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第140話:聖域の夏祭り本番。シロ様のバフを授かった究極のヘルシー屋台
とっぷりと夜の帳が下りた、十勝の限界集落・旧神社前広場。
十年という長い沈眠の時を経て、今夜、この場所に眩いばかりの『希望の灯り』が灯っていた。
広場の中央には、俺と巨大ヒグマ(生体クレーン)が数時間で組み上げた、高さ五メートルの荘厳な木造やぐらがそびえ立っている。
その周囲をぐるりと囲むように、赤や黄色の色鮮やかな提灯が幾重にも吊るされ、真夏の夜風に優しく揺れていた。
「ああ……本当に、本当にお祭りが返ってきたんだねぇ……っ」
浴衣姿の村のおばあちゃんたちが、やぐらから流れる十年ぶりの盆踊りの音頭に合わせ、涙を流しながら嬉しそうに輪を作って踊り始めている。
広場の入り口では、お祭りオヤジの法被を着たドバイの石油王とスイスの銀行家が「ドバイより熱いケバブだ!」「純金綿菓子はいかがかね!」と、原価計算が完全に崩壊した無料屋台で行列を作っていた。
過疎化と資金難で消滅したはずの夏祭りが、今、世界で最も贅沢で、世界で最も温かい聖域として完全なる復活を遂げたのだ。
そんなお祭り騒ぎの熱気から少し離れた広場の片隅に、極めて異質な、ミリタリー規格の無駄のない木造屋台がポツンと佇んでいた。
白木のカウンターに掲げられた手書きの木札には、こう記されている。
『玄米焼きおにぎり(特製減塩味噌):100円』
『大豆ミートのネギ間風串焼き(タレ・塩):100円』
「……お兄さん。周りの屋台がA5和牛のケバブとか、一本何十万円もする純金綿菓子をタダで配って大熱狂してるのに、なんでうちの屋台はこんなにストイックで、しかもバッチリカネを取るんですか!?」
お揃いの可愛いひまわり柄の浴衣を着た小春ちゃんが、焼き台の前に立つ俺に向かって、猛烈なジト目を向けてきた。
俺は首に巻いたOD色の手ぬぐいで汗を拭い、炭火の火加減を厳密に調整しながら、冷徹なトーンで応じた。
「小春ちゃん、取り乱すな。祭りの喧騒に流され、過度な脂質や糖質、ましてや貴金属(純金)を安易に胃壁へ投入するのは、兵站(ロジスティクス)の深刻な乱れを意味する。長時間の夜間任務(お祭り)を戦い抜く村人たちの消化器官を考慮し、豊富な食物繊維と良質な植物性タンパク質を適正価格で供給する。これこそが、元・陸上自衛隊需品科としての正しい後方支援だ」
「相変わらず胃袋に優しすぎるミリタリー屋台ですね!! 誰もお祭りにそんな健康管理求めてないですよ!!」
小春ちゃんのキレのあるツッコミが響く中、前夜の尊死トラフィックによる大爆発から奇跡の復旧を遂げた、最強のYAMAHAルーターが稼働を開始した。
【日常チャンネル】の生配信がスタートした瞬間、画面の向こう側には、深夜にも関わらず驚異の一千万人を超えるリスナーたちが一斉になだれ込んできた。
『主の屋台きたああああああ!!!』
『お祭りなのに安定の玄米と大豆ミートwwww』
『隣の石油王のケバブの匂いが凶悪すぎるのに、主のブースだけ精神と時の部屋みたいに静かだなww』
『でもなんか、需品科の火起こしが完璧すぎて、大豆の串が妙に美味そうに見えるぞ……』
チャット欄が爆速で流れる中、トコトコと小走りで屋台のカウンターに登ってきた『小さな影』があった。
小春ちゃんが夜なべして作った、星屑の刺繍が施された藍色のミニ浴衣をまとった、純白の神獣シロ様だ。
その後ろからは、緑の市松模様の浴衣を着たキツネ兄弟、コン吉とコン次郎も「きゅんっ!」「コンッ!」と小気味よく顔を出した。
『ミャウ(まったく、相変わらず商売気のない下僕ね。私が少しバフを授けてあげるわ)』
シロ様は、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を輝かせながら、まるで屋台の看板娘(神獣)のようにカウンターの特等席にちょこんと香箱座りをキメると、焼き台の上でパチパチと音を立てる玄米おにぎりと大豆ミートの串焼きに向かって、スッと白い前足をかざした。
肉球が淡いプラチナ色のオーラを放ち、炭火の煙と複雑に絡み合いながら、食材の分子構造の奥深くまで染み込んでいく。
神獣シロ様の、大地のエネルギーを極限まで活性化させる『究極の豊穣バグ(バフ)』が発動したのだ。
その瞬間。
フワァァァァァァァッ……!!!!
