タッチパネルで注文を終え、席に座る糸、ヨルコ、嶺杏(れあ)、恋弁(れんか)。
「さてさて。遅くはなりましたが、ヨルコの歓迎会ということで」
「うん」
恋弁が頷き、嶺杏も静かに頷く。
「ありがとう」
「かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
4人でプラスチック製のストローの刺さった紙コップをぶつけ合った。
「いやぁ〜。遅くなっちまいまして。さーせん」
「いやいやいや。こんな歓迎会開いてくれるだけで嬉しいよ」
「なんか親睦会開く開く詐欺してたじゃん?ねぇ?」
嶺杏に寄りかかる糸。
「私に振るなし」
「私とヨルコが放課後あったからね」
「だね」
「しゃーないっしょー。
てかさーシャトラン(シャトルラン)と持久走って両方やる意味あんの?」
「さあ」
「だって両方持久力じゃないの?」
ストローで飲み物を吸った後
「たしかに」
と納得する嶺杏。
「てかさぁ?」
急に話題の方向性を変える糸。ヨルコをまっすぐ見る。
「ん?」
「マジで綺麗なピンクだよねぇ〜」
糸はヨルコの目を覗き込む。ヨルコの瞳は綺麗なピンク色。
その綺麗なピンク色の瞳を守る長いまつ毛も綺麗なピンク色。
糸だけでなく嶺杏(れあ)も恋弁(れんか)も覗き込む。
「「「すごぉ〜…」」」
3人ともヨルコの瞳に吸い込まれるように引き寄せられ、ハッっと我に返り、3人とも元に位置に戻る。
「まつ毛も目も綺麗なピンク色。すごっ」
見られすぎてさすがに照れるヨルコ。
「あ、頬までピンクになった。でへへ」
「キモいわぁ〜」
「辛辣!辛辣だよ?嶺杏ちん」
2人のやり取りに笑うヨルコと恋弁。
「そういえばさ?」
話を振るのは糸。
「恋弁ってさ?なんで恋弁なの?」
めちゃくちゃな質問。
「は?」
嶺杏もノリとかではない本気の辛辣半分、呆れ半分くらいの表情を糸に向ける。
「え。どゆこと?」
恋弁も「?」である。ヨルコもキョトン顔。
「ごめんごめん。言葉足らずだった」
「そりゃそうだ」
「あのぉ〜。名前。漢字!そう!漢字!恋弁(れんか)って花弁(かべん)で花弁じゃん?」
「花弁(はなびら)ね」
嶺杏が教えてあげる。
「え。あれで花弁(はなびら)なの?」
嶺杏に体を寄せて小声で聞く糸。
「そ。ほら、一片とか言わん?」
「言う言う」
「そのペンがそれ」
「ほえぇ〜。嶺杏ちん博学ぅ〜」
「花弁(はなびら)くらい常識ぃー」
という2人に
一片のペンは弁ではないんだよなぁ〜
と思うヨルコと恋弁。
「あ!で、そう!恋弁(れんか)って読み方…できんのか。私が知らんだけで」
と話を戻した糸だったが自信がなくなる。
「いや、読めないよ」
「読めないんだ?」
「読めない…よね」
嶺杏も不思議そうな顔をする。ヨルコも頷く。
「お父さんがつけてくれた名前なんだけどね?お父さんバカだから花弁をかべんって読んでたんだって」
「あぁ、どっかの誰かさんみたいにね」
と半笑いで横の糸を見る。
「おい!まあ、事実だけども!」
とハッっと気づき
「あ、ごめん!そんなつもりはないんだけどね?」
と即座に謝る恋弁。
「謝んなくていいよ。事実だし」
なぜか嶺杏が言う。
「それ私のセリフじゃね?」
と言う糸に笑うヨルコと花弁。
「でね?ずっと花弁(はなびら)をかべんって読んでたお父さんが、私ができてから名前考えて
