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なんとかみゆきさんを助けた私たち。着替えをした部屋に戻って話を聞く。
ねむ「信じられません…あんなに幸せそうだった貴方が結婚式を台無しにする悪夢を望んでるなんて…」
みゆき「そんなつもりは…ありません…」
まるで圧迫面接の会場である。人間の深層心理は誰にも分からない。夢を見ている本人でさえ。知ってはいたが、実際に目の当たりにすると…。初めてのことだ。緊張しないわけもない。話ていると窓に何かが映った。あれは…木?明らかに怪しい。ゼロからもらったカメラで記録しておこう。
月並みな言葉だが、嫌な夢だった。 こういう時は直接聞くに限る。みんなでゼロのところへ行く。
幸呼奈「おはようございm…」
莫「幸呼奈さん助けてください!」
幸呼奈「は?」
話を聞くに目が覚めたら窓が開いていて、入り口のクローゼットも開いていたらしい。誰かいる。
一同「泥棒!」
富士見「いえ。警察です」
渚冬「いえ警察ですじゃねー!」
莫「怪事課の…」
なすか「突然すみません。声はかけたのですが…」
幸呼奈「…彼、寝てたなら普通に忍び込みですよ?」
磨輝「そして莫さんがいると思わずに侵入した場合は空き巣、いると知っていて侵入した場合は居空きっていうんでしたよn…」
茉津李「磨輝!今、そういう話はいい!」
なすか「ですよね!捜査のためとはいえ!課長!」
富士見「だが想像以上の収穫だ。クローゼットの奥にこんな隠し部屋があったとは。万津莫…君は何者だ?」
さりげなくゼロのところによっていく莫くん。
莫「どうしよう…(小声)」
ゼロ「怪事課には利用価値がある。正体を明かしておけ(小声)」
言うしかないか。
莫「実は俺…極秘防衛機関 Codeに所属してるエージェントなんです…」
幸呼奈「私たちは新入り?サポーター?みたいな?」
莫「この世の悪を撲滅するために活動してまして」
なすか「は?貴方が?」
富士見「そうだったのか!」
一同「信じるんですか⁉︎」
富士見さん曰く普通の青年が極秘機関のエージェントというのはあり得ない話ではないし、事故の怪我があり得ない速さで完治したのも、人と同じ夢を見られるのもそのせいだったりするのだと納得したとのこと。これが公安の推理力。流石だ。
美浪「莫?」
莫「やば…!」
出ていく莫くん。盗み聞きしよう←先程まで怪事課の2人を忍び込みだと咎めていた者。
美浪「入るよ?何してるの?」
莫「あ…あ…衣替えの服、出そうかなって…」
美浪「今日ロケで朝早く出なきゃいけないから朝ごはん食べちゃってくれる?」
莫「何で俺の部屋で⁉︎」
美浪「魚焼くの失敗してリビング焦げ臭くて」
莫「よりにとって何でこんな時に…」
美浪「はい?明日から1ヶ月当番する?」
莫「は!いやいやいや…」
富士見「どうやらエージェントであることは家族にも隠しているようだな」
なすか「そうですか」
何だか色々と探索している。再び莫くんの部屋。
美浪「食事中に見ないの。てか何そのカメラ。何見てるの?」
莫「えっと…借り物。どっかで見たことある場所だなーって…」
美浪「ジョギングコースの公園じゃん」
莫「…!やっぱ美浪スゴイな!」
美浪「だってこの木昔からあるじゃん。見たらすぐ分かるよ」
莫「…」
ナイス、美浪ちゃん。食事を終えたのか戻ってきた莫くん。
莫「ちょっと!何すっかり馴染んでるんですか!」
富士見「今後は我々が君の任務をサポートさせてもらう」
これは狐福《きつねふく》。彼らの協力があれば心強いはずだ。
なすか「私はまだ信じていませんが」
富士見「その代わり、君が任務で手に入れた情報は共有してもらうぞ。ナイトメアの実態を解明することが、我々怪事課の目的だからな」
莫「はあ…とりあえずこの部屋、紅茶によく似た燃料あるんで気をつけてください」
富士見「くっ…」
幸呼奈「富士見さん!」
なすかさんも怪訝そうな顔で飲もうとしたそれを見つめている。レモンコーヒーでお口直ししてもらう。自分用にも淹れる。皆がコーヒーのほろ苦い香りを身にまとってきた。 情報をまとめよう。
なすか「調査資料、拝見させてもらいました。任務は麻宮外務大臣の娘、みゆきの護衛。宝田財閥の御曹司、光輝との結婚式が間近に控えているようですが」
富士見「教会に散乱したカラスの羽根はナイトメアの仕業だな」
どうやら現実世界でもそういうことが起きたらしい。