「……ッ!? な、なんだこの匂いは……っ!?」
焼き台から立ち上った一筋の煙が広場に広がった途端、小春ちゃんが言葉を失ってその場に硬直した。
それは、ただの味噌の焦げた匂いでも、大豆の匂いでもなかった。
嗅いだ者の脳の理性を一撃で消し飛ばし、胃袋を強制的に鷲掴みにするような、神話的なまでに芳醇で香ばしい『宇宙一の飯テロの香気』へと変貌を遂げていたのだ。
その凶悪すぎる匂いの破壊力は、広場全体の空気を完全に支配した。
「な、なんだこの香りは!! 私のA5和牛の脂の匂いが、完全に敗北しているだと!?」
高級ケバブを焼いていた石油王がショックでトングを落とし、銀行家が綿菓子メーカーの足を止めて、引き寄せられるように俺の屋台へと歩いてくる。
盆踊りを踊っていたおばあちゃんたちも、子供たちも、SPたちも、すべての人間がよだれを滝のように流しながら、俺のミリタリー屋台の前に大行列を作り始めた。
「ア、アキヤさん……これ、1本おくれ……っ!」
ずらりと並んだ村人たちに、俺は完璧な手際で焼き上がった玄米おにぎりと大豆串を配給していく。
おばあちゃんが、熱々の大豆ミートの串焼きをハフハフと口に運んだ、次の瞬間。
「ーーーっっっ!!! う、美味い……!! 美味すぎるよ、アキヤさん!!」
おばあちゃんの目が、漫画のようにカッ!と見開かれ、大粒の涙が溢れ出した。
「な、なんだいこれは!? お肉じゃないって言ってたのに、外は極上の地鶏のようにカリッと香ばしく、中は最高級の特選和牛のシャトーブリアンを遥かに凌駕するほどの圧倒的な肉汁と旨味が溢れてくるよ!!」
「この玄米おにぎりも信じられない! 噛むたびに大地の恵みが爆発して、体が芯から若返っていくようだ!!」
大富豪の二人も、我慢できずに串をひったくるようにして貪り食い、その場でガタガタと全身を震わせた。
「オーマイゴッド……!! 私はスイスのプライベートバンクの全資産を賭けてもいい! この大豆ミートは、神が人間に与えた究極の果実だ!!」
「マスター!! この屋台を丸ごと1億ドルで買い取る!! 今すぐドバイの王室御用達メニューに指定するぞ!!」
広場全体が、シロ様のチートバフによって『世界一の美味』へと昇華されたヘルシーフードの前に、完全なる狂乱状態(ディナーフェス)へと叩き落とされた。
MeTubeの画面の向こうの一千万人を超えるリスナーたちも、画面越しに伝わる村人や大富豪たちのガチすぎる絶叫と、ジュウジュウと美しく輝く焼き台の映像に、完全に理性を焼き切られていた。
『あああああ!! 画面を見てるだけで胃液が逆流するwwww』
『おばあちゃんが美味すぎて若返ってて草www』
『石油王が1億ドルで大豆ミート買おうとしてるぞwww』
『シロ様の藍色浴衣姿の破壊力と、この飯テロの波状攻撃は反則だろ!!』
『世界一贅沢な100円の屋台、十勝の限界集落強すぎるww』
極彩色のスーパーチャットが、夜空に打ち上がる花火のように画面を埋め尽くしていく。
そんな、全人類が美味の衝撃に涙を流し、カネを積んで狂喜乱舞しているカオス空間のど真ん中で。
俺は一人、静かに折りたたみチェアに腰掛け、焼き台の端のクリーンな領域で焼いていた、自分用の『玄米焼きおにぎり』と『大豆ミートの串焼き』を手に取った。
そして、一切の表情を崩すことなく、完璧な速度でストイックに咀嚼を開始した。
(……ほう。なるほどな)
脳内で、大地のエネルギーが銀河規模のビッグバンを起こしていた。
大豆の繊維の隙間に神獣のオーラが完璧に充填され、噛むたびに細胞が歓喜の悲鳴を上げている。
だが、俺は元・需品科の『どんな極上メシにも動じない鋼のポーカーフェイス』を死守し、静かに喉へと滑り込ませた。
「お、お兄さん……!! 世界中の大富豪や村のみんなが美味すぎて腰を抜かして号泣してるこの状況で、なんで一人だけ『ふむ、今日のプロテイン補給も順調だな』みたいな顔して淡々と玄米噛み締められるんですか!?」
小春ちゃんが、純金綿菓子よりも輝く笑顔でツッコミを入れてくる。
俺は熱いほうじ茶で喉を潤し、キリッとした真顔でカメラの前に立った。いつもの『限界言い訳タイム』の発動だ。
