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冷酷無比
感情を持たない男
近づいた者は皆、凍りつくような視線で退けられる──。
クラウド・フォン・クラウゼ公爵の噂を、社交界で知らぬ者はいなかった。
だからこそ、伯爵家の応接室でその名を聞いた瞬間、私は耳を疑った。
「……クラウド、公爵、から……?」
差し出された封蝋付きの書状を前に、父も母も言葉を失っている。
その沈黙が、この求婚が冗談ではないことを雄弁に物語っていた。
───どうして、私に?
家柄は悪くないが、特別な美貌があるわけでもない。
社交界で目立つ存在でもなかった自分が、なぜ“あの公爵”に。
◆◇◆◇
数日後
王都にそびえ立つ公爵邸で、私はその答えを得ることになった。
「初めまして。エリシア」
低く、落ち着いた声だった。
視線を上げると、そこに立っていたのは、噂に違わぬ端正な青年───
いや、“恐ろしい男”というより、あまりにも整いすぎた人だった。
銀灰色の髪。
感情を映さないと言われる淡い瞳。
だが、その視線は冷たくも威圧的でもなく、ただ静かに私を捉えていた。
「突然の求婚に驚かせてしまったことは理解しています」
クラウド様は、淡々と続ける。
「それでも、君を妻に迎えたい。──僕には、エリシアが必要なんだ」
彼は私の前に片膝を着いて、私の手の甲にそっとキスを落としてきた。
けれど、不思議と拒絶の気持ちは湧かなかった。
むしろ、胸の奥がかすかに熱を帯びる。
こんなに顔立ちやルックスが良く、気品のある男性から見初められるなんて
夢にも思っていなかったし
間違いなく、転機だと感じた。
この人と結婚して、今の家を出れば
もう家族に罵詈雑言を浴びせられることも、したくもないお見合いをしなくてもいい。
やっと、幸せになれる。
そう確信し、私は縋るようにその手を取り「私でよければ、喜んで」と返した。
◆◇◆◇
その日から、私の生活は一変した。
豪奢な公爵邸
過剰なほど行き届いた使用人たち
外出のたびにつく護衛
そして何より、クラウド様は常に優しかった。
「寒くないかい?」
「君への食事は全部僕が作るからね」
「無理しないで、少しずつでいいんだよ」
その声音は穏やかで、決して高圧的ではない。
噂の“冷酷さ”は、どこにも見当たらなかった。
───けれど
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