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乾杯の後は、動画配信でオムニバス映画の1話分を見ながら、オードブルをつまんだ。悠真くんと映画を観るのは、これが二度目。一度目は自身の出演作。今回は海外の映画だ。私とおしゃべりし、生ハムを食べながらと、完全にオフモードだけど……。
映像を観る時はとても真剣。尋ねると台詞の言い方や間のとり方、視線の動きなど、演技を見ているのだと言う。そんな見方をするようになったのは、ここ一年ぐらいだが、「あ、ここ完全に演技だな」とか「ここはかなり感情移入している」とか、そんな区別がつくようになったというのだから……。悠真くんはすごい!
「でも正直、演技はバッチリ頭に入って来ても、ストーリーが複雑だったりすると、理解が置いてきぼりになっちゃうんです。だから気になる映画は何度か見直すことが多くて……。少し非効率にも感じます。原作があると、特に漫画があると、それを流し読みしてストーリーを理解することもありますね。僕なりの時短方法ですが」
そんなことを打ち明けてくれた。
映画の後は、ベッドの上で、トランプで遊んだ。
その後は片付けをして、歯も磨き、BGMで音楽を流しながら、ベッドの上でおしゃべりタイムとなった。
いつでも寝られるように、照明は消し、間接照明をいくつか灯しただけなので、なんだか雰囲気がある。しかもベッドでおしゃべりをするなんて……。
自然とこうなったが、心臓のドキドキは止まらない。
シュガーがいてくれることが唯一の救い(?)に思えた。
「アリス、パジャマパーティー、とても楽しかったです。パジャマを着ているせいか、リラックスできましたし、緊張もしないで済んだというか……。とにかく僕はとても気に入りました。一週間に一回は、アリスとパジャマパーティーをしたいぐらいです」
そう言うと悠真くんは、笑顔でシュガーを撫でている。
「私もとても楽しかったです。何よりパジャマパーティーは……その帰らないでいいじゃないですか。どんなに飲んで酔っ払っても、電車に乗る必要がない。しかも既にお風呂も入り終わっているから、眠くなったら眠れるところが……って、なんだか楽をしようとしているズボラ女子ですね」
すると悠真くんは楽しそうに笑う。
「僕は初対面の時から、スエットやジャージ姿ばかりアリスに見せていて。モデルなのに、ダメダメですよね。対してアリスは、いつもちゃんとした服の時が多いから……。今日みたいなモコモコのパジャマとか、すっぴんとか、すごく新鮮で、とても素朴で。僕はいいと思います。多少のズボラ女子は、僕としてはアリです。僕もズボラ男子な時があると思うので」
「悠真、優しい。その言葉に甘え過ぎないよう、少しでも年上の素敵なお姉さん目指します」
すると悠真くんが腕を伸ばし、ふわりと私を抱き寄せた。
「無理はしなくていいですよ、アリス。自然体のアリスのことが、好きなんですから」
「悠真くん……」
ベッドの上で抱き寄せられているという事実に、もう胸のドキドキが止まらない。
「やっぱり甘くていい香りがします」
そう言った悠真くんは私の首筋に顔を寄せる。
ドキドキしていた心臓は、驚きでもう飛び出しそうになっていた。
「アリスのことが食べたい……」
耳元で甘く囁くと、耳朶や首筋にキスをされ、ぞくぞくとした感覚に襲われる。
「アリス、こっち向いてくれますか」
この状況で悠真くんと正面から向き合って、耐えられる!?