「世界中の皆さま。シロの魔法のバフによって、ただの大豆ミートと玄米が世界一の美味に化け、国家予算レベルの価値が生まれていると思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この神話級の美味さを前にして、まだ言い訳する気か!!!』
『主の限界言い訳タイム・世界一の100円屋台編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、神獣の奇跡による美味などではありません。大豆に含まれる豊富なアミノ酸と、玄米の還元糖が、完璧な熱効率の炭火によって『アミノカルボニル反応(メイラード反応)』を爆発的に起こしたに過ぎません。匂いが広場全体に急拡散したのは、十勝地方の夏の夜間に発生する局地的な『放射冷却による下降気流』が、香気成分を地上付近に対流させたという、純粋な流体力学の結末です。皆さんが高級肉だと錯覚しているのは、お祭りの高揚感による脳内のドーパミンが引き起こした、ただの『心理的飢餓状態に伴うプラシーボ効果』です。ええ、すべてはただの『食品有機化学の相乗効果』と『気象条件の悪戯』に過ぎませんね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、お祭りの景品用に用意していた『文字通り光り輝く、ゲーミング仕様のプラスチック製おもちゃの三連発マシンガン』を両手で構え、俺の背中に向かって完璧なフルオート・ツッコミスラッシュを見舞った。
「下降気流で大豆ミートがシャトーブリアンになるわけないでしょうが!! 食品化学で石油王が1億ドル積むわけないでしょうが!! どう見ても浴衣姿のシロちゃんが、お祭りを盛り上げるために最高の神のバフをかけてくれたんでしょうが!! 素直に『俺の焼いた串は世界一美味い』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのゲーミングマシンガンツッコミ炸裂www』
『流体力学とアミノカルボニル反応(シロ様のチートバフ)』
『心理的飢餓状態(ただの宇宙一の美味)』
『適応力バグおじさん、ついに究極の飯テロを食品有機化学と気象学のせいにするww』
俺の理不尽極まりない生化学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのマシンガンツッコミに、一千万人を超える視聴者たちは美味への飢えを抱えながら、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、素直に美味しいと言えばいいのに。お利口な下僕ね)』
シロ様が、俺の空になったタッパーの横で満足げに目を細め、浴衣の裾を揺らしながら喉を鳴らした。
コン吉とコン次郎も、村の子供たちからおすそ分け(味付けなし)をもらって、嬉しそうに広場を駆け回っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。部隊(村人)の士気が最高潮に達し、精神的ロジスティクスが完全に修復されたのなら、言うことはない」
俺は背中のプラスチックの衝撃をさすりながら苦笑し、提灯の優しい灯りに照らされ、笑顔で溢れかえる限界集落の夜を見渡した。
過疎で消滅したはずの夏祭りは、神獣の奇跡と、VIPたちの圧倒的な財力、そしてどんな奇跡にもブレない『需品科の言い訳』によって、世界一騒がしく、世界一温かい伝説の夜として、どこまでも賑やかに更けていくのだった。
コメント
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第140話、めっちゃ良かったわ…! シロ様の浴衣姿とかわいい肉球バフがもう反則級に可愛いし、アキヤさんの「アミノカルボニル反応です」って限界言い訳、今回もキレッキレで草。石油王と銀行家が完全敗北して屋台買収しようとするの、世界観バグりすぎてて好きすぎる😂 玄米おにぎりと大豆串でシャトーブリアン超えちゃうって、需品科の戦闘力おかしいだろ🔥 最後におばあちゃんが若返って喜んでるシーンでちょっと泣きそうになったわ…。最高の夏祭りだった!
ゆうき あきや
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#心理描写重視