莫「え?どうしてそれを?」
富士見「ブラックケースが起きてな。ナイトメアは何をした?」
莫「結婚式から花嫁をさらおうとしたんです」
富士見「やはり夢は情報の宝庫だな。なすか!両家の関係者を洗うぞ」
なすか「だから下の名前は親にしか呼ばせません!課長!」
富士見さんとなすかさんが当たり前のように窓から飛び降りていったのには驚いたが。今は夢に映っていた莫くんたちがランニングをしていた公園にきている。夢と同じ大きな木。
莫「ここだ」
幸呼奈「そだね」
しばらく歩いていると心なしかあの時の富士見さんと同じような顔で木を見ているみゆきさんがいた。木の上では猫が休んでいる。ここは静かだから猫の声がよく響く。
幸呼奈「こんにちは」
莫「昔からありますよね。この木」
みゆき「どこかでお会いしましたか…?」
やってしまった。あそこはみゆきさんにとって夢でしかないから…。
莫「この木に何か思い出でもあるんですか?」
みゆき「ええ。まあ。忘れたくても忘れられなくて…」
思い出なのか。いい思い出ではなさそうだが。
みゆき「私の人生を…変えてしまったんでs…」
「もう〜。どこ行ったのよ〜」
幸呼奈「お姉!」
親の声くらい聞いた声に振り返るとやはりそうだった。歌華(以後:お姉)。文月家の長姉。力の異能力者だ。仕事は獣医。
幸呼奈「何してるの?」
歌華「猫の診察が終わって外に出たら逃げちゃったから探してたのよ。見てない?」
ずっとまさかと思っていたが、木の上にいる猫を指差す。やはりコイツは降りられなくなっていたのだろうか。
歌華「あーあ。幸呼奈。ちょっとこれ(白衣)持ってて」
押し付けられた白衣を持った瞬間、お姉がそれこそ風になったようなスピードで木を伝っていった。気づけばもう猫がいた枝に片手でぶら下がり、片手で猫を抱えている。恐るべし。力の異能力者。ストンと飛び降りて私から白衣を受け取り、自己紹介も済ませてさっさと行ってしまった。
莫「いやー。すごかったですね」
みゆき「そう、ですね…」
少し物憂げな顔で左膝をグッと握りしめている。ゼロのところへ戻ろう。もう怪事課の2人が山ほど荷物を持ってきている。 順応が早すぎる。そういえば両家の関係者を洗うと言っていた。
なすか「こちらの調査によると、新郎の父親は麻宮大臣の後援会会長で、利益供与をめぐる疑惑があります。それから麻宮みゆきと土井一平に関する興味深い出来事がありました」
パソコンの画面をこちらに向けてくれた。昔の記事だ。15年ほど前、当時中学生だったみゆきさんは木に登っていて転落してしまったのだという。一平さんのおかげで一命は取り留めたのだ。恐るべし。公安の情報収集力。
富士見「読めた!みゆきは政略結婚に従うしかなかったが、本当は土井一平との純愛を望んでいた」
莫「みゆきさんの悩みは本当にそのことなんでしょうか…」
富士見「本当かどうか夢で突き止めるのが君の務めだろう」
なすか「自信ないんですか?自称エージェントなのに」
莫「俺は…正真正銘コードナンバー:7だ!」
「やる気入ったのね。あたしも参加させてもらおうかしら」
当たり前のように入ってきたお姉。どうやら今までのことは聞いていたらしい。協力してくれるという。
ねむ「おやすみ!」
莫「結婚式は?」
ねむ「無事に終わって、2人は今日からハネムーンですよ」
莫「じゃあナイトメアの悪夢はまだ全て叶っていない…」
歌華「ところでナイトメアの悪夢って頭痛が痛いみたいn…」
幸呼奈「お姉!今、そういう話はいいから!」
ねむ「今度は何が起きるの?」
莫「その答えは花嫁の深層心理の世界にあるはずだ」
ねむ「そんなのどこに?」
私たちの予感が正しければあそこだ。私たちがみゆきさんと会った公園に行ってみる。やはり木に心の扉があった。
歌華「ここね」
扉の先には妖しく鎖でがんじがらめになった木が。まだ開いていないものが1つある。みゆきさんは何を恐れているのだろう。そういえばナイトメアを追い出してすぐに陶瑚からこんなことを聞いた。
陶瑚「仮説は立てた。聞いてくれる?」
幸呼奈「いいよ。どんなの?」
陶瑚「ナイトメアは人の醜さと闇を好んでいるの。現実世界で抱えている負の感情という火種に薪をくべ、火を大きくする。それが悪夢」
幸呼奈「負の感情って…恐怖とか悲しみとかだよね? ねえ。荒唐無稽すぎること思いついたんだけど……」
急いでゼロのところへ戻った私たち。