お父さんはお父さんで、お母さんはお母さんで考えてて、花弁(かべん)って読んでたら、なにを勘違いしたのか
弁を「か」って読むもんだって勘違いして、恋(れん)と勘違いの読み方の弁(か)で恋弁(れんか)。
で、お母さんもお母さんで花弁(はなびら)っていう字で
1枚の花がたくさん合わさって1輪の花になるように、1枚の花弁でも輝くように
花弁(はなびら)の数え方、枚(まい)と舞うをかけて、花弁(まいか)っていう名前にしたかったらしくて
2人同時に発表したら同じ漢字が使われてるわ、2人とも読めないわで大爆笑。
で、お母さんの意味も込めたお父さんの案が採用ってなったわけ」
「へぇ〜。愛されてるぅ〜」
「まあ、たしかに愛されてはいるね」
「ちなみに嶺杏(れあ)ちんは〜?名前の由来とか〜」
嶺杏に寄りかかる糸。
「別に?特段変わった由来はないよ」
「どんなどんなぁ〜?」
「嶺(みね)、何事も頂点に立ってほしいっていうのと、ママの名前の杏がついてるだけ。
なんか杏(あんず)ってバラ科なんだって。だから美しさでも頂点を取って…ほしい…みたいな」
言ってて照れ臭くなる嶺杏。
「美しいもんねぇ〜?嶺杏ちんは」
「うるさ」
と言いながら照れ隠しに飲み物をストローから吸う嶺杏。
「そーゆー糸はどうなの?」
恋弁が糸に振る。
「わっち?わっちはねぇ〜」
「一人称よ」
「わっちはねぇ〜人と人を繋ぐ〜糸のように〜。
ほらぁ〜赤い糸とか〜言うじゃなぁ〜い?あと有名な曲もあるじゃなぁ〜い?
あぁ〜かい糸はぁ〜ってやつぅ〜」
「喋り方よ」
「でもいい由来だね」
「まあ、たしかに」
「ありがとぉ〜」
「みんないい名前の由来でいい名前だね」
ヨルコがまとめる。
「ヨルコは?…あれ。フルネームなんだっけ?イサ…?」
「イサ・ヨルコ・ジェエノンです。よろしくお願いします」
「あぁ。これはご丁寧に。よろしくお願いします」
改めて自己紹介を受ける糸。
「私は特に意味はないかな。親の系統を受け継いでる…的な?」
「おぉ。伝統だ」
「おぉ。伝統って言葉は知ってた」
「ねえ、嶺杏ちん?あまりにバカにしすぎじゃない?私だってさすがに伝統って言葉くらい知ってるよ?」
「ちなみにヨルコは英語と日本語以外に喋れる言語ある?」
「無視?ねえ、無視?」
「一応いろんな言葉喋れるよ」
「ヨルコも無視!?」
「すご」
「恋弁も!?」
と糸が言ったところでヨルコが吹き出し、恋弁も吹き出し、嶺杏も吹き出す。糸も笑い、4人で笑った。
「あぁ〜ウケる」
「最高です」
「ちなみに「めちゃくちゃ笑った」ってフランス語でなんて言うの?」
嶺杏が振る。
「C’était très intéressant.」
「イタリア語では?」
糸が振る。
「È stato molto interessante.」
「韓国語では?」
恋弁も振る。
「매우 재미있었습니다.」
「おぉ〜…。合ってるのかわからん」
「それな」
たしかに、よく「何語話せる?」とかいう話になって
「何語話せる」「じゃあ何語話して」なんていう会話があるが、それが正解か否かはわからないものである。
「でもすごいね。何ヶ国語話せるの?」
「何ヶ国語…わかんない」
「エリートじゃん。なんでうち(猫井戸高校)来たの?
