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第7話:「生活保護おじさん」爆誕と、底辺のカリスマ
「……あつい。死ぬ。マジで死ぬ……」
照りつける太陽の下、アスファルトの照り返しを全身で受けながら、俺はボロアパートの階段を這うように登っていた。
首元を締め付けるネクタイ。風通しの悪い、分厚い黒の就活スーツ。そして、まだ革が硬くて靴擦れを起こしている新品のビジネスシューズ。
全部、リスナーという名の悪魔たちがAmazonから送りつけてきた「支援物資」だ。
そして俺は今日、ケースワーカーの鈴木さんとの「約束」を守るため、このフル装備で片道三十分歩き、隣町のハローワークへと出向いてきたのである。
玄関のドアを開け、四畳半に倒れ込む。
エアコンをつける電気代すら惜しいので、扇風機を強風にしてスーツのまま風を浴びた。
「……終わってる。俺の人生、マジで終わってる」
ハロワの検索機(タッチパネル式でやたら反応が悪い)で『40歳・未経験・資格なし・空白期間15年』という条件を入れた時の、あの無慈悲な「該当件数:0」の画面。
周りにいたスーツ姿の若者たちや、必死にメモを取る同世代の失業者たちからの「なんだあの場違いなニートは」という冷ややかな視線。
精神的にも肉体的にも、限界だった。
時刻は夕方。俺はネクタイを乱暴に緩め、上着を脱ぎ捨てる気力もなく、いつものようにPCの電源を入れ、配信ソフトを立ち上げた。
「……あー、あー。テステス。配信、始まってるか?」
画面の端には、いつもの銀髪オッドアイの美青年アバター。
だが、その背後に響く俺の声は、魔界の王の威厳など一ミリも残っていない、ただの疲労困憊したおっさんのしゃがれ声だった。
『おお! 生きてたか!』
『スーツどうだった!?』
『ハロワお疲れwww』
『魔王(物理的疲労)』
配信を開始した途端、待機していた5,000人以上の同接が一気に湧き上がる。
こいつら、俺がハロワで公開処刑されている間、涼しい部屋でスマホでもイジりながらこの時間を待っていたに違いない。
「……お前らなぁ。笑い事じゃねえぞ。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってんだ」
俺は扇風機の風に吹かれながら、マイクに向かって怨嗟の声を吐き出した。
「鈴木さんにめちゃくちゃ怒られたから行ってきたよ! お前らがスーツなんか送るから、『着ていく服がない』って言い訳が通用しなくなったんだよ! 炎天下の中、革靴履いて歩いたら足の皮ズル剥けだわ!!」
『鈴木の圧力www』
『ナイス鈴木!』
『で、仕事は見つかったの?』
「見つかるわけねえだろ!! 検索機に俺のスペック入れたら、画面が『お前ふざけてんのか?』みたいなエラー吐いたわ! 40代無職の空白期間を舐めんな! 社会は俺みたいなバグを許容するようにはできてねえんだよ!!」
ヤケクソになって叫ぶ俺。
こよい
85
110
177
普通、VTuberといえば「夢」や「希望」を語り、リスナーに元気を与える存在だ。だが、俺の口から出てくるのは、純度100%の「社会への絶望」と「自己責任の放棄」だけだった。
「だいたいな、俺はもう働けないんだよ! 今日だって、面接の練習の順番待ちしてる時、周りの空気が重すぎて過呼吸になりかけたんだぞ! 俺には無理だ、社会に適合できねえ! 一生この四畳半で、月に一度振り込まれる保護費を握りしめて、特売のみそラーメンすすって生きていくしかねえんだよ!!」
完全に魔王ルシフェルの設定(ガワ)を破り捨て、泣き言を喚き散らす四十歳。
しかし、その情けなすぎる魂の叫びは、なぜかコメント欄の空気を一変させた。
『……なんか、すげえな』
『ここまで自分の底辺っぷりを隠さないV、初めて見た』
『変に「頑張ります!」とか嘘つかれるより、よっぽど信用できる』
『わかる。社会ってマジで冷たいよな』
『俺も今日仕事で理不尽に怒られて死にたかったけど、このおっさん見てたらなんか元気出てきたわ』
「は? 元気出んなよ! 俺は今お前らに八つ当たりしてんだぞ! 慰めろ! スパチャは投げなくていいから、同情だけしろ!!」
『欲がないのかあるのか分かんねえww』
『魔王改め、生活保護おじさんだな』
『ナマポおじさんwww』
『生活保護おじさんの社会科見学(ハロワ編)』
「誰がナマポおじさんだ! 俺は魔界の……もういい、魔王とかどうでもいい。とにかく俺は、鈴木さんから逃げ切って、このセーフティネットにしがみつくことだけを考えて生きていくんだ!!」
俺が力強く「働かない宣言」をした瞬間。
コメント欄に、これまでにない勢いで弾幕が流れ始めた。
『【朗報】生活保護おじさん、正直すぎる』
『一周回ってカッコよく見えてきた』
『他のVが「みんなに笑顔を届けたい」とか薄っぺらいこと言ってる中、このおっさんだけは「保護費にしがみつく」ってガチの生存戦略語ってて草』
『おじさん、俺が就職するまで養ってくれ……じゃなくて、俺がおじさんを養うわ』
『底辺の星』
『生活保護おじさん万歳!!』
「……お前ら、頭おかしくなったのか?」
俺はぽかんと画面を見つめた。
誰もが取り繕い、よく見せようとするこのSNS時代において。
四十歳の無職が、底辺のリアルと弱さを一切隠さずに晒け出したことで、それは「究極のエンターテインメント」として若者たちの心を掴んでしまったのだ。
『生活保護おじさん』
その日から、俺のチャンネル名(非公式)はそう呼ばれるようになった。
嘘と建前で疲弊した現代社会に突如として現れた、一切の虚飾を持たないリアルすぎる底辺のカリスマ。
俺がただ己の保身と怠惰を叫べば叫ぶほど、なぜか同接は増え続け、切り抜き動画はバズり続けるという、正体不明の狂乱が幕を開けたのだった。
コメント
1件
えぇ〜〜第7話、めっちゃアツかったよ!!😭✨ 「生活保護おじさん」爆誕の瞬間、草生えたし感動した!!(混乱) だって魔王が「働かない宣言」してるのに、むしろカリスマになってくの、何このギャップ萌え…!? 炎天下スーツでハロワ行った後のシャバ声配信、映像が目に浮かぶし、応援したくなる呪いにかかったわ🪄 「底辺の星」って言葉、深くない!? 偽らない生き方こそ最強説、このおじさんが証明してる…! 続き、めっちゃ気になるよ!!👀💕