ゆっくり体を動かし、悠真くんと向き合った瞬間。
熱い眼差しを向ける悠真くんの瞳をとらえてしまい、心臓がドクンと大きな音を立てた。
慌てて視線を逸らすと「照れています?」と悠真くんが笑い、両手で頬を包まれる。
「そんな風にされると……なんだか煽られているみたいで、止まらなくなりそうです」
黒い瞳を甘く輝かせ、そんな台詞を言われた私は……。
もう完全に力が抜け、何も考えられない状態になってしまう。
「アリス、大好き……」
ゆっくり悠真くんの唇が重なる。
そして再び、あの展望ソファ席の時と同じ、じれじれキスが始まった。
今度は時間制限などない。
最長記録30秒を超えたい!と、切に願ってしまう。
「あ……」
思わず声が出てしまう。
じれじれキス、自己ベストの30秒が終わった瞬間、悠真くんが私に体重をかけたので、そのままベッドに仰向けで倒れていた。
も、もしや、今日……!
そう思った瞬間に唇が重なり、心臓が爆発しそうになる。
キスはいまだ、唇が重なるだけの、ライトキスしかしていない。
それなのにいきなり……と思っていると、ゆっくり唇がはなれ、悠真くんがベッドに横になった。
しまった! 今、カウントし忘れた!
でも多分、30秒は超えていたかな……?
「アリス……」
ぎゅっと悠真くんが私を抱きしめた。
秒数を気にしている場合ではない!
い、今は目の前の悠真くん!
「アリスのこと食べたいけど、僕、多分、止まらなくなります……。もう朝までずっとアリスのこと食べ続けちゃうと思うんです」
!?
そ、そうなのですか!?
ゆ、悠真くん、それは……。
いや、でもまだ若い。
21歳だもんね。
十代ほどではなくても、多分、きっといろいろ旺盛なんだ……!
「明日の写真集の発売イベント、絶対さぼることはできないから、我慢します」
我慢します……という声は切なさ満点で、私が我慢できない状態に追い込まれている。でも明日、仕事だと自分をコントロールしようとしている悠真くんに、無茶をさせるわけにはいかない。
だから……。
「明日は11時からですよね。10時には現地に着く予定ですか?」
「10時半です。会場が本屋さんで、従業員の休憩スペースぐらいしか待機できる場所がないので、あまり早く来られても困るみたいで。マネージャーさんが車で9時40分頃に迎えに来てくれます」
「なるほど。じゃあ、そろそろ寝た方がいいですね。ちゃんと朝食は用意するので、安心してください」
悠真くんは「ありがとうございます」と私をぎゅっと抱きしめ、そして「アリスの朝食、楽しみです」と笑顔になる。
無邪気な笑顔を見ると、さっきまであんなにじれじれキスを繰り返していたのと同一人物とは思えない。
「では、ちゃんと寝る体勢になりましょう」「はい」
シュガーをクッションに移動させ、掛布団の中に悠真くんと二人、潜り込む。すぐに悠真くんは後ろから私を抱きしめる。
「!」「あっ」
わざとはでないと思う。
でも横になった私の腰に腕を回し、抱き寄せようとして、悠真くんの指がほんの一瞬、胸に触れた。
驚いたが、声を出したのは悠真くんだった。
「ごめんなさい!」
「だ、大丈夫ですよ」
モコモコパジャマの下に、キャミソールとブラが一体化したものを着ていた。よって直接、胸に触れられたわけではないが、それでもドキドキしてしまう。
それにしてもほんの一瞬、触れただけなのに、律儀にあやまってくれるなんて。
真面目だなぁ、悠真くん。
今も不用意に胸に触れてしまって、私と同じぐらいドキドキしているのを、何度も深呼吸して落ち着かせている気配が背中から伝わってくる。
同時に。
告白された時は、一時の気の迷いでは? とか、どうせすぐに別れるつもり、なんて疑ってしまったが。
そんなことは絶対ない。
大切にしてくれる。
そう確信できた。
引っ越し……してもいいかもしれない。
あの野堀が再び現れる可能性もあるし、何より悠真くんの事務所は一緒に住んでいいと認めてくれているのだから……。
でもその引っ越しは、結婚前提。
これはまさに夢物語。
あの青山悠真と結婚前提で同棲なんて……!
胸のドキドキはなかなか静まってくれなかった。