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メカニアの街は、にわかにざわついている。

街ゆく人は次々にこう呟いてきた。

「夜がやってきた」と。

この時代のメカニアには、夜に関する根も葉もない噂が流れていた。

夜は子供を攫っていくだとか、稼ぎの少ない者を間引きしているだとか、根拠もない噂をメカニア中が信じていた。


***


数年ぶりにやってきたメカニアの街は、ひどく賑やかだった。

目が痛くなるような日差しに、どこまでも澄んだ水色の空。

暖かい日差しに、頬を切っていく北風。

まさに冬らしい気候だ。


「今日の夕飯はシチューですかね。

それとも、別のにしますか?」


乳母のアルビーがぶつぶつと呟きながら隣を歩いていた。


「なんでもいい。」


気づかないはずがなかった。

俺が通る度にヒソヒソと噂話をする街の住民を。  父が言うには、街の住民は俺たちのことを化け物かなにかだと思っているらしい。

確かに、後継ぎを作らなければ死ねない体なんて化け物かもしれないと納得してしまう自分がいるが。

子供を殺すだの、馬鹿みたいな噂で罵られるのは、あまりいい気はしない。


なんでもない顔で、夕飯の話を続けるアルビーも、流れる噂話に気づいているはずだった。

街を歩くことで、奇怪な目を向けられるのは、俺だけではない。 隣を歩くアルビーも同じような目で見られているはずだった。

それなのに、どうしてそんなに堂々と街を歩けるのか、不思議だった。

アルビーは耳が悪い訳では無い。 住民たちの噂話も、耳に入っているはずだ。

それなら、どうして。

どうして、俺なんかと共に街を出歩こうという考えに至るのか、全く理解できない。


「具材は何を入れましょうか…。

寒くなってきましたから、ジャガイモと、

牛肉と、ニンジン、他には何か入れます?」


青果屋の前で、一つ一つ野菜を手に取りながらそう尋ねるアルビーを無視して、屋台に並ぶ色とりどりの野菜を見つめる。


そこから少し視線を上げた先、目に映った“それ”それを見つけた瞬間、時が止まったような感覚を覚えた。

泥沼に咲く、一輪の花のような彼女に目を奪われてしまった。

アルビーの声は、もう聞こえなかった。


***


「これ、二種類ありますけど、レイラ様はどちらが__」


レイラ様の方を向くと、彼はどこか遠くの方を見つめていた。人がせっかく夕飯の相談をしているのに、無視とは……

ちゃんと人の話は聞くよう、小さい頃からしつけていたはずなのだけれど。

軽く説教をしなければと開いた口は、すぐに閉じる。

何かに見とれるその瞳を、無視することは出来なかった。なにか欲しいものが見つかったのかもしれない。

普段何事にも無関心なレイラ様が、私の声が届かないほどのものとは一体なんだろう。


レイラ様が見つめる“それ”を見て、私は言葉を失った。

その視線の先には、街の隅でうずくまる、少女の姿があったのですから。

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