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🤍「ねぇ、康二くん」
🖤「なあ、康二」
🤍🖤「どっちを、選ぶの?」
学校生活がしんどくなった俺は、この命を投げ出そうとしたことがある。
ビルの屋上。あと1歩踏み出せば、この体は地面めがけて落ちていく。これで、やっと楽になれる。
俺がゆっくり深呼吸をして、足を前に進めた瞬間。
誰かが、俺の手をとった。
🧡「……!?」
宙に浮く俺の体。俺の手をとったのは……天使と、悪魔だった。
🤍「……ちょっと、俺が先に目つけてたんですけど」
🖤「それはこっちのセリフだけど?」
俺の頭上でケンカを始める2人。俺は何がなんだか分からないまま、ポロリと涙を零した。その途端、2人はケンカをやめて慌てふためく。
🤍「わわ、泣いちゃった!」
🖤「とりあえず、屋上に戻ろう」
空を飛ぶ2人によって、俺はまた屋上へ。ふりだしに戻ってしまった。
🧡「……どうして」
🤍🖤「え?」
🧡「どうして、俺を死なせてくれなかったんですか」
涙が溢れる瞳で、2人を睨む。
🧡「学校ではいじめられて、抵抗しても殴られ続けて、先生も話を聞いてくれない。親も俺を置いていなくなって家でもずっと一人ぼっち……こんな俺が生きていても、意味が無いのに!」
涙と共に溢れる俺の本音。すると、2人は少し何かを話したかと思うと、俺に向かって微笑んだ。
🤍「意味ない、なんて言わないで。僕たちが君を助けてあげるよ」
🧡「……本当に?」
🖤「その代わり、1つ条件がある」
悪魔はそう言うと、俺に1枚の紙を見せる。
🖤「1ヶ月以内に、俺とコイツのどちらと生涯を共にするか決めるんだ」
🧡「生涯を、共に……」
よく見ると、その紙は契約書だった。人生に絶望している俺に、たった1ヶ月で人生を決めろと……
🤍「契約規則は三つ。
『其の一。人生を終わらせたい人とこの契約を結ぶこと。
其の二。契約中は誰も死んではいけないこと。
其の三。契約者はどちらか片方を選ぶこと。』
規則を破れば、罰が与えられるからそのつもりでね?」
淡々とした口調で謎の契約規則を読み上げるラウール。
変な規則まである上に、罰もあるなんて……
憂鬱な気持ちになっている俺をよそに、2人はまたケンカを始める。
🤍「まあ、僕を選ぶに決まってるんだけどねっ」
🖤「はあ?絶対に俺だろ」
🤍「誰が悪魔と生涯を共にしたいって思うのさ?」
🖤「天使だって、そんなに良いもんじゃねえだろ!」
……こんな2人と一緒に過ごすなんて、嫌でしかないけれど。
誰かと一緒に過ごす感覚を忘れてしまった俺にとって、悪いものじゃなさそうかも……?
俺は少し興味を持ってしまった。
天使の名はラウール、悪魔の名はレンという。
2人とも、俺の人生を変えたくて数ヶ月前から見守ってくれていたらしい。
🤍「康二くん!僕が部屋掃除してあげるよ!」
🖤「俺ご飯作るから。そこで待ってて」
2人とも、俺のために頑張ってくれる。
なんで、こんな俺のために……初めはそう思っていたけれど、次第にそう考えるのをやめた。
彼らは物好きなんだ。なんの面白みもない俺を、大切に思ってくれる貴重な存在。
いつからか俺は、2人との生活を楽しいと思ってしまっていた。
2人のおかげで、日常生活は難なくできるようになった。買い物にも気楽に行けるし、ご飯の作り方や洗濯の仕方も教えてもらった。前まで一切やることのなかった部屋の掃除かって、進んでやるようにさえなった。
それでも、学校にだけはどうしても行けなかった。クラスメイトにも会いたくないし、先生にも絶対会いたくない。
2人さえいれば……ラウールとレンさえいてくれれば、俺はもうそれでよかった。
月日が経つのは早いもので、気づけばもうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
🖤「康二ー?」
不意に、レンが俺を呼んだ。
🧡「ん、どうしたの?」
黙って俺を見つめる2人。
……そうか。もう、選ばないといけないんだね。
🤍「……どっちにするか、決めた?」
🖤「もちろん、俺だよな?」
🤍「そんな訳ないじゃん、絶対僕だよ!」
🧡「……」
2人は、いつぶりかの言い合いを始めた。出会ったばかりの頃に戻ったようで、なんだか懐かしく思えた。
🤍「ねぇ、康二くん」
🖤「なあ、康二」
🤍🖤「どっちを、選ぶの?」
言い合いをやめたかと思えば、声を揃えてそう言ってくる2人。俺はそんな2人に向かって、前々から考えていたことを確かめてみることにした。
🧡「……選ぶ前にもう一回、規則を教えてもらってもいいかな」
🖤「規則を?えーっと……」
🤍「『其の一。人生を終わらせたい人とこの契約を結ぶこと。
其の二。契約中は誰も死んではいけないこと。
其の三。契約者はどちらか片方を選ぶこと』」
レンが契約書を探している間に、規則を暗記していたラウールが教えてくれた。レンは得意げな顔をするラウールを睨みつけている。
🧡「……規則を破った時の罰って?」
🤍「え?破ったら……」
俺のこの質問で、レンは何かを察したらしい。戸惑うラウールとは裏腹に、レンははっきりとした口調で答えた。
🖤「『いずれかの規則を破った契約者は、直ちにその命を失う』」
🤍「ちょ、言っちゃダメでしょ!」
🖤「違うんだってラウール。康二、言わなくてもわかってたんだろ?ここで規則を破ったら……」
🤍「え、そうだったの……?」
悪魔だからなのか、俺の悪巧みは必ずレンにバレてしまう。今回もやっぱり例外じゃなかったようだ。
🧡「……うん。俺、2人と一緒に死にたいの。ラウールとレンがいてくれるとはいえ、こんな世界で暮らし続けるのは嫌だ」
普通の暮らしができるようになっても、楽しいことも、やりたいことも、何も見つからなかった。それに、どちらかを選べばどちらかは死ぬ、なんて絶対に嫌だった。
だったらもう、この人生をやり直したい。新しい環境で、この三人で。
🧡「俺は、来世で2人と一緒にいたいんだ」
その夜、俺は2人と一緒に空を飛んだ。
上を見上げれば、真っ白く輝く月が。下を見れば、真っ黒で活気の消えた街並みが。
🤍「本当にいいの……?」
🖤「いいじゃねえか。自分でこれを望んだんだから」
🧡「……うん。次もまた、三人で一緒だね」
俺たちは、白にも黒にも飲み込まれることなく、空気に溶けて消えた。
「白」と「黒」の狭間で下した選択に、後悔なんてなかった。
次の日の朝。小さな田舎町に三つ子の赤ちゃんが生まれた。
その三人の産声は、とても幸せそうに聞こえたのだとか。