テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ち び
65

61
大急ぎで洗濯機を回している間に、明日から再開する仕事の準備を終わらせてしまう。
と言っても、旅行に行く前にある程度の準備は終わらせていたため、書類の最終確認をするくらいで、回し終わった洗濯物を干し終えても、約束の19時まではまだ少しだけ時間があった。
ふと、はやちゃんはもう夜ご飯を食べたのだろうか、という疑問が頭に浮かんだ。
わざわざ空港まで迎えに来てくれたのに、彼は一切怒る事もなく優しく笑って身を引いてくれたのだ。
たくさん心配と迷惑をかけてしまった。
何かお礼がしたくて、僕は彼のために簡単な夕食を作っておくことにした。
旅行で何日も家を空けるからと、出る前に冷蔵庫の中を整理してしまっていたため、中には食材が全然残っていない。
キッチンに立って棚をごそごそと漁り考えた末、常備してあったツナ缶と玉ねぎ、それにニンニクを使った和風パスタにすることにした。
コンロに火をつけお湯を沸かし、パスタの麺を茹で始める。
その間に玉ねぎとにんにくをカット。
ツナ缶の油をフライパンにたらし、弱火でにんにくの香りをじっくりと油に移していく。
香ばしい匂いが立ち上ったところで、そこに薄切りの玉ねぎとツナを入れ、さっと火を通す。
めんつゆと塩こしょうで手早く味付けをして一旦火を消し、あとは麺が茹で上がるのを待つだけだ。
ピンポーン、と部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
あ、はやちゃんかな?
パスタの様子を気にしながら、小走りでインターホンのモニターへと向かう。
「はーい」
モニターの画面に映るはやちゃんは、カメラに向かって軽くひらひらと手を挙げた。
「鍵開いてるから、そのまま入っていいよ〜」
『うぃー』
ガチャ、と玄関のドアが開く気配を感じながら、僕はキッチンへと小走りで戻った。
『おじゃましまーす……って、うわ、めっちゃいい匂いすると思ったわ〜!』
はやちゃんが、我が家のように慣れた足取りで洗面台へと向かって手を洗い、キッチンカウンターの向こうから僕の様子を覗き込んできた。
ちょうどそのタイミングでタイマーが鳴り、茹で上がったパスタをフライパンに移して再び火にかける。
全体をさっと手早く混ぜ合わせ、仕上げに塩とめんつゆで味を調えたら、用意していた真っ白なお皿にこんもりと盛り付けて完成だ。
うん!
我ながらすごく美味しそうに出来た!
いつの間にかキッチンの入り口まで移動して、じっと僕の手元を見て待機していたはやちゃんが顔を輝かせる。
「はやちゃん、できたよ! これ、ダイニングまで持ってって!」
『はーい!! まーじで美味そうなんだけど〜!!』
はやちゃんは嬉しそうに声を弾ませると、ふたつのパスタ皿を両手に持って運んでくれた。
ダイニングテーブルには、既にランチョンマットとフォーク、冷たいお水がすでにセッティングされていた。
僕の料理中にはやちゃんが準備していてくれたみたい。
「はやちゃん、準備ありがとー」
『こんくらいしないと、食う資格なくなるからな!!』
そう言って、彼はニカっと眩しく笑った。
「ふふ、助かる ありがとっ」
『なぁ、ちょ、まじで美味そう! 柔太朗、もう食べていい?』
テーブルを挟んで、ふたり向かい合って椅子に腰掛ける。
はやちゃんはまるで子供みたいに目を輝かせて、フォークを握りしめていた。
「ふふっ。いいよ、食べよ!いただきまーす」
『いっただきまーす!!!』
はやちゃんは待ちきれないとばかりに、パスタをフォークに大量に巻きつけると、大きな口を開けて豪快に頬張った。
『うんまぁーーーーーっ!!!』
「あはは、大袈裟だなぁ」
『まじで言ってんだけど!! 柔太朗もはやく食えって、まじでうまいから!!』
促されて、僕もパスタをひとくち口に運ぶ。
うん、ツナの旨味が麺にしっかり絡んでいて、美味しくできている。
よかった、と胸を撫で下ろした。
『あー……俺、本気で柔太朗を嫁にもらいたいわ〜』
「ふふっ。また始まった、何言ってんの〜」
『だって可愛くてイケメンで優しくて気が利いて、一緒にいて楽しい。そのうえに飯まで美味いとか最高じゃん!! 俺の理想すぎるわ』
パスタを次から次へともの凄い勢いで口に運びながら、はやちゃんは熱弁を振るう。
この人は、昔から僕が何かを作るたびに、しょっちゅうこういう大袈裟なことを口にするのだ。
『なぁ、まじで俺の嫁にこねぇ?』
ほら、また出た!
「いっつもそれじゃん、はやちゃん!」
『いや、俺はまじで言ってんだけど?』
「でも、はやちゃんと結婚したら毎日賑やかで幸せそうだよね~ふふっ」
『……そ、そりゃそうだろ!!俺が幸せにするに決まってんじゃん!!』
僕の何気ない言葉に、はやちゃんが急に耳をほんのり赤くして熱く声を張り上げた。
「いいなぁ〜」
『他人事かよ!! 俺はお前とするって言ってんだろ!』
「はいはい、わかったわかった~」
『も〜、お前ほんとこういう時、話通じねぇ〜……』
「ふははっ! はぁー、おもろ!」
……あぁ、心地いいな。
舜太といる時は、彼の一言に胸が締め付けられたり、身体の芯が熱くなってドキドキして、感情のジェットコースターに振り回されてばかりだけれど、はやちゃんといると何もかも全部忘れて何も考えずに笑っていられる。
自然と笑みがこぼれる。
そんな僕を、はやちゃんはいつもの世界一優しいお兄ちゃんのような眼差しで静かに見つめていた。
to be continued……
コメント
1件