聞き間違いだろうか?
「一つ、エトワール様のメイドを救う方法があります」
ブライトは、そのアメジストの瞳を輝かせてそう口にした。
私の聞き間違えでなければ、メイドを……リュシオルを救う方法があると彼は口にしたのだ。
私は思わず立ち上がってブライトに詰め寄った。
「どういうこと? ブライト!リュシオルを助ける方法があるって本当?」
「は、はい……」
私の圧に押されて、ブライトは頬を引きつらせたが、否定はせずに首を縦に振った。
先ほどまでは、「ない」とか「自然に回復するのを……」と言っていたくせに、どうして今になって言うのだろうか。忘れていたと言うことなのか、それとも……
(考えられるのは、その方法があまり良くない、危ない方法だから?)
思わず、推理ゲームのように頭が働いて、ブライトの言葉に隠された本当の意味を探ろうとしてしまった。だが、何はともあれ、助ける方法があると明言した以上答えてくれるだろう。
(もし、本当にあるのなら、絶対に聞きたいし、どんな方法であっても試す)
勿論、自分の存在が消えてしまう禁忌の魔法を使うわけではないだろうし、それだったら私は遠慮というか、絶対に試さないでおこうと思った。
助けれたとしても皆の記憶から抜けてしまったら、私が彼女を助けたという証も何も残らないだろうから。それに、今ここで消えてしまったら、誰が世界を救うというのだろうか。
そんな風に、私はブライトの次の言葉を待った。
「北の洞くつにどんな毒にも効果がある薬草が生えているです。その存在を思い出して。話を中断してしまい申し訳ありませんでした」
と、ブライトは頭を下げた。
そんな謝ることないのに、寧ろその情報を教えてくれただけでも私にとってはありがたいことだった。
だが、それを良く思っていないリースが「何故だ?」と口を挟む。
「何故、今その情報を口にした?」
確かにそうなのだが、と私はブライトとリースを交互に見た。リースは、「北の洞くつ」という単語を聞いて眉をピクリと動かし、あそこは危険だとでも言うように、顔をしかめた。北の洞くつというところがどういう所か分からないが、リースの態度をみる限り、危険な場所であることには違いないのだろう。
それを踏まえて、私にその情報を与えれば、どうにしてもいきたい。というだろうと、リースは思っての事だと思う。危険な場所に私を連れて行かないでくれと、私のことを思っての発言だったと思う。
だが、そんな情報を知ってしまって、後に引けるわけもなく、いかないわけにもいかず、私はブライトにその話を詳しく話して欲しいと、頼んだ。
ブライトは、リースに睨まれた手前、話して良いのかと困惑していたが、私がお願いと言えば、リースからどんな処罰があるか分からないが……と言った感じに話を再開してくれた。
「この世には、人の力を越えた女神からの贈り物と呼ばれる品がいくつかあります。その中に、『万能薬』が含まれており、それが今からお話しする薬草です。女神からの贈り物は、禁忌にちかい瀕死の人間を全回復させると言われている指輪や、どんな毒にでもきく万能薬など、手に入れにくい場所に散らばっています。未だに、何処にあるか分からないものも多く、その実体と数は知られていません」
と、ブライトは息を吸う。
初めて聞いた単語に、所謂「お助けアイテム」的なものだと私は解釈し、益々気になってしまった。
死者の蘇生や、死が確定した人間を生き返らせる魔法は禁忌と呼ばれているため、誰もやらないが、それをしてくれる指輪があるというのはとても魅力的な話だった。誰もが、欲しいと探し回っていることだろう。だが、そういうアイテムに限って、手に入りにくいというのはあるあるなので、今はその手に入りにくいであろう万能薬の話に戻す。
(でも、公式からそういう話とか無かったんだよね……)
またこれも、エトワールストーリーで追加された要素なのかと、私は全くやっていないストーリーの結末や詳細が気になって仕方なかった。あっちの世界に戻れるわけでもないため、ただ妄想するだけで終わるが。
