コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
悠真くんとパジャマパーティー!
大喜びでお気に入りのモコモコパジャマを用意し、シャワーを浴び、準備を整える。
コンビニで買ったレモンサワーでは足りないかもと、ワインを冷蔵庫に入れ、軽くつまめるオードブルを用意する。
冷蔵庫にあった生ハム、チーズ、ピクルス、オリーブ、スモークサーモン。クラッカー、ナッツ、レーズン。チョコレート、クッキー、ポテトスナック。
お皿に並べ、テーブルに置いたところで、チャイムが鳴る。
「!」
まだ少し髪が濡れた悠真くんは、紺色に白のラインで襟や袖が縁取られた少し厚手のパジャマを着ている! その上にダウンベストを着て、そして……シュガーを抱っこしている。
「今晩は、シュガーもお泊りしていいですか?」
「勿論!」
悠真くんはちゃんとシュガーのトイレセットも持参して、部屋に入るとシュガーに、ここでトイレだよ、と教えている。
さらにボトルのシャンパンも持ってきてくれていたので、それは冷蔵にいれ、冷やすことにした。
「わあ、すごい! このおつまみ、今、用意してくれたのですよね?」
「そうです。でも、全部、スライスしたり、並べたりしただけですよ」
「でも、お店でもそっくりなものが、2000円とかで出てきますよね」
私は謙遜しているが、悠真くんは大喜びだ。
それにお店で出てくるものとそっくり、だなんて。
盛り付けがよかったのかな。
そう思っていると、悠真くんが後ろから私を抱きしめる。
「このモコモコパジャマのアリス、とっても可愛いです」
耳元でそんな言葉を囁かれては、もうドキドキが止まらない!
「それになんだか甘い香りがします。……お風呂上りだから?」
そう、その通り!
使っているボディソープとボディクリームが、クッキーみたいに甘い香りがするのです。
「テーブルに並べられたオードブルも美味しいそうですけど。僕からすると、アリスを食べたくなっちゃいます」
遂に力が抜け、床にへたりそうになる。
でも悠真くんはそんな私を支え、椅子に座らせてくれた。
そして自身もニコニコしながら椅子に座り、私に向き合うと、テーブルに用意していたレモンサワーの缶を開ける。グラスに注ぎながら、口を開いた悠真くんは……。
「パジャマパーティー。僕から提案しておいてなんですけど、初めてなんですよね」
「え、そうなのですか?」
「男同士でパジャマパーティーをするイメージ、あります?」
言われてみると……ないかもしれない。
「女友達と男友達でやったこともないのですか?」
「ないですね。大学の飲み会で、部屋飲みに参加したことはありますけど……。服、普通に着ていますしね」
なるほど。
そう言われると……パジャマパーティー、私も女友達としかやったことがない。
「それで提案したものの、パジャマパーティーで何をするのか、まったく分からないのです。ただ、現場で一緒になったアイドルの女の子たちが『今度、リセちゃんの家でパジャマパーティーやろう!』なんて感じで盛り上がっているのを見て、そんなパーティーがあるのかと思ったわけです」
「ということは、パジャマパーティーが何であるか分からないのですね?」
「はい。想像するに、パジャマを着ることは必須なのだろう……と思い、パジャマは着てきました。というか、今日はアリスを抱き枕にするつもりでしたので……。どうせパジャマに着替えるだろうから、丁度いいかな、と思ったのです。そこでパジャマパーティーを提案した、というのもあります」
さりげなくお泊り宣言されていることに、もう全身の血流がよくなり、お風呂上り直後のように熱くなる。
「でもまずは乾杯ですかね、アリス?」
「え、ええ。乾杯しましょう」
ということで、レモンサワーで乾杯する。
チラリと見ると、シュガーは私のベッドで丸くなっていた。
どうやら私の匂いを覚えていてくれたようで、奇跡的に馴染んでくれている。
乾杯の後は、パジャマパーティーはおしゃべりをしたり、映画鑑賞をしたり、ゲームをしたりするということを私が説明すると「ではまず、おしゃべりしましょう」と悠真くんが微笑む。
