テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『……でもお前、ちゃんと笑えててよかったわ』
不意にトーンを落としたはやちゃんの言葉に、僕はパスタを巻き取ろうとしていたフォークを止めた。
「本当に色々ごめんね? 急に変な時間に電話しちゃったし、たくさん心配かけて。さっきの空港のときも、気まずい思いさせちゃって……」
『いや。俺はさ、お前がしんどい時に頼ってくれて嬉しかったよ』
はやちゃんはパスタを綺麗に平らげると、フォークを置いて僕の目を真っ直ぐに見据えた。
『……もし話せそうならさ、北海道で何があったか聞かせて?』
「うん……。はやちゃんには、ちゃんと話したかった」
『じゃあ、お前も残り食っちゃいな? 話はそれからな』
「うん……」
何をどこから伝えたらいいのだろう。
残りのパスタを口に運びながら、僕は脳内で記憶の糸を静かに手繰り寄せていった。
はやちゃんは、きっとこの世界で誰よりも僕のことをわかってくれている人。
大学時代のあの凄惨な事件が残した深い傷跡。
そこから何度も僕を襲った容赦ないフラッシュバックの嵐。
真夜中だろうが、仕事中だろうが、僕が暗闇に迷いそうになるたびに、彼はいつだって全てを投げ打って僕の元へ駆けつけてくれた。
そして何も聞かずに、ただ僕の隣にいてくれた。
前の会社で遠藤と再び遭遇してしまった時もそうだ。
僕が恐怖で身動きが取れなくなるより先に、はやちゃんが真っ先に僕の盾になって、あの悪魔を視界から完全に遠ざけてくれた。
何より、大学3年のあの最悪な夏の夜。
もしもあの日、はやちゃんが僕を見つけてくれなかったら…。
僕は今頃、この世界に存在していなかったかもしれない。
その後の約半年間、彼が自分の時間をすべて止めるようにして僕を支え続けてくれたからこそ、僕は失ったはずの日常を少しずつ取り戻すことができた。
出会ったあの日から、今日この瞬間に至るまで、はやちゃんはいつだって僕を暗闇から引っ張り上げ、前を向かせてくれた。
感謝という言葉を使うことすら、おこがましく思える。
どうして僕みたいな人間に、そこまで無償の愛を注ぎ続けてくれるのか。
時に申し訳なさで胸が苦しくなるほど、僕は彼に、数え切れないほど救われてきた。
舜太が、僕の過去も傷跡もまるごと包み込んで、まばゆい未来を指し示してくれる”太陽”なら、 はやちゃんは僕が冷たい地獄で溺れそうになるたびに、その強い腕で何度でも引き上げてくれた、僕の”生命線”そのもの。
そう。
出会ったあの日から、どんな時だって。
佐野勇斗は……僕にとって、世界に一人だけのヒーローだ。
ち び
65

61
to be continued…
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!