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院内に入ると受付けを済ませ、機械を使い案内 図をプリントする。近くの病院とは違う総合病院特有の大きさに驚きつつ、二人は手元のそれを見て四階へと移動を始めた。
「母さん、先ずはどこに行くんだ?」
エスカレーターに乗りながら大野が疑問を投げかけると、彼の母親はそうねぇと口を開く。
「先ずは、四階の呼吸器内科っていう所で学校からもらった紙を渡して、説明を受けるみたい。」
「ふーん…。」
その後いろんな検査をするんだってと聞くと、大野はその内容について考え初めた。
(学校と同じことすんのかな。もしそうなら、ちょっと面倒臭いよな〜……。いやでも、わざわざこんな所に来てまで無いか。じゃぁ…。)
「けんちゃんは小学生だから、次来る時は三階の小児科で検査結果を聞くのよ。」
母親の言葉に分かったと頷く。今いる所は三階だった。
「ほら、あそこの角を左に曲がって真っ直ぐ行くんだって。」
目線の先にある三階の柱には、その階の案内図が大きく貼ってあった。親切だなと、素直に思う。そこから通り過ぎ、再び乗ったエスカレーターで四階へとつくと、同じ場所に案内図は貼ってあった。ちゃんと見ていなかった為分からないが、きっと階ごとに貼ってあるのだろう。立ち止まり、自分の持っている物と見比べながら、こっちじゃないかと進んでみる。
「1704番だって、けんちゃん。」
「その番号が、あそこのテレビに映ったら移動……だよな?」
「そうみたい。座って待ちましょうか。」
現在、上についているテレビの液晶画面には1623という数字が出ていた。あと当分は待つことが想像に容易い。大してすることもないまま、待つための椅子へと腰がける。ふと周囲を見てみると、50〜60歳位であろう年の人が特に多かった。反して、他には二人程。自分と同じくらいの年のが待っているのが見えた。
画面を見ながら、杉山は今頃サッカーかな、と。無意識に考え始める。 用事のこと、もしかしたら聞かれるだろうか。だとしたらなんて言おう。なるべく嘘は付きたくない…が、かと言って体の事を知られるのも気をつかわれそうで嫌なのだ。
(あいつとは…対等な関係でいたい。)
悩む事数十分。もし聞かれたら、はぐらかそう。杉山だって、無理矢理聞き出したりはしないだろうという確信を持ち、事はまとまった。
そこからどれくらい経ったのだろうか。うとうとと襲ってきた眠気に耐えられず、気が付いたら寝てしまっていた。時計を見ると一時間と少し、もうすぐ自分の番号が映ろうとしている。
荷物を持ち移動の為準備をしていると、名前が呼ばれた。
「大野けんいちさんー。」
はい、と短く返事をし、お母さんと一緒に個室へと向かう。どうやら、眼鏡をかけた若いお兄さんが担当のようだった。
「池田直樹と申します。」
行儀よくお辞儀をし、それにつられる。こちらを向いて、宜しくねと人の良さそうな笑みを浮かべると、話は問題の肺についてだった。
「大野ーけんいちくんね。 これは肺の模型なんだけど、ここ。肺の上の所にある肺尖っていう部分が、君の場合少ししぼんでいるんだ。」
肺の一部がしぼんでいる。大野は驚き、ショックを受ける。
「しぼむ原因は、肺の一部がブラっていう袋になって穴が空くんだけど、そこから一時的に空気が漏れているからなんだ。因みに穴は、何か特別な理由がなくても空いたりする。」
他にも幾つかのパターンがあるんだけど、君みたいに理由も無く、いきなり起こったものを『突発性自然気胸』と言うんだ。と説明を聞く。頭の中は緊張や困惑で埋め尽くされたようだった。
「自然気胸で空いた穴は確かに問題だけど、多くは時間とともに自然に塞がるんだよ。だから、取り敢えず1〜3週間は安静にね。運動も控えるように。重いものも持たないようにね。穴が広がったら大変だから。 」
それからというもの、学校からのプリントに記入をしてもらうと、次の予約は何日にしますかと日付を決めて、大野たち二人は出て行った。どうやら体育の授業は見学で、サッカーも出来ないらしい。目に見えて落ち込む大野に、彼の母親はかける言葉が見つからなかった。
その後はレントゲンを撮り、おとなしく家へと帰った。