テラーノベル
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「泥棒のキッドじゃなくてさ。……例えば、俺みたいな、普通の奴がキッドだったとしたら、お前、そいつの気持ち、受け入れるわけ?」
夕日のオレンジ色が、二人の距離をゼロにするように、教室の床に長い一つの影を落としていた。快斗は新一のブレザーの袖を掴んだまま、ごくりと息を飲む。正体を隠したままの、これ以上ない本気の賭けだった。新一は丸くした目でじっと快斗を見つめていたが、やがて気まずそうに視線を斜め下に落とした。掴まれていない方の手で後頭部の髪をがしがしとかきむしり、耳の先まで真っ赤に染めていく。
「……んなの、決まってんだろ」
「え?」
「もし……もし仮に、黒羽、お前があいつだったとしたらさ」
新一は意を決したように顔を上げ、潤んだ瞳で快斗を真っ直ぐに見据えた。
「俺は、迷わずその手を取るよ。泥棒とか探偵とか全部放り出して、今すぐお前を抱きしめて、どこにでも連れてってくれって、あいつの前じゃ絶対に言えねぇような情けないこと、全部お前に向けて叫んでる。……だって俺、キッドのことも気になるけど、普段からお前にこんなに心臓かき乱されてんだぞ? もしお前があいつなら、俺のキャパはとうに崩壊して、お前に完全に降伏してるよ」
「――――――――――ッッッ!!!!」
快斗の脳内で、何かが音を立てて爆破された。ポーカーフェイスどころの騒ぎではない。視界がチカチカと火花を散らし、全身の血流が逆流するような衝撃が走る。
(っあ、だめ、これ死ぬ。俺、今世界一幸せな大バカ野郎だ……!!)
「お、おい黒羽!? また顔が真っ赤だぞ! マジで熱あんじゃねぇのか!」
「う、うるせぇえええ! もう帰る! 工藤のバカ! 大バカ!!」
「なんで俺が罵倒されんだよ!?」
限界を迎えた快斗は、自分の鞄をひったくると、叫びながら教室を飛び出した。新一の「待てよ!」という声を背中に浴びながら、江古田の街を全速力で駆け抜ける。胸の奥で、甘くて狂おしいほどの独占欲が暴れ回っていた。
(あんなこと本人の前で言うなんて……っ。よし決めた、明日、絶対にアイツの理性をめちゃくちゃにしてやる……!)
そして、翌日の朝。
「う、嘘だろ……」
工藤邸のベッドの上で、新一はスマートフォンを握りしめたまま、文字通り凍りついていた。まだパジャマ姿のまま、画面に表示された一行のメッセージを、穴が開くほど見つめている。差出人は不明。だが、メッセージの最後には、見覚えのありすぎる「シルクハットを被ったキッドマーク」が添えられていた。
『親愛なる名探偵へ。
昨日の放課後の恋の相談、風の噂で全部聞いちゃった。「泥棒とか探偵とか全部放り出して、今すぐ抱きしめてほしい」なんて、そんな可愛いこと思ってくれてたんだ?
もし俺が、お前のすぐ近くにいる「普通の奴」だったら、本当にお前は俺に降伏してくれるの?
そんなに悩んでいるなら、次の予告状を待つ必要なんてないよ。
恋の相談なら、他人にしないで、今すぐ本人に直接どうぞ?
俺はいつでも、お前がその手を伸ばしてくれるのを待っているから。
追伸:今日も学校で、俺の代わりにあの「手品師の友人」に相談するのかな?
彼の前でまた顔を真っ赤にするお前を想像するだけで、俺の心臓も、朝から狂ったように跳ね上がっているよ。』
「――――――――――――ぎゃあああああああああああああああああッッッ!!!!」
工藤邸の寝室に、新一の絶叫が響き渡った。あまりの恥ずかしさとパニックで、新一はベッドの上でのたうち回り、毛布に顔を埋めて叫び続ける。
(なんで、なんで昨日黒羽に話した内容までキッドに筒抜けなんだよおおお!! 確実に盗聴されてる! いや、黒羽のスマホがハッキングされてるのか!? どっちにしろ死にたい、今すぐこの地球から消え去りたい……!!)
自分の恥ずかしい乙女心のような本音が、1から10までキッド本人に完全リアルタイムでバレているという絶望。新一は真っ赤になった顔を両手で覆い、ガタガタと震えた。
ユイ
47
#改方学園
千導 渉
7
#名探偵コナン
サンフラワー
461
「こんなの、今日の学校、どんな顔して黒羽に会えばいいんだよ……っ!!」
まさか、その「手品師の友人」本人が、ベッドの中でスマホを片手に
「ぶっ、ははははは! 今頃あの名探偵、大絶叫してんだろうなァ!」
と、枕に顔を埋めて大爆笑しているとは、夢にも思わない新一だった。
コメント
1件
第9話、めっちゃ良かった……! 新一の「もし黒羽があいつなら降伏する」って告白、ガチ過ぎてこっちまで照れたわ。んで翌朝、その会話をキッドに完全バレして絶叫する新一と、枕に顔埋めて爆笑してる快斗の落差がたまらん。続き、どうなるんだろうなこれ (笑)