ち、
こちらを探す目。
その未来は、
“まだ”起こっていない。
(……今なら)
私は、深く息を吸った。
いつもなら、
誰かに知らせるだけだった。
でも。
「——海翔」
声に出して名前を呼ぶと、
教室の後ろで荷物をまとめていた海翔が振り向いた。
「どうした?」
「……一緒に帰ってほしい」
言葉にした瞬間、
心臓が強く打つ。
でも、不思議と怖くなかった。
海翔は一瞬驚いたあと、
すぐに頷いた。
「もちろん」
教室を出る前、
私はさりげなくスマホを操作する。
玲央に、短いメッセージ。
《今から帰る。少し、警戒して》
既読がつくのを確認して、
私はスマホをポケットにしまった。
廊下に出ると、
予知で見た場所に、まだ誰もいない。
——未来は、まだ固定されていない。
(変えられる)
その確信が、
胸の奥で静かに広がる。
「澪、今日なんか……雰囲気違う」
海翔が、歩きながら言った。
私は少し考えてから、答えた。
「……決めたことがあるだけ」
「なにを?」
私は、立ち止まる。
一瞬だけ、
すべてを話してしまいたくなった。
でも、今は。
「そのうち、ちゃんと話す」
海翔は無理に聞こうとせず、
「待つよ」とだけ言った。
その言葉が、
背中を押してくれる。
——その頃。
校舎の影で、
恒一は立ち止まっていた。
澪が、いつもと違う動きをしたことに、
はっきりと気づきながら。
(……おかしい)
彼の計算に、
小さなズレが生まれていた。
澪はまだ知らない。
この小さな「選択」が、
すでに未来を大きく揺らし始めていることを。
そして、
予知に頼らない最初の一歩が、
確かに踏み出されたことを。
——物語は、
ここから加速していく。