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広島の少女
1945年夏の朝、広島の街に薄く朝霧が漂う。木造の小さな家の縁側で、12歳の佐々木こはるは弟の健太と一緒に朝ごはんを待っていた。
「おはよう、健太。今日も元気だね」
こはるは弟のくしゃくしゃの髪を優しく撫でる。健太は無邪気に笑い返し、縁側で跳ね回った。
15歳の兄、拓也はもう工場へ出かけた後だった。学校は戦争の影響で休みがちになり、拓也は学業を諦めて防空用の工場で働いている。こはるは兄の背中を思い出し、少し誇らしい気持ちになる。
「お母さん、今日も空が青いね」
こはるは家の隅に置いてあるスケッチブックを取り出し、窓の外の景色を描き始めた。空の青さは、戦争の暗い影を一瞬忘れさせてくれる。
母は台所で朝食の支度をしながら、ラジオから流れるニュースに神経を尖らせていた。父は遠くの戦地に出征中で、毎日手紙を待っている。
「こはる、健太、今日は学校の友達に会いたいけど…」
こはるは母の心配そうな声に答えられず、ただ黙って鉛筆を動かした。
戦争の影が少しずつ生活を覆っていく中で、家族の小さな幸せが輝いていた。