そんな頭良かったらサクオカ(桜ノ丘高等学校の略称)でもトップレベルなんじゃない?」
「そんなことないよ。あとあそこ割と堅苦しいイメージあってさ?」
「あぁ〜、わかる。サクオカの生徒イメージ悪い。イメージ悪いっていうか」
「感じ悪い?」
糸の思いを代弁する嶺杏。
「それ!なんか「我々、頭いいんで!キリッ」みたいな」
「まあ、わかる…なぁ〜」
「そうじゃない子もいるけどね」
恋弁が入ってくる。
「そうなん?」
「私の友達でサクオカ行った子いるんだけど」
「エリートじゃん。すご」
「まあ、頭は良かったけどサクオカでは最下層らしい」
「そうなんだ?」
「そ。で、最下層のメンバーは良い子多いらしいよ。ま、良い子っていうか、それこそ”感じの“良い子」
「友達になれる感じの?」
「そうそう。友達になれると思うよ。あと、サクオカのトップの人たちも感じ良いらしい」
「へぇ〜。エリート中のエリートになるとそうなんか」
「うん。なんか中層が感じ悪いらしい。下層には上からで、上層には劣等感抱いてるらしいから」
「そうなんだ。頭良いと頭良いで大変なんだなぁ〜」
「バカでよかったね」
嶺杏がフライドポテトを食べながら言う。
「はぁ〜?まあぁ〜?バカなのは否定しないけどぉ〜?この…」
と言いながら嶺杏の太ももに頭を乗せ寝転がる糸。
「お詫びに膝枕してもらうから」
「なんだそれ。てかここでやんな。お行儀の悪い」
「あ、すいません」
と座る糸。
「嶺杏(れあ)ちんの太ももは格別なのだよぉ〜」
わざとらしくニヤニヤする糸。
「…っ(ジュルリ)あ、やべっ。マジでヨダレ出た」
わざとらしくニヤニヤしたら本当にヨダレが垂れそうで慌てる糸。
「変態ジジイが」
「ねえ、せめてババアにして?」
なんていう糸と嶺杏のやり取りが定番化しつつあった。
「それにしてもさぁ〜?」
「ん?」
糸が見つめてくるのでヨルコは飲み物をストローで飲みながら「?」顔である。
「あぁ!可愛い!今の「ん?」の顔!」
わざとらしく撃ち抜かれたように背もたれに寄りかかる糸。
「あぁ!天使のようだ」
「っ!…ゲホ、ケホケホケホ」
ヨルコは咽せた。
「おぉ。大丈夫?」
恋弁がヨルコの背中をさする。
「糸がおっさん臭いこと言うから」
「え。ごめんねヨルコ。あとせめておばさんにして?嶺杏ちん」
「大丈夫大丈夫!照れくさいこと言われて動揺しただけ」
「あらそお?」
「ヨルコー。糸が調子乗るから」
「ヨルコちゃんマジ天使!私に天使が舞い降り」
「でも糸の天使も言い得て妙かも。声も綺麗だもんなぁ〜」
嶺杏が糸の言葉に被せるように言って、頬杖をつきながらヨルコを見る。
「そ、そんなことないよ。やめてよ、嶺杏まで」
恋弁(れんか)もヨルコの匂いを嗅ぐ。
「フェロモンもすごいよ」
「恋弁もやめてよ」
「これは糸が男になるのも納得か」
「ねえ嶺杏ちん?男にはなってないからね?あんな汚い棒ついてないからね」
「え。汚い棒って見たことあんの?」
「え?え?あ!え、ないですけどぉ〜?」
なんていう話から軽いエグい下ネタトークになり、みんなで楽しく話しているといい時間になったので
「よし。行きますか」
「帰りましょ」
「ですね」
ということでトレイに乗ったゴミをゴミ箱へと片付けてワク・デイジーを出た。
「楽しかたー!」
「まあ、悪くないよね」
「もお!嶺杏ちん!ツンデレさんなんだから」
「くっつくなくっつくな」
「仲良いね」
「あぁ〜私もC組がよかったなぁ〜」
「そうだね。私も恋弁と同じクラスがよかった」
と全員が一気に仲良くなったヨルコの歓迎会、4人の親睦会は幕を閉じ、夕暮れの中、全員家へと帰った。
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