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重みを感じて目を開ける。視界には見たことのない肌色がある。体が動かない。何か巻き付いているよう。上を向くとハンクの顔がある。寝ている、寝顔を見るのは初めてだわ。それでも眉間に皺がある。昨夜ハンクは抱き込んだまま私と眠った。寝坊した?ならソーマが起こしに来るはず。カイランはまだ帰ってない。嬉しい、こんな朝を迎えたかった。目の前の胸に頬を寄せハンクの鼓動を聞く。ゆっくり動いて一定の拍子で耳に聞こえる。もう少しこのまま。
「起きたか」
掠れたハンクの声が上から聞こえた。私は答えず、もう少しこのままと動かない。ハンクも何も言わない。私の好きなようにさせてくれてる。でもさすがにお腹が空いたわ。その時、目の前のお腹から空腹を知らせる音が鳴る。私はつい笑ってしまい、顔を上げた。
「起きました。おはようございます」
「ああ、風呂か朝食か」
私は微笑み、閣下は?と聞くと、朝食と答えた。それなら朝食、と寝室に運んでもらうことにした。二人で寝台に座り朝食を食べる。ハンクが服を着るのが面倒と言ってそうなった。盆に載せた朝食をハンクが寝室の扉まで取りに行き運んでくれる。私もお腹が空いていたので全て食べた。それからお風呂に入る。すでに湯が張られていた。昨日の残りのゼラニウムがあることを思い出したが朝はやめておこうと花は散らさなかった。二人で昨日のように浴槽に入る。ハンクの膝に乗り胸に頭を預け満たされる。後ろから大きな手が回り下腹を撫でる。実るといい、ここにハンクの子が欲しい。男の子でも女の子でもどちらも欲しい。もうカイランはどうでもいい。あの頃は傷つけたかったけど、もう私を煩わせる存在ではない。子ができてハンクとこうしていられなくても、この日々を思い出せば生きていける。ソーマが扉を鳴らすまで一緒にいて欲しい。ハンクは私の髪に湯をかける。昨日は洗えなかったから洗おうとしてくれている。軽く頭を揉みながら湯をかけ、すいている。石鹸を手に取り泡立て髪につけ優しく洗う。手が大きいから洗うのも早い。上から湯をかけられ泡を流す。きもちよかったけどジュノのほうが上手。次は私が洗おうと石鹸を手に取り泡立てる。体を回しハンクと向かい合う。座っていると手が疲れるからハンクの足を膝で跨ぎ頭を洗う。ジュノがしてくれるように頭皮を揉みながら優しく洗う。ハンクはずっと私を見つめていた。
「目を閉じてください」
素直に聞いてくれる。湯を桶に入れ頭からかける。何度も繰り返して泡を流す。誰かの頭を洗うのは初めてしたけどなかなか上手にできたわ。私は満足で一杯だった。ハンクの濡れた髪を後ろに撫で付ける。長い腕が私を抱き締め体がくっついた。私の胸にハンクの顔が埋まる。私は眼下に見える濃い紺色を何度も撫でる。ハンクは動かない。朝、私がしたみたいに鼓動を聞いているのかもしれない。私も飽きるまで撫でる。時々白髪を見つけるけど言わない。ハンクは胸に吸い付き赤い跡を付けている。何個も付ける。顔を離すと胸の真ん中に点々と赤くある。
「ありがとうございます」
私は微笑みハンクを見下ろす。またハンクは胸に耳を当て抱き締める。湯が温くなった頃、漸くハンクは立ち上がる。綺麗な湯を頭からかけ泡を流す。布で私を拭き私もハンクを拭いた。私の髪は長いから拭くのに時間がかかる。ジュノに来てもらおうかと思っていたらハンクが新しい布を手にして優しく拭きはじめる。香油を渡すと髪に塗り込みまた拭きはじめ時間をかけて乾かしてくれた。大変な作業だけどハンクは何も言わなかった。ハンクの髪にも少し香油をつけ後ろに撫で付ける。二人とも裸のまま過ごした。お風呂に入っている間に寝台は綺麗になっていて掛け布も新しい。ハンクは私を抱き上げ寝台に連れていく。朝のように二人で横になり浴室でしたように私の胸にハンクの顔がある。ハンクの頭を抱き込み撫でる。私と同じ匂いがする。まだこうしていられる?聞きたいけど聞かない。ハンクは私の背中に腕を回し抱き締める。
「幸せだな」
この時の私の歓喜は何にも例えられない。堪えていた涙が溢れる。
「はい」
ハンクもこの瞬間、幸せを感じてくれてる。小さな幸せでもいい。私と大きさが違っていてもいい。私達は扉が鳴るまで抱き合っていた。
