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黒鴉劇場の炎は鎮火した。
舞台は焼け落ち、かつての栄華は灰と化していた。
だが――その中心に、まだひとつの影が立っていた。
相沢蒼。
焦げた床の上に、弟・涼の名が刻まれた古びた名札を見つめていた。
【AIZAWA R.】
【Project MARI – Main Developer】
その横に、白い封筒。
差出人の欄には――香坂真理。
封を開けると、涼の筆跡でこう書かれていた。
「兄さん、もしこの手紙を読んでいるなら、
俺はもう“記憶”の中でしか生きていないんだろう。
MARIは人を救うためのシステムだった。
罪を“消す”ためじゃない、痛みを“癒す”ために作った。
でも、霧島家はそれを歪めた。
真理さんも翔も、止めようとして殺された。
兄さん、どうか――真実を見つけてくれ。」
相沢は封筒を握りしめ、静かに目を閉じた。
そのとき、背後から声がした。
「ようやく、たどり着いたようね。」
黒いコートをまとった女――香坂真理。
しかし彼女は“死んだはず”だった。
「……真理?」
彼女は微笑んだ。
「私は“消された記憶”の残像よ。
Project MARIによって、涼くんが私を“仮想の存在”として残したの。」
相沢は言葉を失う。
真理は炎の残り香の中で静かに語り始めた。
「涼くんは、兄さんを守るために全てを偽装した。
彼が死んだのも、私が殺されたのも、“霧島家が作った真実”だったの。」
「じゃあ、本当の黒幕は――」
「霧島家そのものじゃない。
“記憶を操る仕組み”を作った霧島家の当主・霧島理一。
彼は自分自身の罪を消すために、MARIを使って自分の“人格”を何度も書き換えていた。
そして、今もこの劇場の地下に存在する“中央記憶装置”の中で、生き続けている。」
相沢は拳を握る。
「……つまり、黒幕は“人間”じゃなく、“記憶”そのもの。」
真理はうなずいた。
「ええ。けれど、涼くんは最後に“解除コード”を残した。
兄さん、あなたの中に――。」
その瞬間、劇場の床が振動した。
天井から崩れ落ちた鉄骨が火花を散らす。
地鳴りとともに、地下から機械音が響き始めた。
『MARI SYSTEM:Reactivation』
「間に合わない……!」
真理が叫ぶ。
相沢は拳銃を握り、舞台の奥のハッチを開けて地下へ飛び込んだ。
巨大な球体が静かに回転していた。
その表面には無数の映像が浮かび上がる。
霧島翔が笑う顔、香坂真理が微笑む横顔、そして――涼が兄を見上げる姿。
『Project MARI:Final Access Required.』
「……涼、これが、お前の見た世界か。」
相沢は端末に手を触れた。
すると、涼の声がスピーカーから流れ出した。
「兄さん、最後のコードは“truth”。
真実を信じることが、唯一の鍵だ。」
相沢は息を呑み、静かに入力した。
T R U T H
機械音が止まり、すべての映像が消えた。
そして一枚の映像だけが残る。
――雪の降る日、幼い兄弟が笑い合っている映像。
「……これが、真実。」
やがて、MARIシステムは完全に停止した。
光が消え、静寂が訪れる。
真理の幻影が薄れていく。
「ありがとう、相沢さん……。
あなたが“真実”を選んだから、私たちはやっと……」
相沢は目を閉じた。
「いや、ありがとう。
お前たちが残してくれた“記憶”が、俺をここまで導いた。」
光が完全に消え、闇が広がる
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