おしゃべり……となったものの、すぐにさっきのコーヒー事件の振り返りとなった。
「なるほど。駅まで来ていた野堀という女性が、今日のコーヒーかけ女と同一なんですね。言っている内容から、もしかしてそうかな、とは思いましたが……。完全にストーカーだと思いますけど。……やはり今から警察、行きますか?」
それは……そうした方がいいのかなと思いつつ、今はこうやってパジャマパーティーモードになっている。それにあの場で「警察に行きますか」「あなたの行為はストーカーも同然」と言われているのだ。少しは反省し、行動を自粛してくれる……と期待し、ひとまず今日は警察に行くつもりはないことを伝える。
野堀もそうだけど、気になるのは動画男だ。
念のため、動画がアップされていないか、スマホで確認しようとすると……。
「アリス。さっきも言った通りですから。もし動画がアップされても、僕は何も恥じることはないと思っています。それは気にしないでください」
そう言って悠真くんは、スマホをとろうとする私に、椅子に座るように言った。さらに。
「実はマネージャーから、引っ越しを提案されています」
「え、引っ越し……?」
「二人で暮らせる2LDKの、駅前でセキュリティーがしっかりしている都内の物件を、見つけてくれたんです。今回がいい機会だと思います。そこに、引っ越しませんか? そこはコンシュルジュもいて、警備員もいます。駅には地下の通路で直結していますが、そこの出入りは住民しか使えず、防犯カメラも設置されています」
これにはもう驚いてしまう。
駅まで野堀が来たことを話すと、一緒に暮らすことを悠真くんは提案してくれた。きっとその後、マネージャーさんに相談してくれたのだろう。そして本当に、物件を見つけてくれた……!
しかも二人で暮らせる部屋を探してくれたということは、悠真くんと私の交際は、本当に事務所公認なのでは……?
ドキドキしながら確認する。
「マネージャーさんは……事務所は、悠真と私の交際を全面的に認め、サポートしてくれるということですか?」
改めて確認すると悠真くんは「そうです」と頷く。
「僕、本当に、アリスのことが好きなんです。アリスと付き合えるなら、事務所辞めて、芸能活動も辞退するつもりでいました。それをマネージャーと事務所に伝えたら……。そこまで本気なら、その……結婚してくれと言われました」
これにはもう驚きを通り越して、声が出ない。
「それはさすがに急過ぎると思いました。でも……僕、それでもいいかなと思っています。ですから結婚を前提に、僕と引っ越しをして、一緒に暮らしませんか?」
あまりの急展開。
これが現実とは思えない。
「本当はこーゆうの、夜景の綺麗なレストランとかで言った方がいいこと、分かっています。それは別途、機会をもうけますね。ただ、今日はあんな事件もあったので……。パジャマパーティーの場で話すことではなかったかもしれないのですが、伝えてしまいました」
な、何か言わなければと思っても。
口をパクパクさせるのでせいいっぱい。
「大丈夫です。いろいろ考える必要もあると思います。すぐにではなくてもいいですよ。マネージャーさんが見つけた物件も、そこじゃなきゃダメというわけではないので。それに部屋数の多いタワーマンションで、賃料もそれなりにするそうですから。空きはまた出るでしょう」
そんなすごいところに住めるんだ。
いや、賃料。
それって事務所持ちなのかな?
私も払うよね?
「家賃とか生活費とかどうするの……?と思っていると思います。家賃は事務所持ちですから大丈夫です。後のお金は……調整しましょう。僕もアリスも仕事をしていますから。僕がすべて出します、だと、アリスは絶対、自分も!ってなりそうですから」
既に悠真くんは私という人間をよく分かっている!
「ともかく今晩は。いろいろあったことを忘れ、パジャマパーティーを楽しみましょう」
そう言うと、まるでレモンサワーのCMのように、グラスを掲げ、私にウィンクした。