扉が叩かれ終わりを知らせる。離れがたいが仕方ない。体を離し口を合わせる。小さな舌を入れてきたから絡ませ合う。自分の唾液を流し、飲み込むのを感じ満足する。下に移動し秘所近くの太ももを持ち上げ吸い付く。赤く残し柔らかい肌にゆっくり歯をたて跡をつける。そこで漸く離れる。手伝われ服を着込む。こちらも手伝う。背中の留め具を付けてやり、項が目についたから吸い付く。頭を撫で、今夜またくると告げると嬉しそうに微笑む。寝室の扉を開け一人で居室に入る。
ソーマを連れ人払いの済んでる廊下を歩く。執務室に入りソファに座る。
「どこにいる?」
ソーマが紅茶を入れて差し出す。
「半時程で着かれます」
あまり足止めは出来なかったか。雨はあれが寝てる間に止んだ。朝まで降ればいいものを。俺の子ができたと知ったとき奴がどう出るかで消すしかないな。あれでも息子だ、選択肢は残してやる。
「戻られましたらすぐこちらへ?」
「いい。休ませろ」
奴の顔を見る気分ではない。
ソーマは王宮から届いた手紙をハンクに渡す。主は蝋を割り手紙を読み握り潰して捨てた。読んでも?とソーマが問うと手を振り答える。手紙を拾い皺を伸ばす、“近日中に忍んで行くから。D”と書いてあった。来たら教えろと主は告げ書類を捲る。
「お帰りなさいませ。カイラン様」
多少疲れを見せるカイラン様に旦那様への報告は休憩の後、書類にまとめ渡すよう伝える。
「新しい馬車を手配できず申し訳ありません。報せを聞きお迎えにあがろうといていたのですが雨が強く途中、泥濘に車輪がはまりまして」
カイランは頷き、騎士に聞いたよと話す。
「宿の方は快適でございましたか?不便などもなく」
「ああ、特別室が空いていてね、困ることはなかったよ。心配かけたね」
ソーマはただ頷く。カイランは自室に向かい歩き出す。トニーは黙してその後ろを付いていった。ソーマは御者の元へ行き話しかける。
「ご苦労だったね」
御者は首を振り、いいえと答える。
「会談が早く終わりましてね、ディーターのお方に見られたかもしれません」
ソーマは頷き、気にするなと伝える。ディーゼルが妹夫婦を気にかけ、カイランと話をしていたと報告があがっていた。主はディーゼルに手を出すなと伝えたから何かを察してはくれるだろう。あの方はしっかりしている。次期侯爵として動くだろうと主は気にしていなかった。
カイランは執務室で悩んでいた。キャスリンに戻ったことを伝えに行ってもいいのか会ってくれるのか。出迎えには来てくれなかった。夕食まで待つか数部屋先に行くか。
「キャスリンに帰ってきたこと伝えた方がいいかな」
トニーに聞いてみる。
「では、私が御伺いをしてきましょうか」
行ってもいいか聞いてもらうかと頼むとトニーに答える。トニーはいくらもしないうちに戻ってくる。
「昼寝をしているようで、起こしてもらいますか」
カイランは首を振り、そこまでしなくていいと伝える。夕食で会える。その後話せばいいんだとトニーに呟く。
いつものように静寂の中食事が進む。キャスリンも黙々と食べている。父上は相変わらずよく食べる。これで体調不良など疑問に思うけど父上ならば周りに弱味など見せない。キャスリンは王宮の夜会に参加するだろう。しないとは聞いてない。そこではしっかりエスコートしなくては。もう側から離れない。
食後に給仕が紅茶を入れてくれる。父上は早々に退室していった。キャスリンも飲み終わってしまう。
「キャスリン、王宮の夜会に着るドレスは決めてある?」
キャスリンは笑顔で、あるわと答える。
「僕が贈ってもいいかな」
「もう日がないのよ?間に合わないわ」
キャスリンは最後の一口を飲み器を置く。
「僕が話すよ、間に合わせる。揃いの衣装にしないか?」
キャスリンは困り顔になってしまった。マダム・オブレはもう無理でも他にも店はある。金を多く出せばできるだろう。
「以前マダム・オブレに頼んだでしょう?その時に数着頼んであるの。その中から決めるわ。他の店だと採寸して型紙を始めから作るのよ?間に合わないわ。来年の夜会では揃いで作りましょう?」
マダム・オブレにはキャスリンの型紙がすでにあるからな。他の店では無理か。来年の夜会…仕方ないな。早く動かなかった僕の落ち度だ。
「そうだね、そうしようか。何色にしたんだい?」
キャスリンは僕を見つめ黙ってしまった。久しぶりに目が合う。以前はこうして話せていた。戻りたいんだ。普通に会話をして笑い合いたい。
「ふふ、秘密よ。当日に見て確かめてね」
キャスリンは笑顔で可愛いことを言う。僕も自然と微笑み、楽しみだと答える。こうやって少しずつでいいから寄り添って共に生きていきたい。キャスリンもきっとそう思ってる。怒っても今さらディーターには帰れないのだから。僕の妻でいるしかない。