テラーノベル
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その日の江古田高校2年B組の教室には、昨日以上の張り詰めた空気が漂っていた。
「黒羽……、マジでやべぇ……。俺たちの身の回りは、もうあいつの支配下にあるかもしれない……」
新一は登校するなり、快斗のブレザーの袖を掴んでガタガタと震えていた。目の下のクマはさらに濃くなり、完全にパニック状態の顔をしている。
「お、おいおい、どうしたんだよ工藤。朝から物騒な顔して」
快斗は内心(ぶっ、ははは! きたきた!)と大爆笑しながら、心配そうな友人の仮面を被って新一の顔を覗き込んだ。
「ハッキングだ……! 間違いない、俺たちのスマホか、あるいはこの教室そのものが、怪盗キッドに完全に盗聴されてる……っ!」
新一は真っ赤になった顔を伏せ、昨夜届いたメッセージの画面を快斗に見せた。そこには、昨日二人がこの教室で交わした会話の内容が、これでもかと克明に引用されている。
「ほら見ろ! 『抱きしめてほしい』だの『お前(黒羽)がキッドなら降伏してる』だの、俺がお前にしか言ってねぇ恥ずかしい本音が、一言一句違わずあいつに筒抜けなんだよ……! あいつ、俺が恋愛相談してたことまで知ってやがった……ッ!!」
「うわぁ……。キッドの奴、情報網ハンパねぇな」
快斗は引きつる頬の筋肉を必死に抑え、笑いを噛み殺す。
(『普通の奴だったら降伏してる』って本人の前で言ったの、何回思い出しても最高すぎるな……!)
勝ち誇った気分で脳内麻薬がドバドバ出ている快斗は、机に突っ伏して頭を抱える宿敵を、ここぞとばかりにいじり倒すことにした。
「でもさ、工藤。キッドの言うことも一理あるんじゃね? 恋の相談なら、他人にしないで本人に直接どうぞって(笑)。そんなにハッキングが怖いならさ、いっそのこと、その画面の相手に直接返信して相談しちゃいなよ。ほら、『大好きだから今すぐ捕まえにきて』ってさ!」
「ふ、ふざけるなッ! 誰がそんなこと送るか!!」
新一は顔を真っ赤にして跳ね起きた。
「これ以上あいつの思う通りにされてたまるか! 俺は探偵だぞ、あいつの挑発にホイホイ乗るわけ――」
激昂した新一だったが、そこでふと、キッドからの手紙の最後の一行に目を留めた。
『今日も学校で、俺の代わりにあの「手品師の友人」に相談するのかな?』
(あいつ、俺が黒羽に相談するのを、上から目線で面白がってやがるんだ……。悔しい、めちゃくちゃ悔しい……!)
キッドにすべてを見透かされ、おもちゃのように弄ばれている。その事実に耐えかねた新一のプライドと、限界を迎えた恋心が、おかしな方向へと暴走を始めた。
「……あいつ、俺が手も足も出ないと思って、調子に乗りやがって」
新一の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。それは恥ずかしさと、キッドへの狂おしいほどの情けなさが混ざり合った、探偵としての完全な敗北宣言の涙だった。
「工藤……?」
快斗がその表情に一瞬怯んだ、次の瞬間。新一は震える指先で、画面の「差出人不明」のチャット画面を開き、キーボードを叩き始めた。
「おい、何して――」
「返信してやるよ……っ。あいつのハッキングが本物なら、今すぐこれが届くはずだ!」
新一は一気に文章を打ち込むと、勢いよく送信ボタンをタップした。そして、スマホを机に叩きつけるように置くと、再び両手で顔を覆って突っ伏してしまった。
「あー、もう知らねぇ! あいつのバカ……ッ!」
「……っ」
快斗は引きつった笑みを浮かべたまま、そっと自分のポケットの中のスマホを取り出した。新一が送信したのと完全に同時に、快斗の端末が「ヴッ」と小さく震える。新一に背を向け、画面を盗み見た快斗は、そこに表示された文字列を目にした瞬間――完全にフリーズした。
『お前がどれだけ俺をハッキングしてようが知るか。だけどな、お前がどれだけ夜の闇から俺を嘲笑ってようが、俺が本当に今、隣にいてほしいのは、俺の相談を真面目に聞いて、一緒に真っ赤になってくれた黒羽なんだよ。お前が怪盗キッドじゃなくて、黒羽快斗なら良かったのに。そしたら俺は、今すぐにでも降伏してやったのに。バカ。』
「――――――――――――ッッッ!!!!」
今度は、快斗の心臓がリアルに爆発した。頭のてっぺんから足の先まで、カァッと一瞬で沸騰するような熱さが駆け巡る。視界がチカチカと白黒に反転し、手首の血管がドクドクと暴れ狂った。
(っあ、だめ、これ、リアルに死ぬ……っ!! 破壊力が、桁違いすぎる……!!)
「お前が黒羽なら良かったのに」
宿敵を煽って楽しんでいたはずの大怪盗は、新一が放った天然100%の特大カウンターを脳天からモロに喰らい、一瞬で消し炭にされた。新一が恋焦がれている「キッド」も、新一が今すぐ隣にいてほしいと願う「黒羽快斗」も、全部、全部自分なのだ。その二つの存在が、新一の純粋すぎる言葉によって完璧に結びつけられ、快斗の独占欲と愛おしさを限界まで決壊させた。
「く、黒羽……? お前、また静かになったな……?」
机に突っ伏したままの新一が、不審に思って顔を上げようとする。その気配を察した快斗は、真っ赤どころか耳の裏まで真っ黒に染まりそうな顔を必死に隠すように、ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がった。
「お、俺、ちょっとトイレ……ッ! 限界!!」
「え? お前マジで腹でも壊してんのか――」
新一の声を置き去りに、快斗は自分の口を両手で強く押さえたまま、教室を脱兎のごとく飛び出した。廊下を走りながら、快斗の頭の中は真っ白だった。
(無理無理無理! あんな顔した新一の隣にこれ以上いたら、今度こそ教室のど真ん中で押し倒してキスしちゃうだろ……!!)
世界を騙す大怪盗が、一人の高校生探偵の、あまりにも無自覚で真っ直ぐな言葉によって、リアルに悶絶し、完全にノックアウトされた江古田高校の朝だった。
ユイ
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#改方学園
千導 渉
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サンフラワー
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コメント
1件
うわああああ第10話エモすぎる……!!😭💕 工藤が完全にプライド崩壊して送ったあのメッセージ、破壊力やばすぎて読みながら叫んだよ……!「お前が黒羽なら良かったのに」って無自覚すぎて快斗がリアルに死にかけるとこ、こっちまで胸がぎゅってなった……お互いに沼ってて最高だよ……!次も楽しみすぎる!!✨