ゼロ「行き先を選択するんだ」
ゼロの近くにダイヤルがあった。莫くんが回すと目の前の扉の向こうに空港の景色が広がった。
莫「彼女は結婚そのものを望んでいなかったわけじゃない」
歌華「莫くん謎、解けたの?」
幸呼奈「じっちゃんの名にかけたんだね」
歌華「幸呼奈!今はそういう話はいいから!」
莫「でも謎が解けたっていうのは本当。彼女は高所恐怖症で、飛行機に乗ることを恐れていたんだ」
なるほど。みゆきさんが恐れていたのは結婚式ではなく、ハネムーンの飛行機の事故。確か木登りをして落ちて一平さんに助けてもらったことがあったと聞いている。これが後の悲劇(高所恐怖症)の引き金になってしまった。いずれにしよ、気の毒な話である。つまりナイトメアが次に叶えようとしている悪夢は…飛行機墜落!なんとしても止めないと。ゼロに連れて行ってもらう莫くん。お姉に担がれて行く私。力の異能力と夢の中という力が合わさってとんでもないスピードが出ている。橋まで辿り着いた。もう飛行機が飛んでいる。もうナイトメアが羽の攻撃で飛行機を襲撃している。あの飛行機を守りとおさなければ。
ナイトメア「ハハハ…」
歌華「そこまでよ!」
ナイトメア「邪魔はさせない…」
莫「Protect the VIP bride《要人の花嫁を警護せよ》…それが俺のミッションだ。(ドライバーにウイングカプセムをセットして)I’m on it 《さあやろうか》…変身っ!」
ナイトメア「無駄だ!時期、悪夢は叶う!」
莫「絶対に救うんだ!」
空中戦に移行。私も竹杖にお姉を乗せて一緒に飛んでいく。ひゅうひゅうと鳴り響く風に乗っているうちに飛行機の真上に辿り着いた。
幸呼奈「まずい、時間切れだ…!」
歌華「え?」
私の異能力は対象に状態異常を与えるもの。それはどんなに張り上げた声もいつかは遠くなるように一時的なものでしかない。能力名だけ聞くと異常に思うかもしれないが、決して万能ではない。
歌華「捕まって」
幸呼奈「うん」
私を小脇に抱えたお姉は竹杖を踏み締め、飛行機まで吹っ飛んでいった。まさかお姉がこんなにも強いとは。なんとか飛行機の上で莫くんと合流できた。ナイトメアとも。
莫「一か八か…」
ストリームのカプセムでフォームチェンジ。ストリームの意味は「流れ」。
莫「気流を変える!」
ストリームのカプセムの能力のおかげで川に突っ込みそうだった飛行機は川をスレスレを通り過ぎて行き、無事に上昇気流に乗っていった。
莫「空のサーフィンと行こうぜ!」
幸呼奈「よーし。私も!“どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう”!」
莫「風は俺たちの思い通りだ!」
再び襲ってくるナイトメア。ゼロから受け取った武器を手に取り、ガンに変える。私とお姉も一緒に気流を変えるついでに召喚した銃で応戦。
ナイトメア「くらえ!」
莫「所詮《しょせん》は烏合《うごう》の衆《しゅう》だ!」
ナイトメアの攻撃も風に流されていく。風の力でナイトメアを縛りつけ、動けなくする。莫くんにトドメを刺してもらってミッションコンプリート。無事に飛行機をなんとか守り切った。
車に乗ろうとしているみゆきさんと光輝さん。
みゆき「ありがとう。ハネムーン変更してくれて」
光輝「あんな悪い夢の話を聞いたら飛行機なんて乗せられるわけないだろ」
彼らの優しさは本物だった。軸がずれてしまっただけで。タチの悪いものと絡み合ってしまった。正直、悪いなんて月並みな言葉では表したくないが。ナイトメアは夢主の深層心理という火種に薪をくべるのが目的。恐ろしい。
一平「おめでとう…」
なすか「見事に推理外れましたね」
富士見「純愛を諦めてもいいのか?」
一平「本人が幸せならいいんです…誰⁉︎」
そうなるよね。
莫「いい夢見れますように」
私たちも帰ろう。
帰り道。またあいつがいた。ナイトメアを指揮していると思われるアイツ。もうどこにでもおるやん。出身でもないのに関西訛りが出てしまっている。何、読んでるんだろう。
「肉体…文明…精神…次元…この世界のあらゆるものは…崩壊の定めにある。我々を除いてな…。ねむ」
彼はねむちゃんの何なのだろう。
“ごく自然に、だが自然に愛せるといふことは、
そんなにたびたびあることでなく、
そしてこのことを知ることが、さう誰にでも許されてはゐないのだ。”
抜粋
宮沢賢治「風の又三郎」
中原中也「山羊の歌」