テラーノベル
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百子は自身に覆い被さっている陽翔にしがみつき、体を震わせて啼く。陽翔に散々耳朶をわざとリップ音を立てて舐られ、触覚と聴覚を直にくすぐられたために、お腹の奥が疼いてしまうのだ。まだ唇と耳しか愛撫されていないのにも関わらず、百子は彼を性急に求めていることに気づき、それが明るみになるのを恐れて、嬌声を噛み締めた。それでも執拗に陽翔が首筋に舌を這わせるため、どうしてもあられもない声が漏れてしまう。声量を懸命に抑えていた百子だったが、唐突に陽翔の熱が離れてしまい、慌てて彼の腕をつかむ。
「百子、すまん」
陽翔は百子を抱き上げて座らせ、彼女に軽くキスを落とすと、テーブルに置いてある水差しをベッドサイドに移動させ、中身を口に含む。そして彼女を再び抱きしめた。
「んっ……」
冷たいものが口腔を満たし、百子はようやく喉が乾いているのだと気づき、冷涼さを求めて陽翔の舌を追尾する。水で温くなっていた彼の舌は、百子が追いすがったことで瞬時に元の熱さを取り戻し、互いの体温で染め上げていく。それが二、三度繰り返されると、陽翔の唇が離れていった。
「あり、がと……陽翔。お水美味しい……」
「……やっぱり喉乾いてたか。まだ飲むか?」
百子は首を横に振って、何故彼が喉の乾きに気づいたかを尋ねる。
「声が少し掠れてた。酒焼けかと思ったが、量的に考えると喉が乾いたんだろうなって」
「……気付いて、たの?」
百子は潤んだ瞳を見開く。声が掠れていた自覚がまるで無かったのに、陽翔はあの短い時間で百子の喉の乾きを看破していたのである。陽翔の気遣いに、百子は再び感謝の意を伝える。
「何となく百子が辛そうに見えたってのもあったしな。百子、今日は酒飲んでるんだから喉が乾いたらちゃんと言ってくれ」
「……でも、ムードを壊すのは、いや」
眉を下げて告げる百子に、陽翔のため息が降り落ちる。
「そこは気にするな。それに、喉が乾いてたら百子が辛くなるぞ」
百子は訳が分からずに首を傾げたので、陽翔は僅かに声に怒りを滲ませた。
「あのな……女は体の水分量が少なくなると濡れにくくなるんだぞ! それだとただ痛いだけになるじゃねえか! 俺は百子に痛い思いはさせたくない! 百子との幸せな時間を壊したくないんだ」
(……知らなかった)
百子は思わず下を向いてしまった。自分のことにも関わらず、無知な自分が恥ずかしかったのだ。それでも陽翔が気遣いをしたことの嬉しさの方が勝り、陽翔としっかり目を合わせて頷いた。陽翔にそっと抱き寄せられた百子は、彼の首筋に頬ずりすると、陽翔の懇願が百子の耳朶を打った。
「だから……だからちゃんと言ってくれ。今はたまたま俺が気づいただけだ。百子、自分を大事にしてくれ……」
百子は陽翔の背中にぎゅっとしがみつく。陽翔の気遣いと、彼の裸の胸が温かく百子を包み、百子は心の底から彼に感謝し、彼の耳元で囁く。
「うん、分かった。陽翔、本当にありがとう……! 気を遣ってくれて嬉しい……! でも陽翔もしんどかったりしたら言ってね? だって陽翔が苦しかったり痛かったら悲しいもん……だから陽翔も約束してくれないと嫌。陽翔も自分を大事にして」
後半になるに連れて艶を増す百子の声に、陽翔はふっと笑って頷き、彼女の桜桃のような唇をそっと啄み、しばらく二人はお互いの密着した体温と心音のみが支配する時間を漂う。
「約束する……俺達、やっぱり似た者同士だな」
百子が頷き、お揃いで嬉しいと微笑むものだから、陽翔は再び彼女を押し倒し、彼女の鼻にかかったような甘い声を、彼女の舌を口腔を味わい尽くして一度彼女の顔を見下ろす。劣情に潤んだ彼女の瞳は、陽翔の雄を滾らせるのに申し分ない。
「仕切り直しだ。百子」
獰猛な笑みが百子に向けられる。鎮火した体の奥が再び燃え盛るのに、大した時間は掛からなかった。首筋に陽翔の唇や舌が這い回り、双丘をゆっくりと陽翔の左手が蠢いて、腹に、脇腹に、腰に、太ももに降りていく。陽翔が肝心な所に触れないために、緩く疼きが蓄積していき、百子は陽翔の腕を掴んだ。
「はる、と……」
彼の指が双丘の蕾に触れるか触れないかの所まで来たと思えば、すぐに反れてしまい、百子は悲しげに陽翔の指を目で追う。縋るように彼の顔を見れば、人の悪い笑みがそこに浮かんでいた。最奥から熱を、潤むものを感じた百子は、先程逃げた彼の手を自身の胸に誘導する。
「おね、がい……さわって……」
情欲を孕んだ彼女の瞳が、艶っぽい声が、柔らかくて吸い付くような肌が、悩ましげな表情が、一気に陽翔の熱杭を痛いほどに滾らせる。彼女を焦らす計画が、根底から崩れ去るあっけない音が彼の脳内に虚しく響く。
「ったく……俺が可愛がる前からこんなに尖らせて。エッロ……」
陽翔は固くなった蕾を舌で突き、軽く吸い付く。そのまま舌でころころと転がし、やや強めに吸ってから唇を離し、息をそっと吹きかける。もう片方の蕾はフェザータッチで翻弄していると、百子の体が跳ね、彼女の嬌声と蕾を舐る音だけが淫靡に二人の耳朶を撫でた。
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