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雨、傘、海、幻想的、夜

僕の世界_御堪能あれ


夜道、雨の中、独りここでケジメを付けることにした。私の想いを届けに来た。やっと、夢が叶った私は今までの記憶を思い返した。私の夢は成人を越えることだ。18年間、人付き合いもろくにしないで(編集者として仕事しつつ)ネット民と雑談をしていた。バイトもしていない為、リアルが寂しい。

だが、私は唐突に海に行きたくなった。あの優しさに触れたくなった。人とまともに話せないから、自然に話しかける癖がある。

「涼しいな…」

と、物思いに耽りつつ歩いていると海岸の方に人影が見えた。海岸に近づき、確認してみると空色のワンピースを着た少女がいた。

その少女は、今にも海の中に飛び込んで仕舞いそうな様子だった。私は急いで少女の元に向かった。

「こんなところで何してるの…?」

すると、その少女は満面の笑みで

「海へ還りに」

と、言って再び海の方に身を寄せていた。

「…そう」

海に還るということは元々、海に住んでいたということだ。明らかに人間の容姿をしているというのに…

急に私の方を向いてぐっと腕を掴まれた。

「お姉さん、暇?」

そう少女が言うと私の腕を先程よりも強引に引っ張られた。

耳元で

「こっち、おいで」

と、呟かれた。

気がつくと肌が冷たい液体に触れた。本当に海岸から海に落ちてしまった。私の体を包み込むように透明な美しい海が私を巻き込んだ。少女は海に落ちても違和感が無いかのように見えた。だが異様に、海に適応しているように感じた。何故なら、少女は泳いでいない。まるで舞っているかのようにぷかぷかと浮遊している。

「ねぇ、ここ綺麗だって思わない?」

少女は誇らしげに私に話しかけた。私が呆気に取られて見惚れていると少女は、ぱぁっと明るい笑顔でまたゆっくりと海中を回った。

「名前、なんて言うの?」

名前を聞かれた私は

「セイラ」

と、だけ呟いた。私も少女の名前が知りたいと思い、訊いてみると。

「んー?ウヅキって読むのかな?」

ウヅキ、急な質問に戸惑いつつこれは漢字のことを指していると感じ取った。

ウヅキと他愛もない話をしながら海中を散歩していたら、彼女が悪戯っぽい表情で

「セイラ、凄いね。海中で息苦しくない?」

と、訊かれた。今更、呼吸を止めても苦しくなかった。肺に空気が入ってくる。自然と話すことが出来ている。海中を歩くことも出来ている、地上と同じように普段何気なくこなしていることが出来ている。

「こっちこっち」

ウヅキに導かれ、着いて行くと建物が見えてきた。これは夢にまで見た”海中都市”だ。海と共存しているその様相に美しさや儚さを感じた。その美しさに魅入っているとウヅキは嬉しそうに

「セイラ、こういう雰囲気好き?」

と、私の心を掴んだ。

「…本当にあったんだ、海中都市」

「夢だと思ってた?」

「うん、思ってた」

ウヅキと私は海中都市を彷徨い歩いた。歩き方なんてとっくのとうに忘れていた。心の赴くままに歩いた。辺りを散策しているとウヅキが立ち止まって道の先の方を人差し指で指さした。そこには、ビニール傘が置いてあった。

「これって、人間さんがここに置いたのかな?」

ウヅキが触れている姿を見て理解した。そのビニール傘は私の物だ。

「これ…私の」そう答えると、ウヅキは驚いた表情で私に沈んでいた傘を手渡した。

「セイラのもの、はい」

触れてみると地上とは違う手の感覚に陥った。ふわりと私の手に馴染んだ。

「似合ってるね」

褒められて心臓が大きく鼓動した。ウヅキはまた浮遊して歩き始めた。ふと、疑問に思った。ウヅキは一体、何を私に見せたいのだろうか。海中都市はゆらゆらと太陽の光に照らされ輝いている。まるで私を誘い出しているかのように導くように儚く建っている。

「セイラ、ここに座って」

ウヅキは白色の洒落ているベンチを指差した。光の粒子群がウヅキを追いかけた。蠢いているその光の束は私の周りを浮遊している。

座ってみると、海中から太陽の光が見えた。海の上を見上げると雲一つない空が見えた。深く息を吸い、深呼吸をした。

「セイラに見せたかったの」

誇らしげに言うウヅキは微笑みつつ、ベンチから立ち上がった。

ウヅキは空の方を指差して

「朝になっちゃった」

と、悲しげに呟いた。

私はハッとしてウヅキの方に顔を向けた。ウヅキの身体は透けていた。ふわっと髪が浮き、見る見るうちに小さく透明にしぼんでいった。

気が付くと、ウヅキは海の生き物と同じ見た目をしていた。

──海月が海中を漂っていた。

「ウ…ヅキ……?」

そう訊くと、その海月は海中をくるくると回った。謎の少女は海の生き物、海月だった。朝日が昇ってしまったから、少女は海月に戻ってしまった。美しく、儚く透明な傘をぷかぷかと動かしている。ウヅキは夢にまで見た海中都市を見せてくれた恩がある。

「ウヅキ、ありがとう。忘れないから…」

そう私が伝えた後に、

その海月はくるくると海中を浮遊して何処かへ泳いでいってしまった。私は意識を失う寸前で傘の柄を離した。

気が付くと私は砂浜に仰向けで倒れていた。私の手には僅かな細かい水滴が零れ落ちていた。手を上げるとその水滴が私の頬に落ちた。水滴を腕で拭うと肘に硬いものが当たった。横を見ると海の中で離した筈の傘が砂浜に落ちていた。

「…傘?」

直ぐに立ち上がり、ウヅキがいるかどうかを確認した。傘を開くと中に大量の水が入っていた。海の方を見た、水面に輝く美しい生き物が顔を出し、私には目もくれずに海の中に消えていった。

あの姿はウヅキなんだと何故か確信してしまった。有り得ない話だが、ウヅキと出会いそして共に歩いた記憶は本物だ。何故なら、傘がここにあるのだから。

私は、震えた唇で

「ありがとう…ウヅキ、またね。」

と、呟いた。

その瞬間に雨が降った。拾った傘を差して私は自宅に向かった。あの幻想的な海中都市を浮遊し、歩いた思い出に耽りつつ優しい海風に吹かれ、歩き続けた。

「涼しいな…」

昨夜の海風とは違う心地良さを感じ、心が浄化された。あの静けさや爽やかさを私は生涯、忘れることはないだろう。

空を見上げ、あの美しく儚い透明な身体を持つ海月を思い返した。


Fin。.:*・゜

5周年作品/海中都市

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