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それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
午後の庭園。
手入れの行き届いた花々の中で、來亜は静かに微笑んでいた。
『お好きなんですか?』
隣に立つ婚約者が、穏やかに尋ねる。
🤍「ええ、まあ。」
柔らかく返すその声は、完璧だった。
誰が見ても”理想のお嬢様”。
_そう誰が見ても。
少し離れた場所。
彼女はその様子をただ静かに見守っていた。
いつもと同じ位置。
いつもと同じ距離。
それなのに今日は、やけに遠い。
『ぜひ今度、我が家の庭もご覧下さい。』
婚約者の言葉に、來亜は小さく頷く。
🤍「楽しみにしています。」
嘘でもないし、本音でもない。
ただ、”そう答えるのが正しい”から。
ふと、視線を横に流す。
彼女がいる。
でも、目は合わない。
1度も。
🤍「……っ。」
胸の奥がきゅっと締まる。
なんで?
あんなに近くにいるのに。
どうしてこんなに遠いの。
『少し、休憩を。』
婚約者の声で現実に引き戻される。
🤍「ええ。」
微笑んで、歩き出す。
その背中に、彼女の視線が刺さっている気がした。
でも振り返らない。
振り返ったら、多分。
全部、崩れる。
ーーーーー
夕方。
來亜の部屋の扉がノックされる。
🩵「お嬢様。」
その声だけで、分かる。
🤍「入って。」
短く返す。
ドアが開き、彼女が入ってくる。
いつも通りの姿。
いつも通りの顔。
🩵「本日のご様子、お疲れ様でした。」
🤍「…別に。」
わざと、素っ気なく返す。
🩵「問題なく、お過ごしのようで何よりです。」
その言葉にピクリと眉が動く。
🤍「”問題なく”ってなに。」
静かに睨む。
彼女は静かに目を伏せた。
🩵「婚約者様と良好な関係を築いてらっしゃるよう見受けられましたので。」
🤍「、ははっ。」
乾いた笑みが零れる。
🤍「よく見てるじゃん。」
皮肉だった。
でも彼女は受け流す。
🩵「当然でございます。お嬢様の事ですから。」
またそれ。
“お嬢様だから。”
🤍「ねぇ。 」
1歩近づく。
今度は、彼女が動かない。
🤍「今日、ずっと見てたでしょ。」
沈黙。
でも、否定しない。
🤍「どう思った?」
逃がさないように、視線を絡める。
ほんの僅かに、呼吸が乱れる。
でも。
🩵「お似合いかと存じます。」
その一言。
一瞬、頭が真っ白になる。
🤍「そっか。」
笑う。
ちゃんと笑えてるはず。
🤍「じゃあさ。」
さらに距離を縮める。
今度は本当に目の前。
🤍「なんでそんな苦しそうなの。」
初めてだった。
彼女の表情が崩れたのは。
ほんの一瞬だけ。
苦しそうに歪む。
🩵「……しておりません。」
すぐに戻す。
でももう遅い。
🤍「嘘つき。」
小さく呟く。
これ以上はダメなのに、踏み込む。
🤍「私が他の人といるの、そんなに嫌?」
空気が凍る。
でももう止まれない。
彼女の手が、僅かに動く。
🩵「……お嬢様。」
低い声。
抑え込んだ声。
🩵「そのような事、軽々しく言うものではございません。」
🤍「軽くない。」
🤍「私は本気で聞いてる。」
逃げ場なんて与えない。
長い沈黙。
やがて、彼女はゆっくりと目を閉じた。
🩵「……嫌、です。」
小さく。
でも、確かに聞こえた。
🤍「え……」
思わず、息を呑む。
今、なんて。
彼女はすぐに目を開く。
そして、いつもの顔に戻る。
🩵「それは、私の私情です。お嬢様には関係ございません。」
距離を戻す。
さっきの言葉なんて無かったことにするみたいに。
🤍「……は」
笑ってしまう。
🤍「何それ。」
期待した自分がバカみたい。
🤍「じゃあ言わなきゃ良かったじゃん。」
声が少し震える。
彼女は何も言わない。
🤍「なんでそんな中途半端な言い方なの。」
🤍「もういいよ。出てって。」
視線を逸らす。
これ以上居たら、きっと。
泣く。
🩵「……失礼致します。」
静かに一礼して、彼は部屋を出る。
ドアが閉まる音がやけに大きく響いた。
一人になった瞬間。
🤍「……最悪」
ぽつりと呟く。
胸がぐちゃぐちゃで、息がうまくできない。
なんであんなこと言わせたの。
なんであんな顔させたの。
🤍「……バカ」
自分に向けた言葉。
でも本当は、
あの人に向けたかった。
NEXT.