「その万能薬は、北の洞くつと呼ばれるところにあります。そこは、光の差し込まない洞くつであり、まず光魔法の魔道士は大人数でいかなければその暗さに帰って来れなくなります。ただ、人数をそろえたからと言って万能薬を持って帰ってこれるかと言えばそうではなく、その洞くつには巨大な大蛇が潜んでいるのです」
「大蛇?」
「はい。それこそ、その万能薬でしか治らない毒を持つ大蛇です。大きさも洞くつの天井に届くぐらいで、長さはもっと……」
「その万能薬を守っているみたいな?」
「それはどうか、分かりませんけど。前に調査団がいって帰って来れなくなったという話も聞きましたし、相当強いということだけは分かっています」
と、ブライトは言うと目を細めた。
口にもしたが、まるで番人みたいだなあと思った。もの凄い力を持つアイテムを守護する番人。ゲームでは良くある設定だ。だが、その大蛇を倒したと手、その毒を喰らって万能薬を使ってしまったら……そう考えると、最悪な位置に大蛇というモンスターが置かれていると思った。これが、大蛇ではなくドラゴンや他のモンスターだったとしたら、万能薬を持って帰ってこれるのだろうけど。
どうにしろ、まず洞くつで戦うというのが難しいだろう。とくに、光の差し込まない洞くつの中での先頭は、光魔法の魔道士にとっては。
だからこそ、お勧めできないのだろうと思った。
「凄く、素朴な疑問なんだけど……」
「はい、何でしょうか。答えられる範囲でお答えしますよ」
「その万能薬って光がないのに育つの? ほほら、植物って光合成するから」
そんなどうでもいい質問をしてしまった。単純に気になって仕方がなかったからだ。そんな聞く必要も無い質問にもブライトは嫌な顔一つせずに答えてくれとあ。
「北の洞くつは、魔法石も沢山取れて、その魔法石の魔力を吸って育つんです。勿論、もの凄い量の魔力を吸い取りますが、北の洞くつにはそれこそその万能薬と対をなすぐらいの魔力を持った魔法石があってですね」
「魔法石?」
「はい。魔法石です。魔道具などを作るのに使われる鉱石のことで、魔力を持たない者でもその石を握り込めばその魔法石に蓄積された分の魔力を用いて魔法を使うことが出来るんです」
ブライトはそう言うと「便利ですよね」と私の心を代弁するかのように言った。確かに、便利である。
だが、そんな便利なものが流通していないって言うことは、その魔法石という奴もまたあまり取れないものなのだろう。一般人が魔法を使うより魔道具を作るのに使った方がいいだろうし、市場には出回っていないだろう。
「その魔法石のおかげで、万能薬は育っているのです。ですから、その万能薬と魔法石ほしさに北の洞くつに足を踏み入れるものがいるんですが、洞くつに潜む大蛇に皆やられるか追いやられてしまって」
「そう……」
だから、あまり言いたくなかったんです。とブライトは口にした。
やはりそういう理由があって、先ほどまでその事を言わなかったのだろう。その何でも直せる薬草があること、けれどその薬草を採りに行くのが命がけなことを。いったら絶対に私が行くと思って。
(でも、そんなの聞いたらいくに決まってるじゃん)
大蛇の強さがどれぐらいか分からないけれど、覚醒した魔力をぶち込めば例え闇の中でもそれなりの威力はでるんじゃ無いかと思った。
もし、倒せなかったとしても逃げればいい。アルベドみたいに出来るかは分からないけれど、自分に風魔法を付与して洞くつの外に出ることさえ出来れば勝ちな気がしたのだ。生き残って帰ってきたものがいるということは、その大蛇は洞くつの外には出られないんじゃ無いかと思った。
それに、それが手に入りさえすればリュシオルを助けることが出来る。高価なものだと分かっているけれど、治せない以上その万能薬に頼る敷かないと思った。
「ブライト、私をその北の洞くつにつれて――――」
「ダメだ」
私がそう言いかけたとき、口を挟んだのはリースだった。そのルビーの瞳を釣りあげて、私とブライトを睨み付けていた。
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