「夜神くんは、どう思いますか?」
漆黒――その2文字が浮かぶ、黒い目を夜神月に向けてくる流河旱樹。……と言っても、流河旱樹。これは偽名であり、その正体はLだと彼は述べてきた。顔すらも謎に包まれているLであるが、僕の直感的は彼がLだと。そう告げてきた。と言っても、真実は定かでは無い。
「何がだ。」
上記な考え事をしていて、半ば聞いていなかった流河の話に、目をふせながら疑問をぶつける。一体どんな話をしていたか?優秀な頭脳を持っていようが、持っていなかろうが。聞いていなかった話を、思い出せる訳がなかった。
「話を聞いてなかったんですか?」
「キラの事です。」
今更どうして、なんでキラの事を ――?キラである僕自身としては、否定派なわけが無い。だが、夜神総一郎……しかもキラ日本捜査本部局長の息子である僕としては、これは……こう答えるべきだろう。
「勿論、キラは悪だ。いくら犯罪者であれ、到底許される行為じゃない。流河はそう思わないのか?」
「にしても、まだ僕をキラだと疑っているんだな。」
「ずっとそう言ってるでしょう?私は夜神くんをキラだと思っています。」
「はは、それもそうだ。」
苦笑いをしながら、コーヒーを飲む。それを皮切りに、静寂の時は訪れる。静かになった周りによって、環境音がより一層大きく聞こえる。どこか儚くて、それでいて聞き心地の良い――
「……夜神くん。貴方は――キラですか?」
ドキリ、心臓が鳴る。キラのことを聞いてきては、キラの正体を探ろうとするL。Lは僕がキラであると確信している。だが、Lは知っているはずだ。僕がキラならば、絶対にボロを出さない――と。だと言うのに、今更そんなことを言うLは一体馬鹿なのか?世界の切り札とも言われるLが、今更そんなことを言うなんて。
「またそんな事を。言ってるだろう?僕は、キラじゃない。」
「……そうですか。」
普段と変わらない様子でそう言うLに、まるで僕だけが振り回されているような気分になる。僕が負けず嫌いというのは、最近にして自覚して来た。ここで絶対に反発しない方がいい。そう思っているのに。此奴に対しては、負けたくない――勝ちたい。
「……でも、ああ、そうだな。キラは僕だ。」
「諦めましたか?キラ。では、この場で捕まえましょうか。」
お前は、自分の事をまるで独裁者だと、新世界の神より上だと考えているようだ。……ふとそう思うと、謎に落ち着かない。独裁者の座に座るのは、お前じゃない。……必ず、キラだ。待っていろよ、L。
「……冗談だよ。僕がキラなわけだろう。」
「そうですか、残念です。」
「本当に。」
嗜めるように言うその言葉。こいつが、もし、自分のことを神だと豪語するのであれば……僕は反逆者になってやろう。Lの白いよれたシャツを掴み、こちらへと引き寄せる。つくえが大きい音を鳴らしながら、夜神月は、その時Lの頬に接吻をした。
「……どういう目論見ですか?夜神くん。いえ、キラ。」
「言ってるだろう?僕はキラじゃない。」
「では、先程のは?」
「親愛や尊敬の意だよ。他意は無い。」
「そうですか。……では。」
Lは僕の袖を掴み返したかと思うと、口周りを手で拭う。少し驚き、瞬きを2度繰り返すと、唇に柔らかい感触がある。3度目の瞬き。目を開けるとLと目が合い、物凄く頬が熱くなるのを感じる。未だ状況を飲み込めないまま、呆けた声を漏らす。
「……流河?」
「夜神くんが、私は此処で最期だと言うので。」
「どういう事かは、自分で考えてください。他人に頼ってばかり居れば、Lは必ずキラに勝ちます。」
「……僕はキラじゃない。」
「ええ、それもそうですね。」
また手に取ったコーヒーに、気分で角砂糖を1つ入れる。ああ ――甘い。