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――凛が、知らなかったこと
正直に言うと、最初から特別だった。
隣の席になった日、
机に突っ伏して眠そうにしていた緋佐木凛を見て、
「変なやつだな」
って思った。
クラスの女子は、だいたい空気を読む。
笑うところで笑って、盛り上がるところで声を上げる。
でも凛は違った。
どうでもいいところで笑って、
大事そうなところで、どうでもよさそうな顔をする。
それが、気になった。
話しかけたら、案外ちゃんと話してくれる。
でも深入りすると、すっと一歩引く。
距離が近いのに、触れられない。
そんな感じだった。
いつから好きになったのかは、分からない。
気づいたら、凛が笑うと安心して、
凛が他のやつと話してると、少しだけ落ち着かなくなっていた。
告白しようと決めたのは、文化祭の準備が佳境に入った頃だった。
夜の教室。
二人きり。
今なら言えると思った。
断られてもいい。
終わってもいい。
ただ、曖昧なまま終わるのだけは、嫌だった。
「俺、凛のこと好き」
言った瞬間、 凛の目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
――ああ、やっぱり。
分かってた。
凛も、同じ気持ちだって。
だからこそ、次の言葉が、胸に刺さった。
「付き合わなくても、今のままでよくない?」
頭が真っ白になった。
楽、という言葉で片づけられるほど、
俺の気持ちは軽くなかった。
でも、凛は笑っていた。
いつもと同じ顔で。
――ああ、この人は、壊れる前に、手放す人だ。
本気になる前に、逃げる人だ。
その瞬間、分かった。
ここで食い下がったら、 凛はもっと遠くへ行く。
だから、笑った。
「そっか。凛がそう言うなら」
本当は、全然納得していなかった。
でも、凛を困らせるのが嫌だった。
それから、少しずつ距離を取った。
凛が傷つかないように。
――いや、本当は。
これ以上、好きにならないように。
卒業が近づくにつれて、 凛が県外に行くことを知った。
やっぱりな、と思った。
凛は、ここに留まる人じゃない。
昇降口で最後に話した日、
本当は言いたいことが山ほどあった。
好きだった。
今も好きだ。
一緒にいたかった。
でも、全部飲み込んだ。
「元気でね」
それだけ言って、背中を向けた。
振り返ったら、 きっと、引き留めてしまうから。
――凛。
お前はきっと、
「なんとかなる」
って言いながら生きていくんだろう。
その中で、
俺のことを思い出す日が来たら。
そのときは、ちゃんと後悔して。
俺が、 本気で恋をしていたことだけは。
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